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意識?



「先輩! どういうことですか! 朝のこと!」


時間はお昼。当たり前のように俺の教室に来た火野村先輩に問いただした。よりによって日向だぞ! なら俺が狙われた方がいい。

でも、先輩は朝と同じように微笑む。


「ちゃんと考えがあるわ。だから心配しなくていいわよ」


こうですよ。ずっと! 戦うのは俺だ。その考えを聞かないと動きようがない。礼装は壊れたんだ。だから俺に出来ることは限られてる。事前に教えてくれないと失敗するのは目に見えてるじゃないか。なのに、なんで・・・・・・。


「先輩!」

「ねぇ、春。私の願い覚えてる?」

「願い・・・・・・。信じろってやつですか? 覚えてますよ。昨日のことですし。でも、それとこれとは話が違うじゃないですか!」

「私を信じて。必ず助けるわ。だからあなたはあなたの思うことをすればいいの」


それが分からないって言ってるんですよ! 俺の思うことってなんだ? 早乙女先輩を止めるって? ああ、確かにやりたいことだ。でも、礼装がない。力がない。どうやっても勝てるはずがない。殺されるのがオチだ。

可能性があるとしたら、それは・・・・・・。


「先輩、俺を悪魔に出来ますか?」


これしかない。悪魔になって、礼装なしで魔法を使えるようになって戦う。それなら少なくとも今よりはマシに戦える。でも────


「出来ないわ。存在を書き換えるなんてことが出来るとしたら、それは悪魔じゃなくて神ね。私の使える魔法じゃ絶対に無理よ」


やっぱり無理らしい。じゃあどうするかって話だ。今から礼装を買い直したって遅い。徹夜明けの俺の体じゃ馴染ませるのは絶対無理。

俺のやらなきゃいけないこと・・・・・・。


「分かりました。いや、何にも分かりませんけど。先輩のことを信じますから。先輩も────」

「ええ。いつだって信じてるわ。だからあなたは何も考えないでやりなさい」

「はい!」


結局何も分からなかった。でも、信じろって言われたんだ。信じてやるさ。何があってもな。


「ふふふ。じゃあ、私は用事があるから行くわね」

「用事ですか? 分かりました。明日、よろしくお願いします」


手を振って教室を出てく火野村先輩を頭を下げて見送った。さて、俺は何をやろうか。準備をしないで明日を迎えるなんてことはしたくない。

席に着いて考え込む俺に白泉が近づいてきた。


「なあ、桂木。お前、火野村先輩が悪魔だって知ってたのか?」

「つい一昨日にだけどな。でも、悪い人じゃないし大丈夫だぞ」

「そういう問題じゃないだろ! 悪魔だぞ! 沢山人間を殺した。あの日を忘れたのか!?」


白泉が怒気を孕んだ声を張り上げる。あの日・・・・・・? 多分空襲のことだ。さっきも聞かれたっけ? そういえば。

ハッキリ言って、今の今まで忘れてた。自分でも不思議なくらいに。でも、思い出したからと言って悪魔を憎むなんて思いを持ったわけじゃない。

つい最近までは理由も分からずに許さないって意気込んでたのに。不思議だ。


「悪い。分かんないや。でも、その空襲は火野村先輩が悪いわけじゃないだろ。悪魔だからって毛嫌いしても何も変わらない。憎みあっててもつまらないだろ? だったら互いに良いところを見つけようとした方がいいんじゃないか、って俺は思うよ。」

「お前・・・・・・」

「人間だって人を殺す。悪魔と何も変わらないだろ。いい人もいれば悪い人もいる。ただそれだけ」

「・・・・・・ふざけるなよ。人間と悪魔が変わらない? じゃあ人間は人を殺して笑うのかよ! 死体を見て小馬鹿に出来るのかよ! 少なくとも俺の知ってる人間はそんなことしない。だから悪魔とは違う! 悪魔は俺達を餌かなんかだと思ってやがる。殺さなきゃいけないんだ!」

「そう。なら、勝手にやってろ。俺は火野村先輩を信じる。お前が火野村先輩を憎んで戦うなら、俺はお前を止めるために戦ってやるよ」


俺はそう言い残して教室を出た。俺も少し前まではああだったって考えると恐ろしいな。敵と味方がはっきりしすぎてる。嬉しいことではあるんだけど、一歩間違えたら殺される。あぁ、怖っ。







結局、午後の授業をサボって公園で寝ることにした。今更教室になんか戻れない。あんなこと言い切ったら完全に敵対対象だからな。なんで唯一の男友達裏切ってまで火野村先輩を信じようなんて思えたんだが・・・・・・。外見か?


「これからどうするかな」

「うーん。折角サボったんだからゲームセンターにでも行く?」

「あー。それもいいな。最後の晩餐って感じで・・・・・・。えっ?」

「ん?」

「なんでいるの?」


俺が寝そべっているベンチの後ろに日向がいた。日向の手には鞄が2つ。俺のと日向のだ。わざわざ持ってきたのか。


「えへへ、サボっちゃった。最後だからね、ちょっと悪いことしたかったんだ」


そう言って笑う日向。最後って。こいつ、明日死ぬと思ってんのか。当たり前といえば当たり前だけど、流石に悔しくなるな。絶対勝てないと思われてるんだから。


「明日、桜に怒られるぞ。ただでさえ成績悪くて怒られてるんだからな」

「それは春くんも一緒だよ・・・・・・。それどころか皆にも喧嘩売るようなこと言ってるし。明日から大変だね」

「俺は明日からサボるから。不良になります。だから怒られません」

「そしたら桜ちゃんが家に乗り込んできそうだよね。真面目にやりなさい! って」

「確かに言いそうだ。そして引きずってでも学校に連れてかれるんだろうな」


日向と一緒に笑い合う。そういえば、ずっと前にもこんなことがあった気がする。てか、こんなこと沢山あり過ぎるな。俺がグれる度に日向と2人で話してたような・・・・・・。


「ありがとな」

「うん? なんで? 春くんにお礼言われるようなことしたかな?」

「ずっと前からいてくれてさ。日向がいなかったら絶対グレてたから」

「そうかなー。桜ちゃんが何とかしてたと思うよ。こう、しっかりしてください! って」


手をビンタする様に振って桜の真似をする日向。実際にやりそうだから困る。普段は大人しいけど怒ると見境ないならな、桜は。


「そういうことじゃなくて。こうやって普通に話してくれてってこと。昔から切れるとおかしくなってだろ? 俺」

「ははは、自分で言っちゃうんだね」

「あんだけ暴れたら流石に自覚ぐらいするよ。桜を何回泣かせたんだか・・・・・・」

「分かってるなら止めようよ。そろそろ本当に泣いちゃうから」

「今は全然普通だろ。喧嘩とかしてないし」

「さっき喧嘩売ってたけどね。しかも白泉くんに。また男の子から嫌われちゃうよ」

「余計なお世話だ」


その話を持ち出されると何も言えなくなる。てか自覚してるし。また教室の片隅で1人で弁当つつく生活に戻るだけ。もう慣れたことだ。

日向の顔が急に真面目なものに変化する。


「余計でも、近くにいてお世話するよ。何回断られても、ずっと傍にいるから」

「はいはい、分かってますよ。頼まれたんだろ? 父さん達に」

「うん。でも、おじさんだけじゃなくて。凪ちゃんにも頼まれたんだもん。約束したもん。春くんを守るって」


凪・・・・・・。凪姉・・・・・・。結局夢で見た所しか思い出せなかった。その人とどんな風に過ごしたのか。どんな話をしたのか。全く分からない。

夢で見た限りだと、いい人って感じか? 優しそうではあったけど。


「なあ。凪姉って、どんな人だったんだ?」

「凪ちゃんはね、優しい人だったよ。皆が怖がってた春くんに近づいてね。一緒に遊んでたんだ。それから私達も混ざって。皆で色んな所に行ったんだよ。えへへ、楽しかったなぁ」


懐かしむように目を細める日向。つまり、俺と日向達を繋げた人? 日向の話を聞いてるとリーダーシップもあるみたいだ。ていうより、アグレッシブな女の子らしい。


「────だからね。ずっと、私の憧れだったんだ。可愛くて、いつも笑ってて、皆に愛されてた。いつか、凪ちゃんみたいになりたいってずっと思ってた」

「ふーん。じゃあ、良かったな」

「へっ? なんで?」

「話を聞いた限りじゃ、今の日向にそっくりだ。いつも笑ってて可愛いとか」

「可愛い!?」

「回りがそう言ってるんだから可愛いんだろ、きっと。俺には分かんないけどさ」

「あ、ああ! そういうこと! てっきり春くんが褒めてくれたのかと思ったよー。うぅ、恥ずかしかった」


日向が手を仰いで照れ笑いした。なんかちょっと面白い。普段はあんまり見ないからな。日向の照れた顔なんて。


「日向は可愛い方だろ、実際。告白されてるし」

「えー。それ続けるの。恥ずかしいならやめてよぉ!」


顔を真っ赤にして両手を振る日向。やっぱり面白い。当然続行です。


「もし、幼馴染みじゃなかったら俺だって告白してたかもな。絶対振られるだろうが」

「えっ・・・・・・」

「そして周りの男子と同じように誰かを妬んでたりして。ははは、そうなったら面白いな。そしたらさ、日向は誰と一緒に笑ってるんだろうな」

「多分・・・・・・、それでも春くんの近くにいると思うよ」

「ん? なんで俺? それじゃさ、今とあんまり変わらないじゃん」

「うん。変わらなくていい。私は春くんと話してたいな」


うーん。それじゃ「もしも」の話にならない。つまらないぞ。でも、嬉しいことなのかな? こういうことって。


「まあ、ありがと」

「うん。えへへ、これからもよろしくね」


また照れくさそうに笑う日向。本当に表情がコロコロ変わる。見ててこっちまで楽しくなってくる。こういうところは才能なんだろう。不思議なものだ。


「じゃあ、帰ろうぜ。今日はご馳走なんだろ?」

「あっ! そうだった! 早く帰ってお母さんに言わないと」


本当に最後の晩餐になるかもしれない。だから、せめて悔いのないように・・・・・・。違うな。最後にしないように俺が頑張るんだ。







「はー。美味しかったぁ。懐石料理ってあんなに美味しいんだね」


日向が腹をポンっと叩いてベッドに横たわった。こんなところ見るとやっぱり違うかなって思うんだよな。


「食った後に寝ると豚になるぞ」

「豚? 牛じゃなかっけ?」

「豚みたいに太るってこと。そのうち昔の理沙みたいになるかもよ」

「えっ・・・・・・、流石にあそこまで太らないと思うけど」

「どうだろうな。日向は太りやすいからな。もしかしたら・・・・・・」

「あー! やめて! 聞きたくない!」


日向が両耳を塞いで暴れだす。それでもベッドの上から動かないあたり流石だ。


「ふわぁ、眠。もう無理。寝ようぜ」

「えっ、うん。今日は早いね。いつもなら10時くらいまで起きてるのに」

「昨日寝てないからな。学校でも寝てないし」

「そっか。そうだよね。お休みなさい」

「うん、おやすみ」


日向が部屋の電気を消した。自業自得とはいえ2日ぶりのベッドだ。すっげー気持ちいい。これならすぐに寝れそうだ。

微睡む意識の中、体に当たる違和感が完全に眠りへと落とさせてくれない。


「春くん、もう寝ちゃったかな? 今日、凄く頑張ってもんね。疲れたよね・・・・・・」


やっぱり日向だ。俺の服の袖を掴んで胸に顔を埋めているらしい。


「明日なんて来なくていいのに。ずっと今のままでいいよ・・・・・・。だから春くんに戦って欲しくないよ」

「そっちかよ・・・・・・」

「えっ! 起きてたの!?」


思わず声に出してしまった。明日のことが不安なのかと思ったら全然違ったぞ。しかも日向泣いてるし・・・・・・。女の子がする顔じゃねえ。グチャグチャじゃん。


「幼馴染みとはいえ女の子の隣で熟睡出来る程図太くないんだよ、俺は。っていうより、戦って欲しくないんだな」

「うん。だって、死んじゃうかもしれないもん。春くんが死んじゃったら・・・・・・」

「いや、それ日向も一緒だからな。日向も死ぬかもしれないんだから」

「私も死ぬのは嫌だよ。でも、春くんが死ぬのはもっと嫌だ。もう、あんな思いはしたくないもん・・・・・・」


また空襲か。白泉や桜もそうだけど、皆気にしてる。いや、気にしすぎてる。いくら何でもここまではおかしくないか?

でも、今は日向を何とかする方が先だ。慰める為の言葉なんて思いつかない。こうなったら────


「俺は日向に死んで欲しくない。今こうやって笑って過ごせるのは日向がいてくれたからだし、これからも日向と一緒にいたいから。だから、日向は俺が守るって決めたんだ」

「へっ、これから!? 春くん、何か変なこと言ってない?」

「そうか? まあ、とにかく明日はちゃんと守るから。信じてくれ」

「・・・・・・うん。分かった」


もぞもぞと布団に顔を埋め始める日向。なんか顔が赤い。よく分からないけど、恥ずかしがってるみたいだ。

でも、初めてかもしれない。凄く・・・・・・可愛いって思える。抱きしめてやりたいって思った。だから・・・・・・。


「へっ! 春くん!? な、ななな、何してるの!?」


日向の困惑するような声が聞こえた。俺の両手に感じる柔らかくて温かい感触。スベスベとした物が肌に感じて・・・・・・。そう、何故か日向を抱きしめていた!


「いや違う! これは、あれだ! 寝相的な! 意識したわけじゃなくて! 無意識に。そう、無意識にぐいって!」


布団から飛び出して弁解の言葉を叫んだ!

これじゃ完全に変態だ! 何が無意識にぐいだよ! 思いっきり抱いてた! ああ、もう・・・・・・。幼馴染みだからって、やっていい事と悪い事があるだろ。俺の体!

日向はまだ布団の中に潜ってる。流石に恥ずかしいよな、今のは。雰囲気も良くない。


「えっと、ごめんな。俺、リビングで寝るから」


そう言って立ち上がる俺の手を日向が掴んだ。ベッドの上で顔を真っ赤にして座っている。


「ね、春くん。ぎゅってして」


聞いたこともないような、か細い声で日向が言う。いや、今それをやったらまずいだろ。俺の精神的に! 今の俺、相当やばいぞ。それなのに・・・・・・。


「いいのか?」


無言で頷いた日向に近づいて、その体に手を回す。一瞬ビクッと震えたけどすぐに体を預けてきた。

これはよろしくない。主に俺の頭に。日向の羞恥を耐えるように震える体が、感じたことのない女の子の感触が、細くて小さい吐息が、俺の脳みそを溶かしてくみたいな感覚に襲われている。

頭をそっと撫でると日向が顔を上げて目を閉じた。これってそういうことだよな。後で怒られたりしないよな。

閉じられた日向の唇。そこに俺の唇を重ねた。日向の甘い匂いが鼻をくすぐる。なんか、今日────今だけで分かった。俺、ずっと日向のことを何も知らなかったんだって。


「えへへ、キス・・・・・・しちゃったね」


恥ずかしそうに。でも、どこか嬉しそうに笑う日向。言うなら今しかないんじゃないか? たった昨日からのものだけど、伝えるなら今しか────


「日向、俺さ・・・・・・多分────」

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