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夢の記憶



目を覚ましたら部屋の天井が見えた。殺風景な真っ白な俺の部屋だ。

俺、確か外にいたよな? さっきまで戦っていた鳥も、さっきまで一緒にいた人達も全部消えている。どういうこと?

あと、さっきから外がうるさい。何かイベントでもやってるのか?

体はちゃんと動く。目もちゃんと見える。ただ、頭には靄がかかってる。

突然ドアが開け放たれて女の子が飛び込んできた!


「春! 大丈夫? もう大丈夫だよ。お姉ちゃんが来たからね」


知らない女の子に抱きしめられた!? なんかいい匂いがする。ってそうじゃない! どういう状況!? 頭がおかしくなったみたいだ。


「一緒に逃げよう? ここにいたら危険だよ」


俺の手を優しく掴んで女の子が笑う。長い黒髪。優しそうな顔。この人、アルバムに写ってた。凪姉って人だ。

凪姉は俺の部屋を乱暴に漁って服やらアルバムやらを取り出して鞄にしまい込んでいる。何が起こってる? 凪姉がいるってことは────


「やっぱり、子供になってる」


俺の手は小さい。手だけじゃない。足もだ。何これ・・・・・・。もう俺が理解出来る範疇を越えている!


「よし! 行こう」


凪姉がまた俺の手を掴んで部屋を飛び出した。階段を駆け下りて廊下を走る。とりあえず説明をして欲しいけど、その時間はないらしい。それは顔を見れば分かる。

隠してるけど、焦ってるのが見え見えだ。外の騒ぎも合わせて異常が起こってるのが何となく分かる。

玄関を開けると大柄な男が笑って立っていた! 肩に大きな角が生えている。明らかに人間じゃない。もしかして・・・・・・


「あく────」

「こっち!」


凪姉に引っ張られてリビングに、そして台所に入った。凪姉は素早く台所を荒らして包丁を持って体を丸めて姿を隠す。案外冷静な娘だ。


「春、お姉ちゃんが飛び出したら春は窓から逃げて。そして公民館に行くの。あそこは春パパがいて安全だから」


小さく俺に告げる女の子。なんか違う。普通なら男である俺が守らなくちゃいけないんだ。でも、声が出ない。さっきは出たはずなのに! くそっ! なんでだよ!


「さっきの子供はどこかなー? 早く出てこないとこの家ごと壊しちゃうぞー」


楽しむような男の声が聞こえた。多分さっきの悪魔だ。絶対馬鹿にしてる。当たり前だ、所詮は子供2人なんだから。

その声を聞いて体が勝手に震え出す。なんでだよ! 俺は強くなった。今更悪魔に怯える必要なんてないだろ!


「凪姉・・・・・・」

「ん? 大丈夫だよ。春はお姉ちゃんが守るから。ね?」


情けない声を出す俺に凪姉が微笑んだ。おかしいだろ・・・・・・。俺、なんで・・・・・・。

台所から駆け出した凪姉の後ろを走る。凪姉から鞄を受け取って窓へと向かう。


窓から飛び出した瞬間、男の笑い声が耳に響いた。体が言う事を聞かない。駄目だ、見るな。見たら・・・・・・駄目なんだ・・・・・・。

俺の声と裏腹に動く体。後ろを振り向いた目に映ったのは倒れた女の子と笑って踏み続ける男。

絶対に人がする死に方じゃない。こんなの、こんなの────!

睨む俺に気付いた悪魔が近づいてくる。


「うわああああああああああああああ!」


とにかく叫んだ。そして走った。目の前で起こったことを否定するように走り続けた。

そして見てはいけない景色が広がってることに気付いた。そこかしこに落ちている肉と骨。そして内蔵らしき物体。

なんだよこれ! 知らない、こんなの知らない! 夢だ、全部夢だ。でも頭に響く痛みが現実だと教えてくれる。これは現実に起こったこと。後に「空襲」と呼ばれる悪魔が初めて襲ってきた日だ。


勝手に足が止まった。心の底から闇が駆けてくる。もう、諦めろって。どこに逃げても死ぬんだって。だから、もう────


「何をしているのですか! 早く逃げましょう!」


俺のよく知る女の子の声。黒い長髪と、泣きそうな目。あぁ、いつも通りだ。俺の手を握ってくれる。その女の子は────


「春!」


目の前にいて、俺の顔を覗き込んでいた。さっきまでと違う大きな姿で。どうやら夢は覚めたらしい。俺は教室にいる。


「あれ? 俺、外で・・・・・・」

「早乙女先輩が運んできてくれたんです。しかも治癒魔法までかけてくれて・・・・・・。本当にありがとうございます」

「ううん。気にしないで。私も桂木くんとは友達だからね。助ける為ならどんなことでもするつもりだから」


涙ながらに頭を下げる桜に手を振る早乙女先輩。何かがおかしい。俺の中で疑問が生まれた。


「早乙女先輩」

「うん? どうしたの? 体痛む?」

「俺の左手。どうやって治したんですか?」


早乙女先輩の笑顔が凍った。優しさが一気に消えて何も無い。空虚なものになる。

これからは続けない方がいい。俺の全身がそう告げる。でも俺の中の疑問は大きくなっていく。


「それだけじゃない。前の狼。どうやって倒したんですか?」

「それは目の前で見てたよね。高い礼装を使って、パパン! って」

「その高い礼装一つじゃ俺は勝てませんでした」

「うん。もっと頑張らないとね。火野村桜花には勝てないよ」

「その火野村先輩に匹敵するくらい魔法が使える早乙女先輩は、何者なんですか?」


完全に早乙女先輩の動きが止まった。人間と悪魔。どうやっても覆らないくらいに差がある。それは鳥と戦って分かった。もし、魔法が暴走しなかったら殺せてなかったかもしれない。つまり、俺じゃどうやっても勝てないんだ。

なのに、早乙女先輩は安安と悪魔を倒してみせた。それはおかしいんだ。普通の高校生が使える魔力を明らかに越えている。


「答えてください。先輩は本当に人間ですか? それとも・・・・・・」

「人間、なわけないわよね? 早乙女渚さん?」


窓なら黒い羽を生やした火野村先輩が口を挟んだ。その姿を見たクラスメイトの動揺が伝わって来る。でも、今はそんなことどうでもいい。火野村先輩は続ける。


「春から聞かせてもらったのよ。あなたのこと。それで、個人的な質問があるわ。何故、私の使い魔を「ただの獣」だと見抜いのかしら?」


早乙女先輩は答えない。ただ、体を震わせて聞いてるだけ。


「それに、テレビは「悪魔の仕業かも?」と言ってるだけで確信したわけではない。それなのに悪魔だと決められた理由は? 聞かせてもらえるかしら? その理由を」


やっぱり答えない。無言が答えか。否定して欲しい。だって、信じたくない。この人が悪魔だなんて。俺を助けてくれた。命の恩人なんだ。だから────


「悪魔だから、そして一連の事件の犯人だから、でいいの? その答え」


俺の希望は全て打ち砕かれた。答えた早乙女先輩の声は無機質なものだ。感情を感じられない。


「何故人間界にいるの? あなたは私とは違うはず。何が目的なの!」

「あなたも悪魔なら分かるでしょ。眷属を増やす為よ。もう必要ないけどね」

「ふざけないで! そんなの許さない。許せるはずがないわ! それじゃ10年前と同じじゃない!」

「ええ。何か悪いの? 足りなくなったから取りに来た。それだけよ」


完全に開き直ってる。早乙女先輩は笑いを堪えて言う。


「もしかして、人間に恋してる? 何の冗談? 馬っ鹿じゃないの? こんな下等生物を好きになるなんて」

「ふざ、けるな・・・・・・」

「春、やめなさい!」


火野村先輩を無視して叫ぶ。


「ふざけんな! お前達は何でそうやって笑えるんだ! あの時も人を小馬鹿にしたように笑って! 殺してさ! 楽しいのかよ、人殺しが! 楽しいかよ!」

「あーあ、白ける。どんどん熱血馬鹿みたいになっていくね。そういう子、熱苦しくて嫌いですー」

「なんでだよ! 信じてたのに。助けてくれて、一緒に倒すって約束して。頼れる人が出来たって、思ってたのに・・・・・・」

「うんうん。あの時は楽しかったよ。ドキドキしてるのがすぐに分かったもん。童貞さん」

「いい加減に────」


教室に響いた乾いた音が俺の声をかき消した。桜が早乙女先輩を引っぱたいたんだ。そして、言う。


「あなたは、最低です。人を騙して、殺して。それを足蹴にして笑っているなんて、最低です!」

「ふーん。人間ってさ、面白いよね。さっきまで泣いて頭を下げてたのに今じゃ叩いて最低です! だよ? 想い人を助けたのは私なの忘れたの?」

「それは感謝しています。ですが、これとそれとでは話が違います。私はあなたを許しません」


その通りだ。許さない。許しちゃいけない。感謝してるから。信じてたからこそ。この人を止めないといけない。


「あなたの言ってる眷属ってのは分からないです。でも、止めます。阻止します。何をしてでも止めさせる」

「私としてもこれ以上増やすつもりはないんだけど。桂木くんが言うなら仕方ないか。いいよ、ゲームしてあげる」

「ゲーム・・・・・・?」

「うん、ゲーム。明日から1日1人、この学校の生徒を殺してくから。それを止めることが出来たら桂木くんの勝ち。無理なら私の勝ち。どう?」

「どうってそんなの受けられるわけが────」

「受けるわ。ただし、一つ条件があるの」


俺の声を遮って火野村先輩がゲームを受けた。そして指を日向に向ける。


「1人目の犠牲者は、そこの女の子にしてくれるかしら?」

「なっ!」

「えっ? 私!?」

「先輩! 何でですか!? だったら俺が────!」

「ちゃんと考えがあるの。だから私に任せなさい」


最後に先輩は今日一番の笑顔を見せて言う。


「じゃあ明日、楽しみにしてるわ」

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