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改造





「なあああああああああああああ!」

「どうした?」

「どうしたじゃねえよ! お前なんでここにいんの!? つか、どっから来た!」

「どこからって、そこからだが?」


男は俺を指さした。俺っていうより俺の後ろだな。結構アバウト! 全っ然分かんない! まあいいや。とりあえず今は悪魔をなんとかしないと。


「で、お前なら何とかなるのか? あいつ」

「俺があれを倒せるわけねぇだろ。馬鹿か? お前」

「はぁ? お前半裸のくせに倒せないのかよ!」

「服は関係ねぇだろ。俺の魔法は貸す専門でな。俺じゃ傷つけることは出来ねぇの」


何故か胸を張る男。どこに自慢出来る要素があるのか教えて欲しい。戦えないならなんで出てきたんだ・・・・・・。


「じゃあ、下がってて。お前が逃げるくらいの時間は作れるから」

「それじゃ犬っころの時と同じだろ。また女に助けられたいのか?」


う・・・・・・、それは嫌だ。流石にかっこ悪い。倒すのは無理でも致命傷くらいは与えてパスしたいな。


「そうだろう。じゃあ倒すぞ」


半裸の男の両手には、刀と銃が握られていた。俺の持ってるやつと同じだ。違うところがあるとしたら色くらい。真っ白な俺の礼装と違って真っ黒な礼装。改造品なのにどうして・・・・・・?


「俺に付いてこい。同じ動きをすればいい」

「はっ? 何言ってん────」


俺の返事を聞かずに男は駆け出す! 昨日の朝もそうだけど人の話を聞かない奴だ!

その後を追いかけて刀を強く握る。お前の真似をすればいいんだろ! どうなるかは分からない。でも、やってやるよ!

鳥が羽を飛ばしてきた。こんなのただの目眩しだ! 無視して大丈夫。

だが、男は全ての羽を躱す。俺も羽を避ける。なっ! 羽が当たった場所が溶けやがった! もし、当たってたら・・・・・・。


「気にするな。俺の言う通りにすればいい。行くぞ」


男は視線を鳥から逸らさずに言った。言う通りに、ね。ムカつくけどその通りだ。こいつの後に続いて、こいつと同じように動けば勝てる。余計なことは考えなくていいんだ。

再度駆け出す俺と男。男が屋根を蹴って空へ飛ぶ。それと同じようにジャンプする。

目の前に現れた鳥! 羽が細かく動き始める。また飛んでくる! 今度はそれが分かるくらいに死が近い!


「何ボサっとしてるんだ。動かなきゃ死ぬぞ」

「はあ? 死ぬってお前が────」


声を聞いて初めて気付いた。あいつ、俺の上にいる! 銃から放った魔法を蹴ってるのか!? いくら何でも無茶苦茶だろ・・・・・・。

でも、やらなきゃ俺が死ぬ。偽物とはいえ銃だ。全力で放ったら蹴るどころの話じゃない。イメージを弱くして・・・・・・。

弱くて、遅くて、でも大きい。そんな氷をひたすら頭に描く。でも発現はしない。こんなイメージの練習なんてしたことねぇんだよ!


「ギィアアアアアアアアアアアアアア!」


また咆哮する巨鳥。それと共に羽を飛ばしてきた! それを銃から放った魔法で弾く! だが、魔法を抜けてきた羽が俺の手を貫き溶かす。

何故か痛みはない。ただ、もう左手は使えない。でろんでろんになってやがる。これじゃあ男と同じように動けない。でも、腹は括れた。


「まさか、ぶっつけ本番になるとはな」


刀の礼装に意識を集中させて、魔法を出した。いつも多く魔力を使って、いつもより小さい刀を作る。よし、出来た。

作られた刀身は炎・・・・・・というより、紅い。そして薄い。まるで本物の刀みたいだ。

俺の片手を見て味を占めたらしい。鳥は半裸の男を無視して俺に突っ込んできた!

これならいける。今の魔法は今までで最高の魔法だから。迫る鳥を睨む。その後ろで男の口が動いた。


「やれ」

「言われなくても分かってるよ、そんなこと」


鳥の追撃を後ろに動いて避ける。地面を砕くクチバシ。そこに少しだけ隙が出来る。一瞬の硬直。そこに合わせて刀を振りかざした────!

今まで聞いたことのない音がした。ガラスが割れる音に近い。それに爆発音が混ざったような音。

刀が・・・・・・折れた? 鳥の首に直撃したはず。これが体ならわかる。首だぞ? 骨に当たった? 皮膚に傷一つ付いてないのにか?

狼狽する俺に気付いた男が空から降りてきた。


「分かったか? これが人間の限界だ。傷つけることは出来ても殺すことは出来ない。お前らの攻撃は致命傷にはなりえない」

「なんで、だよ! だって、だって、だって! 確実に殺せた。確実に・・・・・・。俺の魔法が弱いから? 次はもっと強く」

「次があると思うか? この一撃を与えられなかった時点で、お前の負けだ。逃げるぞ」

「逃げられるか! ここで逃げたら誰がこいつを倒すんだよ」

「女がいる。悪魔に戦わせりゃいい」

「火野村先輩にってか? あの人が戦うつもりなら一緒に戦ってくれてるだろ」

「ああ、だから奴は向かってきてる。だから逃げろ。何の為の準備だ?」


半裸の男が示したのは希望への────勝利への道。火野村先輩の助けと、俺が昨日作った・・・・・・最後の手段。


「本当は使いたくなかった」

「じゃあ死ぬか?」

「それよりは・・・・・・マシかもな」


半裸の男に笑って返す。俺に出来る最後の賭け。その為に学校へと駆け出した。


逃げ出した俺を鳥の影が覆う。なんで半裸の男じゃなくて俺に来るんだよ、あいつ! クチバシと羽を躱してとにかく逃げる。広い路地に行くと先回りされるからわざわざ裏通りを選んでだ。


「春! こっちよ! 来なさい!」


遠くから先輩の声が聞こえた! でも姿は見えない。どこにいるんだ? もしかして・・・・・・。

やっぱりだ! 空を見上げると火野村先輩が俺を見て飛んでいた! やっぱり悪魔だったのか・・・・・・。それよりも今の明るい空を飛んだらバレるだろ! いいのか?

鳥に火の玉を飛ばしながら先輩が叫ぶ。


「昨日言ったことは覚えてるわね? あれをやりなさい! それで全て分かるわ!」


分かる? 先輩の言いたいことは分からない。でも、倒すにはそれしかないって俺も思った。だから────

先輩に無言で頷いて更に走る。もう鳥は追ってこない。痛みを感じる程に力を込めてスピードを上げた。学校までもう少しだ。





「おい、桂木! 火野村先輩飛んでるよな? あれ!」


教室に飛び込んだ俺に白泉が問うてきた。悪いけど答えてる時間はない。急いでバックを漁って目的の物を探す。


「あった!」


バックから取り出したのは鎖のような機械。それを柄に巻き付ける。でも、片手じゃ上手く出来ないな。急がないといけないのに。


「日向、これ巻き付けてくれ」

「う、うん。分かった。でもこれ何? もしかして、昨日作ってたやつ?」

「まあな。これは、礼装を強化する機械だ」


礼装ってのは所有者の魔力増幅装置みたいなもので、流された魔力を大きくさせて魔法として放出する。そういう物なんだ。そこで俺は、壊れた礼装から増幅させる機能を持った部品を抜き出して繋げた。これが鎖の正体。

そして、それを刀に付けて刀の礼装としての効果を強くする。前に本で見た「礼装を強くする本」で見た方法。ただし、これを使うと礼装に負荷がかかって1回でぶっ壊れるらしい。


「はい、終わったよ」

「おう、悪いな。ありがと」


日向から刀を受け取って圧縮された刀を発現する。今度はさっきとは違う。もっと魔力を使ってもっと強くした物だ。

俺の教室は4階。ここから飛び降りれば鳥に攻撃出来るくらいの余裕はある。あとはタイミングだけ。

窓の縁に立った俺の手を桜が掴んで止めた。


「止めてください! 危険です。これでもしあなたが死んでしまったら・・・・・・」

「大丈夫。俺は死なないよ」

「死なないって、その根拠は! 相手は悪魔なんですよ! 人間であるあなたに勝てるわけないでしょう!」

「うん、かもな。でも、死なない。大丈夫だ。信じてくれ」

「信じろって。死のうとしてるあなたをですか!」


俺の手を掴む手に力が篭る。どうやっても行かせない気か。桜の心配性にも困ったものだ。このままじゃ折角の策も台無しになる。


「桜!」

「嫌です! 絶対に離しません。もう、二度と・・・・・・あの時と同じことはさせないって決めたんです」

「あの時・・・・・・? 何言ってんのか分からないけどさ。大丈夫だよ、心配しなくても。ちゃんと考えてある」

「桂木、お前・・・・・・空襲を忘れたのか?」


俺の言葉に白泉が反応した。どうやら俺以外の人間は「あの時」のことを知ってるらしい。そんな大事があったような記憶はない。俺が忘れただけ? 全っ然わかんねぇ。

でも今はそんなこと気にしなくていい。とにかく悪魔だ。あれを倒さないと・・・・・・。


「春くん、帰ってくるよね?」


日向が桜の手を掴んで俺に問うた。その顔に笑顔はない。いつもの日向からは想像も出来ないような真面目な顔だ。


「ああ。すぐに終わらせて帰るよ。だから、今日はご馳走だな」

「うん! そうだね。えへへ、頑張って」

「日向! あなた・・・・・・」


日向が桜の手を俺から放す。それと同じに窓の縁を蹴る! その瞬間────目の前が光った。

光は円を描いて模様を映し出す。魔法陣、初めて見た。ってことは・・・・・・!


「腹いっぱい食えよ。そのでっかい腹を燃やし尽くしてな!」


魔法陣から出てきた巨鳥の口に刀をぶっ刺した! これだけじゃ効かないのは狼の時に身に染みた。その為の先輩が教えてくれた圧縮の使い方!


「うああああああああああああ!」


礼装は圧縮を解いて膨大な量の魔力を全てが炎へと変化する! 膨れ上がる熱量。その全てが鳥の喉を、腹を、焼き尽くす!

礼装にヒビが入り始めた。でもそんなこと気にする気はない! あいつが死ぬまで、燃やし続ける!

大きくなり続ける炎! それは既に俺の頭にある炎を超えていて、俺の想定していたダメージを越えている! あれ? それって────

気付いた時には遅い! 手の中で礼装が破裂した! 礼装を無くし安定しなくなった魔力が全て炎に飲まれて────爆発した!


爆発した魔力の全てが襲ってくる! 吹っ飛んだ俺の体は壁に当たって地面へ落ちた。

視界がボヤけてる。体が動かない。あぁ、これが死ぬってことなんだ。

空から落ちてくる巨大な物体を全身で受け止めて俺は眠りについた。

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