誕生日についての彼女の考察
「つまり、誕生日は世の中の一端を表してるんだと思うのよね。」
未紀はいつも通りなんの脈絡もなくそうつぶやいた。
「うん。」
雄太郎はスマホをいじりながらいつも通り気のない返事をする。
「誕生日はその本人にとっては一年に一度の特別な日でしょ?でも他の人にとってはただの、フツーの一日にすぎない。そんなことって世の中にたっくさんあるじゃない。」
雄太郎は今度は未紀に視線をやって、少しだけ考えてから返事をする。
「たしかにね。」
「そう。例えば私はカープファンだから、この前カープが9連敗したとき機嫌が悪かったわけだけど、雄太郎はいつも通りぼーっとしてたでしょ?」
「そりゃね。」
雄太郎は相変わらずスマホの画面を見ている。未紀は続ける。
「こーやって人はすれ違ってくのね。価値観の違いというか。『私にとってはこんなに大切なことなのに、あなたにとってはとるに足らないこと…。』みたいな。それでも世界は廻ってるってやつね。…私はこれを『それでも世界は廻ってる現象』って名づけるわ。」
相変わらずだなあと思いつつ雄太郎は軽く返事をする。未紀は続ける。
「それでね。」
未紀は雄太郎の方を向く。真剣な表情だ。
「少し話がそれたけど、誕生日ってのは誰でもが必ず経験することで、そしてこういうことを端的に表してるんだわ。一年に一度、私だけの特別な日…私にとっては100だけれど、他の全ての人にとっては0の日。同じ誕生日の人もいるなんて野暮なことは言わないで。それは別の誕生日。…だから私は、なるべく人の誕生日を祝ってあげたいって思うの。その人にとって特別なものを、私も特別に扱ってあげたいって思うの。」
「うん。」
雄太郎は少し顔をあげて答える。
「だから雄太郎、あんたの誕生日も祝ってあげるからね。いつだっけ?」
「三日前。」
「…うそ。」
「ほんと。」
未紀は少し照れて困った表情をしている。
「言ってよ。」
「…ごめん。」