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静かな雨

作者: silvia

サーッ


静かに雨が降っている。

窓越しに見ると降っているかわからないくらいの細かい雨粒。けど、外に出ると静かに音が聞こえるほどの雨。


こんな日はいつも、花を買って帰る。ガーベラを一輪。



「ただいま」

久司が帰ってきた。

「おかえり」

ちょうど夕食の準備をしていたので、台所から軽く顔を出す。


「いい匂い」

「今日は、秋刀魚と豆乳鍋だよ」

「もう、外は寒いから鍋はいいねぇ」

ネクタイを外しながら、居間に向かう久司の目に花が入ってきた。

「今日は雨だったね」



久司と二人で初めて会ったのは雨の日だった。

あまりパッとしない人だったが、友達の紹介だし、無碍に断るのも・・・。25過ぎたら結婚も考えてしまう。久司はそこそこ大手企業のサラリーマン。結婚相手にはいいのかもしれないと、打算的に会ったのだ。



雨にはいい思い出がなかった。

交通事故にあう、振られる、泥はねする・・・。

まぁ、泥跳ねは歩き方が悪いせいなんだけどさ・・・。


それでも雨にいい思いではない。そして、静かな雨を見ていると寂しくなってきてしまう。


「お待たせしてすみません」

私は久司が待っている喫茶店の席に少し息を切らしてついた。雨は夜中過ぎからの天気予報は外れて昼くらいから降っていた。

雨が降り出す前に帰るのだからと、少し短めのスカートをはいていた。いつもジーパンで出勤するため職場の人には驚かれたが、デートの時ぐらい私だってスカートを穿く。

しかし、こんな日に限って残業はあるし歩きから(走り方)が悪いために泥跳ねをしていた。

「大丈夫ですよ、外見ているの楽しかったですから」

そう柔らかい笑顔で言った。

「雨見るの楽しいですか?」

どうみても、小走りに走っているサラリーマンやOLしか見当たらない。

「小走りにしている人たちが楽しいんですか?」

「いや、そうじゃなくてね」

そういって指をさした方向に目を向ける。


ここは駅の出口の直ぐ側。

駅から出てくる人が各々の傘を広げるところでもある。


「ほら、また一つ花が咲いた」

「花?」

「傘ってね、ガーベラみたいに見えませんか?いろんな色があって。けど、丸くって」


確かに骨のところを花びらに見立てたら見えるかも・・・。


「綺麗でしょ?雨って空気を綺麗にするだけじゃなくて人工的な花も咲かせてくれるんですよ。特に静かな雨はね。激しい雨は花も折れちゃうし、綺麗に見えないでしょ?僕はこの静かな雨が特に大好きなんです」

雨って、人を寂しくするから嫌だってずっと思っていた。振られるし、泥はねするし。

けど、本当、よく見たら花が咲き始めている。

よく見たら、あまり好みではないはずの久司の顔にドキッとした。


あれから3年。私達は昨日結婚した。

新婚旅行はこれから。


静かな雨が降るといわれているローマに行きます。












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― 新着の感想 ―
[一言] 初めまして。読ませていただきました。ストーリーの情景は素敵なもので、傘を花にたとえて見るという感性や視点は素晴らしいと思います。ただ、最後の場面は、もう一つクッションを置いても良いんやないで…
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