表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/7

七話

最終話です!

暗い暗い海の中を漂っているような感覚だった。

(死んだのかな)

ぼんやりとそんなことを思う。

しばらくそのままでいると、遠くから声が聞こえた。

5歳の俺ではない、優しくて懐かしい声が。

「ちーくん」

呼び声に、目を開く。

そこには、俺が5歳の時に死んだ母親が立っていた。

「かあ、さん?」

俺の声に、かあさんは微笑んだ。

「頑張ったね、ちーくん」

「・・・うん」

そうだ、俺は十分頑張った。

あんなに苦しかった心臓は、もう何も訴えては来なかった。

(もう、いいんだ)

そう思うと、自然と足が母親の方へ向く。

あちらの世界へ、足を踏み入れー

「いいの?」

問いかけに、足が止まる。

俺の頭には、村岡の顔が浮かぶ。

死んで欲しくないと涙を流しれくれた。

可笑しそうに笑った。

(いいのか?俺は本当にあちらに行っても・・・)

迷いが生まれた。

あそこに未練なんか残さないつもりだったのに。

いつの間にか、大切なものが出来ていた。

(涙は見たくないって思ったのに)

次に、主治医の顔が浮かぶ。

ため息を吐いて俺のわがままを許してくれた。

泣きそうな顔で、助けるって言ってくれた。

(助けてって言ったんだ)

「悲しませたくない人が、いるのでしょう?」

そういってかあさんは、いたずらっぽい笑みを浮かべた。

(そうだ、行かなきゃ)

向こうに戻ったとしても、すぐにここに戻るかもしれない。

ここなんか通り過ぎて、いきなりあの世かもしれない。

それでも俺は、戻らなきゃならなかった。

「いってらっしゃい、ちーくん」

母さんの手のひらが、俺の頭を優しく撫でる。

「いってきます」

俺はそう言うと、歩き出した。

かあさんとは反対方向へ。

暗闇のなかの小さな光を目指して。


***


少女のすすり泣く声が、微かに聞こえた。

(泣かないで)

静かに思う。

(俺は、笑った顔が好きだからー)

すすり泣く声が途切れて、代わりに言葉が漏れた。

「千歳くん・・・?」

少女の呼び声に、俺の意識は覚醒した。

長い間眠っていたような感覚。

ゆっくりと目を開くと、少女と目が合った。

「千歳くんっ!!聞こえる!?」

少女の、村岡の声に俺は答えようとしたけど、言葉が出てこなかった。

代わりに、点滴の針が何本も繋がる左手を微かに持ち上げて見せる。

それを見ると、村岡はまた涙をたくさん零した。

「よか、った・・・」

視線を横に向けると、たくさんの機械が見える。

カレンダーの日付は、俺が最後に目を閉じてから6日経過したことを示している。

(ちょっと寝すぎだな)

そんなことを思って心の中で苦笑する。

「・・・たすかったの・・・?」

ようやく出るようになった、小さな声で呟いてみる。

すると村岡は、涙を拭って笑って見せた。

「そうだよ」

それは、今まで見た中で一番可愛い笑顔だった。

「おかえり、千歳くん」

「・・・ただいま」

にっと、精一杯力強く笑ってみせる。

俺たちは、静かに唇を重ねた。

心臓が高鳴る。


もうこの手は離さない。

いつかこの命が尽きるまで、聞かせて。

キミのコトバを。




感想くれた方、読んでくれた方、ありがとうございます!楽しんで頂ければ嬉しいです。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ