表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

魔物の女王

後に『魔物の女王』と呼ばれる少女の兄のペットライフ

作者: 月森香苗
掲載日:2026/03/18

 出稼ぎの為に故郷を旅立ったのはもう八年も前のことである。

 当時十五歳だったロキは出来るだけ稼いで早く村に帰るつもりだった。それは、妹の置かれた環境にあった。

 隣家に住む家族には娘がいて、カリナという名前の少女はロキの妹のミラと同じ歳だった。

 カリナはミラを引き立て役に選び、ロキとミラの実の両親ですらミラを下げるような事を言い、カリナを可愛がった。

 実子よりも他人を可愛がる意味がわからず、しかもその空気は村中にあり、ロキだけがミラを大事にしていた。

 出来ることならば村に残っていたかったのだが、如何せんそこまで裕福とは言えない場所で、金を得る為には成人してすぐに出稼ぎに外に出て、ある程度してから戻ってくるのが慣例だった。

 叶うことならばミラを連れて行きたかったが、七歳の子供を連れて行けるほどロキは外を知らなかった。

 全てを捨ててでもミラを連れて移動しても問題はなかったな、とある程度してから理解したが、十五歳ではそんなことに思い到れるわけではない。

 とは言えど、今のロキの状況を思うと連れ出さなくても良かったのか、とも思う。


 何故なら、現在のロキは獣人国の大貴族、竜人族の女当主アンネリーゼのペットになっているからだ。


 こうなったのには理由がある。

 村を出て最初にしたのは少し離れた場所にある少し大きな街の商家の下働きであった。

 学の無いロキは文字を少しは読めるが書くことは出来なかった。体を使う仕事くらいしか出来なかった彼は朝から晩まで働いた。

 しかし、残念な事にその商家の主人が亡くなって代替わりすると、ロキを始めとした村出身者は解雇された。

 理由は、女性を多くしたいからという新たな主の下心によるもので、職を失ったロキは新たなる場所を探して移動した。

 出稼ぎをする若者はあまり良い所には勤められないと聞いていたが、中々働き口を探せなかった。

 解雇された商家では一年働いたが、下働きの給料は少なく、まだ故郷には帰れなかった。

 そこから転々としながら冒険者ギルドというところを知った。冒険者は余程では無い限り登録が出来る。危険と隣り合わせだが、一攫千金も狙えるのだ。

 村を出て既に三年。早く帰りたい。ミラは無事かとそればかり考えていたロキは、パーティを組まないかと声を掛けてきた面々とともに冒険者活動を始めた。

 初めは何の問題もなかった。声を掛けてきたリーダーは経験豊富でロキに色々教えてくれたし、皆いい奴だった。

 良い奴だと思っていた。

 ある依頼を失敗した事で賠償金を請求されることになった。それは仕方の無いことだった。失敗すれば罰則が与えられるのがルールなのだから。

 パーティはロキ以外は同じ村の仲間達で構成されていた。彼らは常日頃から村に残してきた家族の薬代を稼ぐ為にと言っていたので、妹を持つロキは親身になっていた。だから、少し多めにロキが払うと言ったのだが。


 彼らは全部をロキに被せて足りない分は奴隷に身を落として支払うようにしたのだ。

 あえて一人だけ違う村出身の人間にしたのは切り捨てやすくする為で、そもそも薬代の為なんて言うのは嘘だった。

 売り払われる直前にそれを知らされたロキは悔しい思いをしたが、まあ、苦しむ人が実際は居なかったことに安堵した。


 冒険者活動は一年にも満たず、奴隷として市場に流されたロキはまずある貴族に買われた。

 ロキは知らなかったのだが、それなりに見栄えが良かったらしい。下働きの日々や冒険者活動、それから成長期もあって背が伸びたロキはそこそこに体格も良く、剣を使うために姿勢を気にしていたのもあり立ち姿が良いと言われた。

 賠償金分の金額で買われたロキは主人の傍に控え、護衛という名の肉壁として連れ回された。奴隷の証である首輪をつけ、時には趣味なのか鎖をつけて連れ回される姿は犬のようだと言われていた。

 しかし、その主人は仕出かした。獣人国の貴族達も参加するパーティーにロキを連れて行ったのだが、そこで今の主人となるアンネリーゼを怒らせてしまったのだ。

 アンネリーゼは主人を許さなかった。

 ロキは「俺はどうなるんだろう」と考えながら主人の隣で膝をついて頭を下げていた。


「そなた、顔を見せよ」


 顎を掴まれて上向かされたロキは、アンネリーゼに顔をまじまじと見られた。

 大貴族の顔を直視など許されるはずもないので視線を逸らしながら、あ、俺死んだ?と思っていたロキは、立てと言われて素直に従った。

 奴隷は主人以外の命令は聞かないものだが、その主人はどう考えても終了しているとしか言えない状態だったので、ならば大貴族様の言うことを聞いておくべきかと判断したのだ。


「ふむ。人間にしては多少は体を鍛えているのか。顔も中々に良い」


 ぺたぺたと無遠慮に体を触られても、ロキは微動だにせず立っていた。生死の分かれ目のような気がしたからだ。

 周りも獣人国の大貴族、しかも竜人族の当主の言動に注意を払っていたので酷く静かだった。


「貴様の無礼は許さぬ。それと、賠償金の一部としてこれは貰っていく。残りは後ほど貴様に請求する。逃げられると思うなよ」

「ヒッ」

「行くぞ」


 口頭だけで所有者が変わってしまったロキだが、どこにいても同じだなぁと考えていた。故郷に帰りたいのだが、無理かなぁ。ミラすまん。と心の中で詫びながら、ロキはかつての主人になってしまった男に一礼するとアンネリーゼの後を追いかけた。

 多分逆らったら駄目なんだろうなぁ、と思いながら。

 この時、ロキは二十歳を超えたところで村を出て五年であった。


 そして彼は新たな主人のアンネリーゼに連れられて獣人国に来る事になったのだが。

 獣人国はその名の通り、獣人の為の国である。人間もいるにはいるが、貴族は力のある獣人ばかりで、大半の人間は奴隷であった。

 だが、扱いは奴隷という名のペットであった。

 如何せん、人間は獣人に比べると弱い。そこそこ鍛えたロキでも彼らにとっては「か弱い人間ちゃん」なのだ。

 アンネリーゼには夫がいる。アンネリーゼと同じ竜人族でフリードリヒという男性。

 ロキは二人からそれはもう可愛いペットとして愛でられた。

 妹と同じ黒い髪の毛は切るのが面倒で伸ばしていたのだが、きちんと綺麗に整えられた。

 背は高いけれど、竜人族はそれよりも遥かに高く、アンネリーゼはロキと同じくらいで、フリードリヒは頭一つは違うしムキムキしているので、ロキは少しだけ心が折れた。

 それに、ロキは前の主人に連れ回される程度には見栄えが良かったが、それは平民にも関わらず小綺麗な顔をしていたからだ。

 それなりに顔の良い奴隷を傍に置き、女性を呼び寄せる役割を果たさせられていた位にはそれなりに良かったらしい。

 そんな見た目なので、頑丈で最強種族とも名高い竜人族からしたら、とてもとてもか弱く見えるらしい。


 獣人国では奴隷の人間は大事に大事にペットとして可愛がり、着飾らせて自慢するものらしい。

 奴隷なのに使用人に毎日風呂に入れられ磨き上げられ、肌の手入れをされてツヤツヤピカピカにされていた。

 ペットなので性的なご奉仕は無いのだが、夫婦のアンネリーゼとフリードリヒの眠る超巨大ベッドの真ん中に挟まれて、二人に取り合われながら勝者に抱き締められて眠るのが毎晩のこと。

 こればかりはアンネリーゼに勝って欲しいと思っていた。ムキムキマッチョの抱き枕になるのは拷問でしか無かった。

 ペットなので愛でられる事が仕事で「あれ?元の国にいるより恵まれてるのでは?」となる事が多すぎた。

 時には主人と「散歩」と称して出掛ける時に一緒に行っては、どれだけ手をかけられて大事にされているのかを見せるのも仕事である。

 また、疲れている主人を癒すのもペットに求められている大事な仕事で、アンネリーゼの肩揉みはもちろん、彼女の求めに応じるのもこなしてきた。


 とてもでは無いが、こんな姿を妹に見られたら兄の威厳は無くなるし、いっそ殺して……となることは間違いなかった。

 ペットなので給料は無いが、三食はもちろん、寝る場所は何故か夫婦の真ん中ではあるものの存在するし、屋敷から勝手に出られないが屋敷の中であれば自由にして良い。

 ティータイムはアンネリーゼかフリードリヒの手でおやつを食べさせられ、これではダメになってしまう……と何度呻いたことか。

 そんな生活を送ること三年。そろそろ妹が成人を迎えるのでは、と気付いたロキは妹が元気にしているのか心配になった。

 しかしロキはペットである。勝手に屋敷の外には出られないし、字を書けないので手紙も送れない。しかも、国がそもそも違うのだ。

 あまりにも憂いていたからか、アンネリーゼから問われたのだ。


「どうした、ロキ。最近の貴様は元気がないぞ」

「……故郷にいる妹が心配で」

「ふむ?話せ」


 そこからロキは家の事や妹の事。隣の家のカリナの言動などを語り、置いてきたまま連絡一つも寄越せていない事を憂いていたのだ、と語った。


「もう少し早く言え。妾は可愛いペットを悲しませたくないぞ。フリード。ロキの故郷から妹を引き取る手配をせよ」

「分かった」

「アンネリーゼ様!そこまでしていただく訳には」

「妾はそなたを気に入っておる。この三年、そなたはよく務めておる。故に褒美よ」


 竜人族はとても強い種族であるが故に強者としての余裕がある。

 美しく強い主人の配慮に感激したロキであるが、しばらくして故郷が壊滅しており、村人は全員死んでいた事が判明した。

 両親はどうでも良いが、妹の死にロキは嘆いた。確かに妹は不器用な子ではあったが、ロキにとっては大事な妹であった。

 あまりにも深く悲しむロキにアンネリーゼとフリードリヒは「もしかしたら難を逃れているかもしれぬぞ」とか「もう少し探してみよう」と必死に慰めた。

 主人達の慰めに何とか持ち直したロキは、アンネリーゼが語った難を逃れているかもしれない、という言葉に一縷の望みを賭けた。


 まさか、数年後に「魔物の女王」という二つ名で大陸中の冒険者を震撼させているテイマーとなっていた妹にペットとして飼われている所を見つけられるとはロキも思ってはいなかった。


 なお、ロキを騙して奴隷として売り払ったパーティは、アンネリーゼに「ロキを見つけられたのはそ奴らのお陰かもしれんがいけ好かん」という理由で潰されていた。

感想で兄への反応が多かったので書きました。

長命種なので夜の生活は十年なくても問題は無いです。

アンネリーゼとフリードリヒの間で寝るとなった時、ロキは「は?正気か?」と思ってました。


妹は苦労しまくってたのに……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
なんかすごいいい生活してませんかね兄貴… いいもの食べてストレスレスな生活してるんだろうから、奴隷として飼われた時よりツヤツヤになっているのでは…?? 感覚的には人間が犬猫飼うのと同じなのだろうなぁ。…
潰されていた(物理)
奴隷じゃねぇだろう!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ