第2話1日目名染人々:出会った騎士は英雄に無し、追放者で有る。
騎士は光に包まれながら紅い鎧の擦れる音を鳴らしながら大蛇が地面から伸ばした触手と戦っています。
その度に固く尖った棘が剣を弾き、鋭い音を立てながら森を狂乱させています。
「そこだ!頑張れ!後ろから来ます!蟻さんの巣に気を付けて!もう一息です!踏むな!いけっ!あと1本です!うわー蟻さーん!!」
そうやって私が応援の声を挙げる度に騎士の動きが鋭く研ぎ澄まされ、次から次へと触手を地面に落として行きます。
騎士の狂ったような戦い方は憧れの王子様とは程遠いけれど、そんな事はこの際どうだって構いません。
触手が全て地面に落ちると、大蛇が甲高い奇声を上げながら体を揺らして体を少しづつ地面から引き出しはじめました。
地面の下に隠れていた姿が全て現れると、私はその姿に言葉を失いました。
其れは3メールを越す程の胴体から何本もの細い足を生やし、長い棘だらけの両腕を地面に突き下ろして騎士を見下ろしています。
あれはもう蛇なんかじゃなく巨大な百足でした。
「こんなヤツに勝てるわけが.....」
私が不意に弱音を口にすると騎士を包む光が少し小さくなった様に見えました。
けれど騎士の戦意はまだ衰え無いままムカデに斬りかかります。
ムカデは棘の付いた長い前腕を振り回して剣撃の全てを弾き、避け、いなし、薙ぐと。
私の足元に小さな光を宿した騎士が転がりました。
「おかしい.....突然力が抜けた」
「あんなヤツに勝てっこない!逃げようよ!」
「嫌です!トト王女、俺にもう一度力を下さい、声を聴かせて下さい」
「馬鹿なの?どうしてそんなに意地になってるの?」
「アイツを倒さないと俺は故郷に帰れないんです、愛する人に会えないんです」
「意味が分からない、死んじゃったらそれこそさ」
「だからですトト王女、生きてアイツを倒す為に俺に声を下さい」
私は騎士の言葉を聞いて笑ってしまいました。
(思ってみればムカデはどうしてトドメを刺しに来ないんだろう
いつだって私達を殺しに来れる筈なのにジッとこちらの様子を見ているだけです
それはきっと《《まだ騎士にビビっている》》んだ、だってそうでしょ?
さっきまで手も足も出ないまま《《一方的に》》触手を切り落とされていたんだら)
「うん、貴方なら絶対にアイツに勝てる、だってあのムカデは貴方にビビり散らかしてるもん」
騎士は一瞬ビクリと動くと再び光を取り戻し始めました、私は続けます。
「だから絶対に勝てる、故郷に戻って愛する人に必ず会える、私はそうだと信じるよ」
刹那、騎士の光は目を暗ませる程に眩しく輝き、私は暫く瞼を開く事が出来なくなりました。
暫くムカデと騎士が戦う音だけが聞こえて、甲高いリコーダーのような声が森中に響き渡りました。
薄暗い静かな森の中でゆっくりと開けた私の瞳には、痙攣しながら倒れるムカデの前で座り込む紅い騎士の姿がありました。
「本当に倒しちゃった......」
「俺も吃驚しています....これでやっと故郷に帰れます
ありがとう御座いますトト....アーディフィアーナ・トト王女、貴女様のお陰です」
「へ?アーディフィアーナ?」
「トト王女は魔使いの王国アーディフィアーナの王女様なのでしょう?俺はトト王女の名をアーディフィアーナ王国以外で聞いた事がありません」
私の頭は騎士の言葉を聞いて混乱しました。
(魔使い?アーディフィアーナ王国?トト王女って実際に居るの?)
「アーディフィアーナ王国は魔物によって滅んだと聞かされていましたがトト王女は生きて要らいたのですね、お目にかかれて光栄に思います」
「で、であるな、うむ、私も勇敢な紅き騎士に会えたことを光栄に思う」
(馬鹿っ!私は何を言っているんだ!)
「しかし何故こんな辺鄙な森に居らしたのですか?」
「疑問だな紅き騎士、お前を助けに来たに決まっているだろう?」
私はアドリブで発した王族口調に恥ずかしくなってしまって
紅い騎士に背中を向けて今にも火が吹き出してしまいそうな顔を隠しました。
(ううぅぅー......やってしまった調子に乗った....異世界だからって勢いに任せて大ホラを吹いてしまいました私の馬鹿!脳内ファンタジー!
流石にこんなの笑われてしまう.....)
私がまた泣き出してしまいそうになっていると、背後からガシャガシャと慌てて動く音が聞こえました。
「事情は分かりませんがトト王女自らが俺なんかの為に力を与えに来られたなんて、とても幸福に御座います!」
後ろを向き直ると騎士が跪いて頭を下げています。
(これは王国物の作品でよく見掛ける忠誠のポーズだ!信じちゃったの?こう言う時ってどうすれば.....)
脳内ファンタジー文庫に解決を尋ねるとこうありました。
「コホンッ....顔を上げよ勇敢なる紅き騎士、私にお前の名を教えると良い」
(......っっっっずかしー!!これは流石にやり過ぎです、早くお家に帰りたい.....)
「はっ!西の王国アンチェインから追放された騎士、エクス・ケルスです、追放された身でしたがこの化け物の首を持って無事王国に帰還出来ます!」
(あれ?これってもしかしたら上手く行って?脳内ファンタジー文庫ナイス過ぎじゃない?
もう戻れないし続けないと)
「エクス・ケルスと申すのか、良い名だ気に入ったぞ、実を言えば私は住める国を探してアンチェインを目指している、エクスに護衛を任せても良いか?」
「はっ!喜んで仰せのままに!」
「良い返事だ、期待しているぞ」
「アンチェインまでの時間をトト王女の可愛らしいお姿に寄り添えるなんて眼福の極みに御座います」
「おまっっっくぅー......クビ!!」
私は慣れない王女キャラと褒め言葉に完全に頭をショートさせて頭から煙を出しながら在らぬ方向に歩き出しました。
「こっちの方向ですトト王女」
そう言いながら私の後ろを歩くエクスの顔をしばらく見ることが出来ませんでした。
王国のロマンスなんて私にはまだ早かったみたいです。
そんな私の短い旅を光り輝く蟻さん達が森を照らして見送っていました。
ーーーーー続くーーーーー
エクスは真面目な紅い騎士。




