プロローグ:女神は爆笑を口に、人間は苦笑を飲み込む。
冷たい、身体が重い...サイレンの音だ...ああ、そうだ、私は昨日、首を.........
「起きて人々!起きてよ人々!私を残して行かないでよ人々!」
......お母さんか...面白いね、あなたが撒いた種じゃないですか、一丁前に心配しないで下さい.......ぺス......もう一度会いたいな.....私の生きてた唯一の意味だった.....返せ......
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「..目を覚ましなさい.....起きるのです.....」
誰?聞いた事の無い声.....
「目を覚ますのです、起きなさい.........ん?この先なんだっけ?あぁそうだそだそうだ、起きなさい親愛なる我が娘よ...」
......少し様子を見ましょう。
「おい!じゃなかった聞いていますか?」
ひっ、怒ってます?どうしよう起きたく無いな.....。
「目を覚ま.....おい起きろこら!けっ!ダーメだこいつ全然起きやしねぇ!もう自分でも何言ってんのか分かんなくなってきた、こう言うのゲシュタルト崩壊て言うんだっけか、おいラパ!こいつが来てからいったい何時間がたった!?」
「3時間ですよミカ、きっとこの子ももう.....おお神よ...このゴスっ子にその寛大なる御心でご慈悲を降らしたもう」
「神は私達なんだけど、それと正確には3時間19分6秒ってーかこれって転生者がうちに来てから起きるまでタイムの新記録じゃない?
しかも2時間も上塗りしてるよ!これはこれで才能だよ!きゃっきゃっきゃ!」
声が3人に増えた.....なんだか楽しそう......混ざりたいな、起きようかな。
「おい起きろゴスっ子!」
「いっ!ちょっと!起きないからって何も叩くことなくないで..しょ...え?」
目の前には自身を包めるくらいに大きな翼を生やした3人の天使が私を見下ろしていました。
「良かったわぁ、果弖菜ちゃんの二の舞にならなくって済んだみたいね」
糸目の天使が大きな胸に両手を押し当てながら安堵のため息を付くと
続いて褐色の肌をした白髪の天使が懐中時計を私に突き付けます。
「惜しい!あと7秒寝てたら22時22分22秒ぴったの起床だったのに!叩かれただけで起きてんなよゴスっ子!」
「そんなの知りまふごぉっ!.....」
赤髪の天使が私を押し倒して大きく振り上げた左手に光を宿すと見る見るうちに剣の形が形成されて行きます。
「よぉ~く寝ていたなぁ~えぇ~?良い夢は見れたのかな?ん~?んん~?おい、なんか言えやおら!寝過ぎなんだよゴスっ子!
そうですか分かりました喋りませんか永眠をご所望なんですね?理解した、お望み通りに滅びの詠唱をプレゼントしてやろう」
目の前に猛獣でも居るんじゃないかってくらいの圧を受けて私の瞳には涙が溜まって行きます。
震えるだけで抵抗の出来ない私は、怒れる天使の詠唱を聴く事が精一杯の状況です。
詠唱が進むに連れて剣の光が次第に膨らんで行くと⦅死⦆の一言が脳裏を過りました。
その刹那、イカれた天使に待ったの声が掛かりました。
「止めるのですミカ!この神聖なる監視者の神域を消し炭にするつもりですか!?その暴力の行きつく先には無が残るだけです!ほら!ガブも何か言っておやりなさい!」
糸目の天使が黄色い瞳を見開きながらミカを止めにかかると、ガブが重ねて言います。
「うんうんラパの言う通りだ、こんなミトコンドリアでも生きていたんだよ?首は吊ったけど頑張っていたんだよ?折角の二度目の人生なんだしコンマ1秒でも長く生かしてあげようよ、何よりも僕はまだ死にたく無いから止めろミカ」
ミトコンドリアは言い過ぎではないでしょうか.....遂に私の瞳に溜まった涙が表面張力の限界に達しました。
二人の説得に詠唱を止めたミカが舌打ちをして光の剣を消すと、私の口から手を引き下げて拗ねた様に口先を尖らせました。
「悪かったよラパ、ガブ、無駄な命かもって思うとつい、な?」
どうしてこの天使達はぺスを喪った心の痛みをオーバーフローさせにかかるのでしょうか、せめて私ににも謝って欲し
「お前もすまなかった、怪我は無いか?」
い.....悪い人では無いのかな?
「えっと..少しヒリヒリして血の味がします.....口の中を切ってしまったみたい」
「それなら私にお任せを、口の中から傷を奪い去ってあげましょう」
ラパがそう言って私の口に手を翳すと口の中から血の味も痛みも消えて行きます。
凄い!と、口を開こうとしたらどうしてでしょうか、口を一切動かす事が出来ません。
「どう?治ったかしら?.....どうかしらねぇ?.....ねえねえ?ん〜、ねぇガブ?この子ったらまた寝てしまったのでしょうか」
「相変わらずのヤブだなラパ、傷と一緒に感覚と運動機能まで奪い去ってどうするんだよ、果弖菜ちゃんもそんなノリで消してたしもう!早く返してあげなさい!ミカもこんなことして遊んでいる時間なんて無いだろ?反省しなさい!」
ラパがはいはいと言いながら再び私の口に手を翳すと、感覚と運動機能が返って来ました、ミカは口の端から歯を覗かせながら目線を斜め上に向けて悪態を付いて黙り込んでいます。
ガブが碧い瞳を凶悪天使二人から私に移してニヤリと笑います、その笑顔はあまりにも温度を感じない冷酷なものでした。
「お遊びはここまでだ、本題に移るから良く聞けよ良いな?
れからゴスっ子ちゃんには『チェイン』と言う異世界に行って貰う
そこにはゴスっ子ちゃんが好きそうな立派なお城や豪邸なんかもある自然豊かな世界だ」
「それってもしかして私を異世界転生させるというお話?もしそうだったら素敵です!私ね、子供の頃から異世界の令嬢に憧れていたの
立派な庭園に囲まれた大きなお城で初老のイケオジ執事を従えて、隣の国に住む幼なじみの王子様との恋愛に勤みながら可愛いドレスを着た友達とティーパーティーをする日々.....
でも意地悪な母上と、会うたびに虐めて来る親友気取りの悪役令嬢達に困ってしまうの
でも私は強く生きて行く....だって乙女は逆境で返り咲いてこそ美しくなる生き物なのですから.....
けれど、時には心に吹く冷い風に耐えられなくなって雨の中を宛も無くふらふらと漂う、そして遂に私は力尽きてその場にへたり込んでしまう.....
そこに運命の人が現れて私に手を差し伸べるのよ.....そう、そこから生まれるのは身分なんて関係のない真実の愛です、あぁなんて夢が広がるのでしょうか!」
「ふぁ〜、あ?終わった?ごめんイケオジくらいから聞いてなかったしそれは多分ちゃおとかそういう世界の話だろ?地球でやれ
あと妄想に釘を刺して悪いんだけどさ、これどっちかって言うと転生じゃなくて派遣だから」
私はこの時、乙女の夢なんて派遣の二文字もあれば簡単に打ち砕かれてしまうんだと言う残酷さをこの身を持って知りました。
「まっ、そんなスローライフが送れる異世界だったら昔はあったんだけど、そういうのはもう全部壊滅しちゃったね
今残っている世界って言ったら化け物ばっかが蔓延ってなんらかんらで滅びに向かってる『チェイン』と蒼い世界『地球』の二つだけになっちゃってるんだ」
「異世界って今そんなことになってるんだ.......」
「そうなんだよ、世界を統括している神が失恋のショックから自暴自棄になったみたいでね、憂さ晴らしに異世界に降り立って滅ぼして回ったんだよ
僕は八つ当たりの規模が神話すぎて着いて行けないよまったく
なのにチェインは手を下さなくても勝手に崩壊するから滅ぼすのは良心が痛いとか、我儘だよね?」
「心中お察しします.........」
「でね、僕達は考えた、チェインが崩壊を迎えたら地球の観測をするだけの生活になっちゃうな
退屈だな〜つまらないな〜嫌だな〜死んだ方がマシだな〜いっそ死ぬんじゃう〜?
そうだ!どうせなら地球人を使ってデスゲームをしよう!楽しみながら崩壊を見届けて思い出を残そう!うそうしようそうしよう
ってね、そんで僕達1柱につき1人に賭けようってなったんだ
早速転生者を3人呼んだまでは良かったんだけど、ラパのヤツが転生ミスって果弖菜ちゃんを消し炭にしちゃったから
たまたま果弖菜ちゃんが消滅した同時刻に死んでたゴスっ子ちゃんをここに呼んだってわけだ
これで駒は3人、私達は3柱、やっと公平なギャンブルが始められるよきゃっきゃっきゃ!」
「ガブ......どうして笑っているの?消し炭になった果弖菜ちゃんって人間でしょ?それに賭けるのって私の命なんだよね?」
「不満そうな顔だね、おっと皆まで言うな?何が不満か当ててやる
なになに?タダでは嫌だ?景品よこせ?そう来ると思ってちゃーんと用意しておいたよ」
「違いますけどもう良いわ、景品と言うのはなに?」
「異能だよ」
「異能.....ってどんな能力ですか?私すっごく気になります!」
「ゴスっ子は欲しがりさんだな、良いだろう教えるよ
一つ目は万物に作用する増幅系バフ、これは斑田未来無に与えた
二つ目は生物の想像を物質化させる具現化系バフ、これは儚枷伊吹に
三つ目は能力者を起点に発生した音で力を増幅させる強化系バフ、これはゴスっ子ちゃんことキミ、名染人々に付与済みだ」
「全部バフじゃない、音を出して強くなって生き残る未来が見えないんだけど」
「チェインに居る人間に掛けて守って貰うも良し、自分に掛けて逃げ回るも良しだ、それぞれそれぞれ
そしてこの異能が景品たる由縁を話そう
じつはチェインでの3日間を生き抜いて崩壊を迎えた時に、チェインの崩壊に付随した死を条件にして地球に逆転送するシステムを既にゴスっ子ちゃん達に埋め込んでいる
そして異能は地球に帰っても引き継がれるんだ、どうだい嬉しいだろ?きゃっきゃっきゃ!」
「バフを引き継いでもなぁ...しかもチェインで死ぬことは確定なんだね、私悲しくなって来た」
「がんばっ!そう言うことでチェインが壊滅するのまで3日しか無いんだ、とっとと始めちゃうよ
ラパ、ゴスっ子をチェインに転送してあげて、今度はミスっちゃ駄目だからね?」
「はーい、因みに私は斑田未来無ちゃんに賭けたからチェインで会ったら仲良くしてあげてね、それじゃあ行ってらっしゃ〜い」
そう言ってラパが翼を広げると蒼い光の輪が私を包み込みました。
光が大きくなるに連れて体が徐々に消えて行くのが分かります。
ラパが失敗をしたら消し炭になってしまうんだって思うと気が気でなりません。
「私は儚枷伊吹に賭けた、どうか私の代わりに守ってやって欲しい」
「僕は余り物には福が宿る事を知っているから最後に来たキミに賭けている、しっかり最期まで生き残って僕を楽しませてね!」
ミカは伊吹って子でガブが私なんだ。
もしかしたら戦わないといけないかもって思うと気が重いな。
光に包まれながら暗く落ちていく意識はガブの声を最後に途切れて行きました。
「どうせ滅ぶだけの世界へ行ってらっしゃい、最後の時間を何なりとお楽しむがいいよ、きゃっきゃっきゃ」
ーーーーー続くーーーーー




