ドレイクと逃げ足
「火陸竜!?」
燃え盛る木々の中にそいつはいた。
しかし、火陸竜は本来、火山や地底深くに生息するモンスター。それがなぜこんなところに?
はぐれモンスターにしても、あまりに生息域が離れすぎている――。
翼のない竜、陸竜種。
その中でも、赤黒い鱗を持ち、火球を吐く陸竜種――それが火陸竜。
体長は少なくとも10メートル以上。
厳密には、種としての分類が不明なドラゴンではなく、トカゲから進化した爬虫類の一種とのことだが、見た目は翼の有無を除けば違いがほとんどわからない。
飛竜とも似た、ドラゴンのようでドラゴンではない生物。
異なる種が進化の果てに同じような形質を獲得する、収斂進化というものらしい。
そして当然ながら、このモンスターも岩鬼と同じか、それ以上の脅威。
中ランク冒険者で編成された討伐隊か、高ランク冒険者――あるいは『勇者』でなければ討伐は難しいだろう。
僕、新米魔法使いのアルヴィス・クローリーのような、低ランク冒険者なんかが太刀打ちできる相手ではない。
だけど今は、圧倒的な強さを持つ“合気”の使い手――天河ユウキが居る。
ユウキなら――。
ふと見れば、火陸竜の前に人影があった。
「うわあぁ、誰かぁ~!」
「た、助けてくれぇ! 食われる~!!」
あれは――ウィリアムとクリル!?
2人は火陸竜を前にして、腰を抜かしてへたりこんでいる。
彼らも冒険者だ。あの後、何らかの依頼でこのあたりに来ていたのか。そして運悪く、この火陸竜と遭遇したらしい。
「アルくん……!」
ユウキが僕の方を見る。僕に判断を求めているようだ。
岩鬼の時とは真逆の状況――。
僕を突き飛ばし、囮にして逃げた奴ら。
あの時の彼らと同じように、見殺しにして逃げるか。あんな奴らのために、わざわざ危険に飛び込む必要があるのか。
――そんなこと、考えるまでもない。
「助けよう!!」
「うん!」
僕とユウキは迷わず火陸竜に向かって行った。
「【魔法弾・六連】!!!」
立て続けの魔法弾が火陸竜を直撃する。
大して効いている様子はない。でも、こちらに気を引ければそれでいい。
「2人とも、今のうちに逃げて下さい!」
「ひぃぃいいぃぃぃ……!!」 「おたすけぇぇぇぇ……!!」
情けない声を上げながら、2人は礼も言わず一目散に逃げ出す。
ものすごい逃げ足の速さだ。
そういえば岩鬼の時もあんな感じだったなと、妙なところで感心してしまう。
グロロロロ……!
火陸竜は、逃げ出した獲物と、新しくやって来た獲物、どちらを狙うべきか迷っているようだ。
その隙を突いて、ユウキが火陸竜の顔面めがけて斬りつける。
「たぁぁ――――っ!!」
ガッ!
「硬っ……た」
硬い鱗に阻まれた。
眼を狙ったようだが、そう簡単には通らないか。
ドラゴンほど硬質な鱗ではないものの、それでも、よほど重量のある大剣か斧でもなければ傷をつけるのは難しいだろう。
「うあっ」
そのまま火陸竜が頭突きを放った。
ユウキはそれを剣で受け流し、音もなく後方に転がって一瞬で態勢を立て直すが――。
「アルくんに買ってもらった剣が……!!」
見ればユウキのショートソードは、刀身が半ばほどからポッキリと折れてしまっている。
それはそうだ。ユウキはなるべく軽量で、刃が鋭いものを選んでいた。
どうも『カタナ』とやらに近いものが欲しかったらしいが。
剣は包丁のように薄く、鋭く研ぐことはできない。そんなことをすれば強度が足りず、すぐに折れたり曲がったりしてしまうからだ。
折れず、曲がらず、よく切れる――。
そんな都合の良すぎる剣が、存在するものなのだろうか?
ともかく、それで火陸竜の鱗を斬りつけたり、頭突きを受け流したりすれば、折れてしまうのも当然だ。
ユウキはお気に入りの玩具を壊してしまった子供のようにしょんぼりしている。
グォ……!
火陸竜が大きく息を吸い込むのが見えた。
「――危ない!」
ドォォオオン!!
体内で可燃性のガスを発火させて撃ち出す、火球状のブレス攻撃だ。
ユウキは僕が叫ぶまでもなく、ひらりと躱していた。
ドォン!
ズドォォオォン!!
爆発音が鳴り響く。
火球ブレスは脅威ではあるが、直前に大きく息を吸い込む動作をするため、注意していれば僕でも何とか避けられる。
ましてユウキであれば、この程度の攻撃を避けることなど造作もないだろう。
しかしここは森の中、こうもやたらめったに火球を吐かれると一気に延焼が広がってしまう。このまま延焼が広がれば、いずれ街の方にも影響が出る。
さらに、燃え盛る木々の熱で火陸竜の体がどんどん赤熱していく。
凄まじい熱気――。
ユウキの“合気”は、触れることができなければ使えない。
赤熱した火陸竜の体に触れれば、ただの火傷では済まない。
このまま逃げるのも一つの選択ではあるが、こいつを放置していたら、すぐにとんでもない規模の火災になってしまうことは間違いない。
「くぅ……」
ユウキもどうすべきか考えあぐねていた。
どうする……。火陸竜の弱点は……。
――そうだ。
確か、こっちの方向には――。
「【魔法弾・六連】!」
ダメージは与えられずとも、顔面に向けて連射すれば嫌がらせにはなる。
事実、火陸竜は鬱陶しそうに首を振る。
その隙に、僕はある場所に向かって走り出す。
「ユウキ、こっちへ!!」
「――! わかった!」
ユウキも即座に応える。
あの場所なら、なんとかなるかも知れない。
僕らは火陸竜を誘導しながら、“そこ”へ向かって走っていく――。




