剣とハーネス
『剣術:B』
――???
僕、新米魔法使いアルヴィス・クローリーは、“合気”という技を使う女の子、天河ユウキとともに冒険者ギルドに来ていた。
この世界で生きていくには身分を証明できるものがあったほうがいいのと――。
先日の一件で逆に増えてしまった借金の返済を、彼女に手伝ってもらわなければならない、というのもある。
そんなわけで、ユウキの冒険者カードを発行してもらいに来たわけだ。
「へぇー! ロープレみたいだね」
「ろーぷれ?」
ユウキはたまに元の世界のものと思われる言葉を口にするが、面倒くさいのか、あまり詳しく説明してくれないことが多い。
そういう時は追求しても意味がなさそうなので、僕も適当に流すようにした。
「どれどれ――【能力開示】!」
冒険者カードには能力を自動測定、判定する“魔法式”が刻まれている。
あくまで大雑把な目安にすぎないが、ある程度どういう能力があるかわかっていたほうが、依頼を受けるにもパーティーを組むにも都合がいい。
で、早速、ユウキの能力を見てみたところ――。
「剣術……?」
ユウキが剣を使っているところなんて見たことがないけれど。
それにランクはB。仮に“合気”が剣術と誤判定されているとしても、あの異常な強さとは釣り合っていない。
この世界にない技や能力は正しく判定できないのか。
彼女に聞いても、剣術については「握り方を知ってるくらい」としか返ってこなかった。
筋力はE。魔力もE。
最高評価のSを含む6段階評価なので、これは最低評価ということになる。
ステータス上は本当にただの女の子――。
ユウキは華奢だが痩せぎすでもなく、いわゆるメリハリのある体型ではある。
とはいえ、この世界の――まして冒険者ともなれば男女問わずガッシリした体格が多いため、それと比較するとやはり小柄で線も細い。
なのに、岩鬼や酔っ払いの巨漢たちを軽々と放り投げるあのパワーは一体どこからきているのだろう。
ちなみに、冒険者カードは総合的な能力や実績、功績に応じて、低ランクの“ブロンズ”、中ランクの“シルバー”、高ランクの“ゴールド”に分かれている。
王国直属の冒険者――つまり「勇者」にはさらに上があるが、まあ僕らには関係ない話だ。
僕やユウキは低ランクの“ブロンズ”カード。
ユウキの場合、実力的には“ゴールド”でもおかしくないのだが――カードに表示されるステータスの低さや冒険者としての実績がないことを考えると、そうなるのも仕方ない。
手続きを済ませたあと、その足で武器屋にやってきた。
「うはぁ―! マジでロープレだあ……!
やっぱこういうの、ちょっとテンションあがっちゃうよねー」
“ろーぷれ”がなんなのかはともかく、ユウキは楽しそうに目を輝かせている。
不要な気もするが、飾りであっても武器は持っておいて損はないだろう。
ユウキはおもむろに手に取った剣を抜き、ヒュンヒュンと手慣れた感じで数回振ると、そのまま一呼吸でパチンと鞘に収める。
――「握り方を知ってるくらい」って言ってたよね?
でもまあそうか……。剣術Bといえば、中ランク冒険者くらいの技量はあることになる。
あながち誤判定でもなかったわけだ。
武器屋の店主も、ユウキの思わぬ剣さばきを見て驚いていた。
最終的にユウキは手頃なサイズのショートソードを選んだ。
邪魔にならず、剣士としての格好もつく。――使うかどうかはわからないが。
僕も魔法の杖を一本選んで購入。
魔法には呪文や魔法式が必要となるが、杖があると、ある程度省略できる。
さらに、杖に魔力を充填しておいて、いざという時に取り出すという外部魔力装置としての機能もあるのだ。
ユウキと一緒なら、多少危険な依頼でもこなせるようになるだろう。
そう見込んで、ちょっと奮発させてもらった。
借金はあるものの、額が額だけに生活費まで取り立てられることはない。
人の命が安い世の中だ。だからこそ、生活すらままならなくなるほど追い込んで返済前に死なれても、逆に何のメリットもないというわけだ。
――まあ、父の残した借金が“ただの借金ではない”というのもあるのだが――。
ん?
「アルくん! ――どうかな、かっこいい?」
そう言って僕の目の前でくるりとまわってみせるユウキに、「ンッッ!」と変な声が出そうになってしまった。
ユウキは剣がぶらぶらしないよう、しっかり体に固定するベルトも購入した。
胴体に固定したベルト――ハーネスから吊るして腰のベルトを二重に固定する、という構造なのだが――。
セーラー服を縛るベルトによって強調される――“圧倒的質量”!!!
いや……。
でも確かに剣士らしく、とても様になっている。
そして、やっぱり可愛い――。
「アルくん?」
眼鏡越しの瞳が不思議そうに僕の顔を見つめる。
「――はっ!
い、いいですね! すごく似合ってます」
――すごく可愛い――。
ともかく準備は整った。
ギルドで初仕事にちょうど良さそうな依頼も受けておいたし、「いざ、冒険に出発だ!」と楽しそうなユウキにつられて、僕も「おーっ!」と腕を上げる。
意気揚々と武器屋を出たところで――僕は見覚えのある2人組と鉢合わせした。
「あ……!」
「――あれぇ? 生きてたんだ、お前」
剣士の2人組。
岩鬼に襲われた時、僕を置いて逃げた即席パーティーのメンバー、ウィリアムとクリルだった――。




