表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『天気予報士、悪役令嬢になる。』 ― 空を読む者、神を越えぬ祈り ―  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/28

空の学院 ― 《理を読む者たち》

講堂の窓から、朝の光がやわらかく差し込んでいた。

淡い風がカーテンを揺らし、空気の粒が金色にきらめく。


天井には、風の紋章と方位環――王国が再び“空と共に生きる”と誓った印が刻まれている。

壁際の風計が、カラリ……カラリ……と音を立てて回る。

まるで、誰かの呼吸のように穏やかで、途切れない。


黒板には、複雑な気流方程式が書かれていた。

その横に、チョークで小さく記された詩のような文字。


『空は怒らない。理解されるまで、何度でも流れる。』


白い文字は光を受けて淡く光り、教室の空気に溶けていく。

その詩を、学生たちは静かに見つめていた。

椅子の軋む音さえもためらわれるほどに――。


講壇に立つのは、学院初の教官、アイリス。

凛とした姿に、かつて嵐の中で空と語った少女の影が重なる。


彼女はゆっくりと振り返り、穏やかな声で言葉を紡ぐ。


「理とは、神の言葉を“読む”ための道具。

 祈りは、その言葉を“感じる”ための心。

 どちらが欠けても、空は見えないのです。」


その声は、風のように静かで、しかし確かに響いた。

学生たちの瞳が、一斉に光を帯びる。


今日もまた、この学院の中で――

“空を理解しようとする人々”の一日が、始まっていた。



アイリスは講壇の前に立ち、静かな呼吸とともにチョークを取った。

教室の空気は、朝の光と風計の小さな音だけに満たされている。


黒板に、彼女はゆっくりと二文字を書いた。


「理」

「祈」


白い粉が舞い、陽光にきらめく。

彼女は二つの文字のあいだに一本の線を引き――穏やかに微笑んだ。


「理とは、神の言葉を“読む”ための道具。

 祈りは、その言葉を“感じる”ための心。

 どちらが欠けても、空は見えないのです。」


チョークを置く音が、小さく響いた。

学生たちは誰も動かず、ただ真剣にその言葉を受け止めていた。


アイリスは視線をめぐらせ、やわらかく言葉を継ぐ。


「この線――それが、私たちの仕事です。

 理と祈りをつなぐ、“観測”という橋。」


教室の最前列では、短く切った髪の少女がノートを強く握りしめていた。

その瞳の中に宿るまっすぐな光――どこか、あのメグを思わせる。


風がそっと窓をくぐり、黒板のチョークの線をなぞるように吹き抜けた。

その一瞬、教室全体がやさしく息づいたようだった。


講堂の扉が、コンと小さな音を立てて開いた。

すぐに柔らかな風が流れ込み、黒板に貼られていた紙片がふわりと舞い上がる。


教室中がざわめく中、軽やかな声が響いた。


トール:「先生、南風が変わりそうだ。今夜は雨だな。」


学生たちが一斉に窓の外をのぞく。

雲が西の空から静かに流れ込み、風計の羽根が少し速く回転を始めていた。


アイリスは微笑みを浮かべ、チョークをそっと置く。


アイリス:「……さすが“風読士”。

 理だけじゃなく、空の気持ちも読めるのね。」


トールは軽く肩をすくめ、いつもの無造作な笑みを浮かべた。


トール:「天気は嘘をつかねぇ。

 あいつ――いや、“あの人”が残したノート通りさ。」


彼の腰には銀色の徽章――風読士の証が揺れていた。

それは、かつてメグが提唱した“理と祈りの共存”を形にした、新たな職の象徴。


講堂の窓の外で、風がやさしく唸る。

学生の一人が小さく呟いた。


「……先生、空が笑ってるみたいです。」


アイリスはその言葉に微笑で応え、そっと空を見上げた。

そこには、どこまでも広がる青と白――

メグが遺した“理解された空”が、今日も息づいていた。


講義が終わる鐘の音が、遠くの塔からかすかに響いた。

学生たちはノートを抱え、弾むような声を上げながら講堂を飛び出していく。


窓の外では、白衣を翻しながら若い風読士たちが観測器具を掲げ、

雲の流れを追いかけて走っていた。

青空の下、塔の風計がくるくると速く回転し、

朝の光を受けて銀の輪を描く。


アイリスはその光景を見つめながら、

静かに息を吐いた。


アイリス(独白):「……メグ。

 あなたが話した空は、今、確かに“学ばれて”いるわ。」


柔らかな風が教室に吹き込み、黒板の隅に残ったチョークの粉をさらっていく。

その一瞬、風の音の中に――

まるで彼女の笑い声のような、微かな響きが混じった気がした。


アイリスは目を閉じ、微笑む。

風が髪を揺らし、

空の青が、かつてよりもいっそう澄んで見えた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ