第8話 戦雲
王都へ戻る道すがら、騎士団の空気は高揚していた。
「ハイオークを討った勇者様だ!」
「衛士殿がいればどんな敵も怖くない!」
笑い声と賞賛が飛び交う。
だが灰原衛士は笑わなかった。
魔物が言葉を話す。それは戦場の異常だ。自然発生ではない。
誰かが背後で仕組んでいる。王国か、あるいは——。
その思考が頭の奥から離れなかった。
◇
王城に戻るや否や、騎士団は大広間に集められた。
壇上には王と宰相、騎士団長。そして一人の伝令が膝をついていた。
「報告いたします! 西の帝国軍が国境を突破、前線都市に迫っております!」
ざわめきが広間を揺らした。
宰相が声を張る。「帝国は魔導兵を前面に押し立てているとのこと。王国は総力を挙げ、これを迎え撃たねばならぬ」
騎士団員たちの表情が引き締まる。
その中で王がゆるりと口を開いた。
「灰原衛士」
視線が一斉に集まる。
「そなたの力はすでに証明された。ゆえに、勇者候補として西部戦線に加わり、帝国の兵を退けよ」
命令だった。拒否の余地はない。
衛士は短く答えた。
「承知しました。ただし、指揮系統を明確にしてください」
宰相が眉をひそめる。「何を言う」
「前線で命令が錯綜すれば、兵は死ぬ。誰の命令に従うか、明確にしていただきたい」
沈黙が広がる。
騎士団長が低く笑った。「筋は通っている。灰原は、我が直属とする」
宰相が何かを言いかけたが、王の一声で押し潰された。
「よかろう。西部へ赴け。王国の盾となれ」
◇
その日の夕刻。
衛士は訓練場で地図を広げ、西部戦線の配置を確認していた。
補給路の位置、河川、砦。すべてを頭に叩き込む。
イレーネが近づいてきた。
「また地図? 少しは休んだら?」
「休んで死ぬより、準備して生き残る方がいい」
「ほんとに……あんたらしい」
彼女は笑いながらも、目は真剣だった。
「一緒に行くんだ。絶対に死なせない」
「逆だ。お前たちを死なせない。それが兵士の仕事だ」
イレーネは黙って頷いた。
夕陽が石畳を赤く染める。その空は、戦火を予告するかのように重かった。
(第9話につづく)
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