第4話 騎士団の試し
王城の演習場は朝から熱気に包まれていた。
砂を敷いた広場の周囲を、鎧をまとった騎士たちが取り囲む。
灰原衛士は剣を渡され、木剣を手に取った。重心を確かめ、柄の摩耗具合を確認する。実戦に使われるものではない。それだけで、彼にとっては十分だった。
「勇者候補様のお手並み、拝見しようか」
前に出たのは副団長レオニス。二十代後半、筋骨逞しく、王国騎士の模範と呼ばれる男だという。
「外様の異邦人に舐められては、我らの面目が立たぬ」
そう言って剣を構える姿に、周囲の騎士たちは歓声を上げた。
衛士は木剣を低く持ち、足を半歩開いた。
無駄に声は出さない。呼吸を整え、間合いを測る。
◇
合図と同時に、副団長が踏み込む。鋭い突き。
速い。だが——速さだけだ。
衛士は半歩だけ斜め後ろへ下がり、突きの軌道を外す。
木剣の切っ先が自分の鼻先をかすめるより早く、左足を副団長の膝裏に滑り込ませた。
「っ……!」
副団長の体が揺らぐ。
その腕を衛士は木剣の柄で叩き落とし、体勢を崩したまま胸板を木剣で軽く押す。
——それで、終わった。
一瞬の出来事に、観衆の声が止んだ。
砂煙の中で、レオニスが目を見開き、口を開ける。
「まさか……」
衛士は木剣を下ろし、短く言った。
「実戦なら、ここで喉を突く」
◇
静寂を破ったのは、誰かの笑い声だった。
「すげえ! 本物だ!」
次いで拍手と歓声が広がる。
だが同時に、畏怖の色が混じっていた。
外様の異邦人が、王国騎士団の副団長を一撃で下した。
その事実は、歓迎と同時に、恐怖も植え付ける。
副団長は悔しげに立ち上がり、胸に拳を当てて頭を下げた。
「完敗だ。だが忘れるな。我らの剣は民を守るためのもの。そなたの力が、そのためにあると信じたい」
その言葉に、衛士は小さく頷いた。
「守るのは、人だ。名誉や儀礼じゃない」
ざわつく団員たちの中で、三人が特に近づいてきた。
快活そうな若者、落ち着いた眼差しの男、そして背の高い女騎士。
彼らは笑みを浮かべ、次々に声をかける。
「やるじゃないか!」「本物だな、勇者様!」「あたしは惚れたよ!」
衛士は心の奥で思った。孤独で終わるはずが、違うのかもしれない。
その考えが正しいかどうかは、まだわからない。
(第5話につづく)




