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第3話 王都にて



 王都は思ったよりも静かだった。

 高い石壁に囲まれ、城門には槍を持つ兵士が立ち並んでいる。だが、その姿勢は緩慢で、視線も定まらない。

 灰原衛士は馬車の荷台に揺られながら、一瞥するだけで理解した。この軍は形だけだ。


 列を成す商人が賄賂の小袋を兵に押し付ける。その度に門はあっさり開く。

 「王国の守り」が、これでいいのか。

 衛士は声に出さなかったが、胸の奥に冷たいものが溜まった。


 馬車が石畳を軋みながら城内へ入ると、両脇に市場が広がる。華やかな布と香辛料の匂い。だが、路地裏に目をやれば、痩せ細った子どもが骨のような手でパン屑を奪い合っている。

 格差がひと目でわかる街。腐敗の臭いは、こうして染みつく。


     ◇


 謁見の間は白い石柱と絢爛なタペストリーで飾られていた。

 壇上に座す王は壮年で、威厳の中に老いが混じる。隣には宰相、鎧をまとった壮年の騎士団長。

 衛士は無言で進み出て、膝をついた。王国の儀礼など知らない。だが背筋を伸ばし、軍人らしく最低限の敬意だけを示す。


「そなたが異邦より来たりし“勇者候補”か」

 王の声は広間に響く。

「はい。灰原衛士、兵士です」

 静かに答える。勇者と呼ばれても、否定はせず正す。兵士であることが、自分の軸だからだ。


 宰相が細い目を光らせる。「辺境の村を救ったと聞く。獣の群れ、盗賊二十余……それを僅かで退けたとか」

「村人たちが協力した結果です」

 淡々と返す。事実を述べる。誇張は要らない。


 騎士団長が一歩前へ出る。「ならばその才、王国のために振るえ。騎士団に所属し、次の戦に備えてもらう」

 それは命令だった。拒否は許されない空気。

 衛士は一瞬だけ考え、短く答える。

「承知しました。ただし——」

 宰相が眉をひそめる。「ただし?」

「命令は合理であるべきです。無謀な策は兵を殺すだけ。私は兵士として、それに従う気はありません」


 広間の空気がわずかに凍った。

 だが王は目を細め、低く笑った。

「……面白い。良かろう、騎士団長。そなたの下に付けよ」

「はっ」騎士団長は胸に拳を当て、深く頷く。


 宰相の視線だけが冷たかった。あれは監視の目だ。

 ここでは一歩踏み違えれば即座に切り捨てられる。


     ◇


 謁見が終わり、城の外に出ると、若い兵士が衛士を案内した。

「明日、騎士団に顔合わせを。模擬試合もあるかもしれませんよ」

 にやりと笑う。その声色には、外様を試す色が混じっていた。


 衛士は歩きながら、石畳に映る夕陽を見つめた。

 兵を殺すのは敵ではない。無能な上と腐敗だ。

 この国も例外ではない。


 ただ、それでも——目の前にいる人を守る。それが兵士の任務だ。

 衛士は静かに息を吐き、次の戦場を見据えた。


(第4話につづく)


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