第17話 迫る二つの戦線
王都を発って五日。
灰原衛士たちは東方辺境へと到達した。
街道の両脇には焼け落ちた家屋の残骸が点々と並び、黒煙の匂いがいまだ残っている。
道端に放置された荷車、散乱する食器、切り倒された柵。
人影はなく、ただ風だけが寂しく草を揺らしていた。
ライナスが低く唸った。
「……畜生、これじゃ帝国の侵攻と変わらねえ」
イレーネが剣の柄に手をやり、険しい顔をする。
「ただの盗賊が、こんな徹底した略奪を……?」
カイルは地面に膝をつき、土を指でなぞった。
「馬車の轍。十数人、重い荷を引いて北へ向かってるな」
衛士は頷き、声を低くした。
「追う。任務は盗賊の排除だ。時間をかけるな」
◇
森を抜けた先に、粗末な砦があった。
丸太を組み合わせただけの柵で囲まれ、中には数十の盗賊が酒をあおり、女を引きずり回して笑っていた。
その光景に兵士たちは怒りで顔を赤くする。
「夜まで待つ。混乱を利用する」
衛士の声は静かだったが、全員の背筋を正させた。
日が沈むと同時に作戦は始まった。
弓兵が東の丘から火矢を放ち、柵が炎に包まれる。
「な、なんだ!?」「敵だ!」
慌てふためく盗賊たちに、林から突撃した騎士団が襲いかかった。
イレーネの大剣が唸り、ライナスが笑いながら敵を蹴散らし、カイルの矢が頭目を次々に射抜いた。
衛士は最前線で剣を振るい、逃げようとする賊を無力化した。
「無駄だ。降伏しろ」
冷徹な声に、多くの盗賊は武器を投げ出した。
戦いは一夜で終わり、翌日には砦を焼き払い、捕らえた賊を縛り上げて王都へ送ることに決めた。
◇
数日の滞在が始まった。
破壊された村に残っていた人々は怯えながらも救いの手に縋った。
子どもたちは泣きじゃくり、女たちは兵士に頭を下げ、老人は衛士の手を取り「ありがとう」と繰り返した。
イレーネは子どもたちに剣の真似事を教え、笑顔を取り戻させた。
ライナスは壊れた小屋の梁を肩で支え、村人と共に修理を始めた。
カイルは黙々と矢を削りながら、子どもに弓を見せて興味を引いた。
衛士は物資を分配し、夜は火を囲んで警戒を怠らなかった。
数日ぶりに灯った暖かな笑い声。
——その時だった。
「報告!」
伝令が駆け込んできた。
「西方より帝国軍が再侵攻! さらに北方からも別働軍が王都を目指しております!」
空気が凍りついた。
衛士が詰め寄る。
「距離は?」
「西方の村まで二日! 北方の軍勢は、五日で王都に到達する見込みです!」
イレーネが息を呑んだ。
「西の村……この前、衛士が救ったあの場所じゃない?」
ライナスが拳を握り締める。「放っておけるかよ!」
カイルが冷静に言う。「村を救うのは合理的ですが……命令に背けば逆賊扱いされます」
伝令は息を切らしながら告げた。
「王国の方針は明確です! 城に戻り、防備を固めよとの命令!」
◇
衛士は地図を広げ、睨みつけた。
——西の村へは二日。間に合う。
だが王都の城までは五日。時間差で考えれば、村を救ってからでも城へ向かえる。
「……村を救うべきだ」
低く呟くと、ライナスが真っ先に頷いた。
「そうだろ! 人を見捨てて城に籠もるなんざ、兵士のすることじゃねえ!」
イレーネも険しい顔で言った。
「村人は戦えない。城はまだ守れる。でも村は違う」
だがカイルは反論する。
「王国の命令に背けば、たとえ勝利しても処罰は免れない。勇者候補としての立場も危うくなる」
衛士は拳を握り締めた。
兵士としての理と、人間としての情が衝突している。
守りたいものと、背負わされたもの。
沈黙の中、焚き火の炎が揺れ、誰もがその答えを待っていた。
(第18話につづく)
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