第14話 戦場を制す者
朝靄が晴れ、北西の平原に緊張が走った。
帝国軍五千、規律正しい陣列を組んで前進を開始する。
槍と盾の壁がじりじりと迫り、後列の魔導兵が杖を掲げて詠唱を始めた。
王国軍三千は砦を背に布陣していた。
しかし兵たちの顔は青ざめ、足は震えている。
勝利の余韻はすでに消え、圧倒的な敵の規律に恐怖が押し寄せていた。
灰原衛士は静かに剣を抜き、声を張り上げた。
「恐れるな! 奴らは人間だ! 血も肉も同じだ!」
その声に兵士たちの呼吸が整い、足並みがわずかに揃う。
◇
帝国軍の魔導砲撃が火を噴いた。炎の弾が飛び、雷光が地を走る。
だが灰原は即座に命じる。
「弓兵、狙うのは魔導兵の杖! 腕を潰せ!」
矢が一斉に放たれ、後列の魔導兵たちが悲鳴を上げる。杖が折れ、術式が爆ぜて後続を巻き込んだ。
「煙を焚け! 湿った薪だ!」
黒煙が立ち込め、帝国の視界が閉ざされる。
その隙に灰原は叫んだ。
「右翼、突撃! 槍衾の端を崩せ!」
ライナスが先頭で駆け、イレーネが大剣を振り抜き、カイルの矢が敵の隙を射抜く。
王国兵が一丸となって押し込み、帝国右翼が崩れ始めた。
◇
戦場中央に、帝国軍の指揮官が現れた。
鎧に金の装飾をまとい、長剣を振るいながら兵を鼓舞する。
その姿に兵士たちが怯みかけた瞬間、灰原は馬を蹴った。
「ついて来い!」
彼は小隊を率いて敵陣を突破。槍を弾き、盾を蹴り倒しながら道を切り開く。
イレーネが正面を斬り裂き、ライナスが豪快に押し込み、カイルが矢で援護する。
数十秒で敵将の前に躍り出た。
剣と剣がぶつかり、火花が散る。
敵将は力任せに斬り下ろすが、その動きは直線的だ。
灰原は半歩沈み込み、刃を逸らして懐に潜り込む。
肘で鳩尾を突き、逆手に構えた剣を喉元に突きつけた。
「お前の軍は終わった」
敵将が呻き声を上げて倒れた瞬間、帝国軍は総崩れとなった。
混乱が一気に広がり、退却の合図が走る。
◇
勝利の歓声が戦場に響き渡った。
「勝った!」「勇者だ!」「軍神だ!」
兵士たちが灰原を取り囲み、涙を流して叫ぶ。
だが灰原は静かに剣を拭い、冷たく言った。
「俺は勇者じゃない。兵士だ」
副団長レオニスが馬上から頷いた。
「兵士こそ軍の心臓だ。お前が示した」
イレーネは笑みを浮かべ、低く囁いた。
「やっぱりあんたは、ただの兵士じゃない」
その言葉の余韻を切り裂くように、砦の見張りが叫んだ。
「帝国の別働隊! 北の丘に布陣中!」
勝利の空気が凍りつく。
灰原は振り返り、遠くの地平線に揺れる新たな旗を見つめた。
まだ戦争は終わらない。むしろ、これからが本番だ。
(第15話につづく)
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