第11話 勇者ではなく兵士
夜襲の勝利から二日。
西部戦線の砦には活気が戻っていた。
負傷者はいるが、士気は高い。兵士たちの顔には疲労よりも安堵が浮かんでいる。
「灰原様!」「あの作戦は奇跡だ!」
兵士たちは口々に衛士を称えた。
だが、衛士は首を振る。
「奇跡じゃない。準備と規律が勝たせた。……それを忘れるな」
厳しい口調に、一瞬空気が固まったが、やがて兵士の一人が深く頷いた。
「……はい!」
◇
その夜、焚き火を囲んで小さな宴が開かれた。
ライナスが酒瓶を掲げる。
「衛士! お前は俺たちの命の恩人だ! 今日くらい飲め!」
「戦場で酒は——」と言いかけた衛士に、イレーネが横から口を挟む。
「まあまあ、乾杯の一口くらいなら許してあげたら? ね、隊長さん」
からかうように笑う瞳は、どこか誇らしげでもあった。
渋々杯を口に運ぶと、兵士たちの歓声が上がった。
「飲んだぞ!」「勇者様万歳!」
「勇者じゃない。兵士だ」
そう訂正する声にも、兵士たちは笑って頷いた。
「俺たちにとっては、兵士であろうが勇者であろうが関係ない。生き残らせてくれるのはあんただ」
灰原は杯を置き、静かに火を見つめた。
守るべきは肩書きではなく、人間だ。
そう思えた瞬間だった。
◇
翌朝。
砦に王都からの伝令が到着した。
「帝国の第二軍が北西の街に進軍中! 騎士団は増援として出陣せよ!」
砦に緊張が走る。
副団長レオニスが兵を集め、声を張り上げる。
「次は正面からの戦だ! 我らの刃で帝国を退けるぞ!」
兵士たちが鬨の声を上げる。その熱の中、視線が自然と灰原に集まった。
「灰原殿! 次も共に!」
「今度こそ俺たちが支える番だ!」
衛士は短く頷いた。
「……いいだろう。だが覚えておけ。勝利は血で買うものじゃない。頭で勝ち取るものだ」
その言葉に、兵士たちは拳を握りしめた。
◇
砦を出発する直前、イレーネが馬上で振り返る。
「衛士。あんたがいると、不思議と勝てる気がする」
「勝つんじゃない。生き残るんだ」
そう言って前を見据える衛士の横顔を、イレーネは静かに見つめていた。
陽光の下、西へ向かう騎士団の列。
その背中には、確かな期待と希望が宿っていた。
まだ、この戦場には光がある。
(第12話につづく)
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