泣く事くらいは許してほしい
[この涙は誰のために]
貴方に届かないと分かっていても、声を出してしまう。頬を涙が伝ってしまう。
愛していたと、好いていたと。
何故、こうなってしまったのだろうと。
今更言って遅いことなんて分かっている。だけど、言わずにはいられなかった。
喉が痛くて悲鳴をあげる。もう限界だと言わんばかりに。
だけどそんなのお構いなしにたくさん泣いた。掠れて、聞くに耐えない声で叫び続けた。
涙が枯れて仕舞えば、きっとこの悲しみも忘れだろうと心のどこかで思って。
声が枯れて仕舞えば、きっとこの後悔もない事になるのではないかとそう思って。
だけど悲しみは無くならなかった。勿論、後悔も。
勇者が悪を打ち倒して、共にこの世を去ったその記念日の空は必ず、青かった。何年経ってもその日だけは、前の日が大雨だろうが空は綺麗な晴天だった。
神が祝福をしているように、透き通るくらい綺麗な青だった。
それはもう残酷に、涙が出てしまうほどに。
世間は大変な程お祭り騒ぎ。晴天と同じように、何年経っても、その騒ぎは消えなかった。
だけど私は悲しくて仕方がなかったよ。
好きだとは言えなかった。
死んでほしくないなんて、もっと言えなかった。
貴方は心配されるのが嫌いだったから。
貴方を心配できる立場に私はなかったから。
あの時、見放してしまったのだ。
貴方が正義に盾をついた時から、私は知っていた筈だった。
それでも、心のどこかではきっと平気だと思っていた。貴方はいつか帰ってくると、貴方は死なないと漠然とした確証を持っていた。
だけどそれは浅はかで愚か考え。
現実はもっと、もっと、想像もできないくらい悲しく優しくはなかった。それはもう、言葉には表すことができないくらい。
掴みどころのない言葉しか出てこないくらい。
乾いた笑いが出てくるくらいには。
青い空は、貴方の死を馬鹿にしているのかと思った。
世間のお祭り騒ぎは、貴方を否定しているように思えてしまう。
今日は二人の偉大な人物の命日。
勇者と魔王。
だけど、魔王の死を悲しんでいるのはきっと私だけだと思う。
みんなは魔王が死んだことに喜んでいる。
いいや私も、魔王の死は悲しんでいない。私は魔王となり死んでしまった、幼馴染の死を悲しんでいるだけだ。
結果的には、悪の死を悲しんでいるのだけど。
でもさ、許してほしい。
私は彼の幼馴染なのだから。
どんな立場になってしまっても、彼は大切な友人であり、幼馴染であり、初恋の人に変わりはないのだから。
あの明るい笑顔は確かに、魔王となった彼の笑顔だったのだ。
楽しい幼少期を彼と過ごしたのは、確かに存在したのだから。あの目を瞑るほどの眩しい日々は、ホンモノだったから。
この日くらいは、泣く権利を私にもあっていいと思うんだ。
ただの幼馴染の命日として、大きな声で泣いてもきっとだけも責めはしないだろう?
その相手が、ただ魔王になってしまっただけだ。
彼の死を悲しむ時間を、少しくらいはくれてもいいだろう?
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