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大江戸虚空記録帖  作者: 朝倉春彦
肆:大火に蠢く者

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其の八十六:鶴松、皆と始末に出向く

「鶴松、どうだ?この前と何か変わりはあるか?」

「いや、ねぇな。昨日の今日で襲われるだなんて、思っちゃいねぇんじゃねぇの?」


 何時もの五人で江戸に出向き、そこから暫く歩いてやってきた郊外の山ん中。虚空人の里の近くまでやって来たオレ達は、周囲を警戒しつつ夜まで時間を潰し、辺りが闇に染まると遂に行動に出た。


「もう少しだ。もう少し待てば、明かりが消えて寝静まる。おっと、今出て行った野郎二匹を見逃すな。アイツ等はこの辺りまで警邏する連中だ」


 茂みに隠れつつ、里の全てが望める位置。そこに身を潜めていたオレは、目の前で起きる事を口に出して全員に知らせる。目の前の景色、全員が同じ物を見ているとは限らない。現に栄とお千代さんが目を見開いてから目を細め、オレが告げた男二人を見つけた様だ。


「良く見えるな」

「元々こういう所にいたもんでね」

「流石じゃのぅ…で、奴らは、あの分じゃ…こっち迄回ってくるまで大分掛ると見えるが」

「あぁ、その通りだ。グルリ回ってこっちへ来る。二手に別れてなぁ」

「昨日殺したはずの死体も消えてるってのに、手は変えねぇのか。馬鹿じゃねぇのか」

「どうせすぐにどうこうできるなんて思ってないんだろ。平和ボケしてんのよ」


 口々に思ったことを吐き出すオレ達。実際、里の作りは頭を捻った作りだったが、中の人間を洗ってみれば、さほど脅威になるとは思えなかった。虚空記録帖曰く、近頃始末出来なかった物はざっと五十名弱。その中の半分がこの里に居ると見て間違いないが…その五十名は皆、江戸の何てことの無い商家の人間ばかりなのだ。


「しかし、刀はどこから調達したんじゃろうな?持つのは禁止されおるのじゃろ?」

「あぁ、それなりに金のある家なら、目こぼし料一つでどうとでもなるのさ」

「八丁堀が現役だった頃もそういう感じだったのかい?」

「まぁな。余りに名のある刀を持ってちゃしょっ引くが、適当な刀ならまぁ、見逃してたな。どうせ、二、三人斬れば刃こぼれする鈍らだ」


 八丁堀の言葉に頷く栄。オレはそれを聞き流しながら、ジッと里の明かりが消えるのを待ち構えていた。


「八丁堀の刀はどれくらいの物なのさ?」

「オレのは三胴だな。悪いものじゃねぇだろ?」

「確かに、一介の同心には勿体ないね。どんな悪さして手に入れたのさ」

「コイツぁ管理人になってからの得物だぜ。管理人になってすぐ、持ち替えさせられた」

「公彦、そんなこともあったなぁ…忘れてたぜ」

「…お?」


 雑談を聞き流す事少し。家の明かりが消え失せる。それを見たオレは、小さく手を叩いて全員に合図を送った。


「よし、寝静まった。行くぜ!狩りの時間だ!」


 取っ掛かりの言葉。それを聞いた連中は、口を閉じて腰を上げる。オレ達は隠れていた茂みから次々に姿を表わすと、里の方へと一目散に降りて行った。


「螢!撃つのは、外回りが姿を見せてからだぜ」

「分かった。それまでボクは、栄さんのお守りだね」

「あぁ、頼んだぞ」


 里を駆け抜けながら、二人と三人に別れる。螢と栄が少々後から…それ以外の三人が先鋒として、里の中心部へと入り込んだ。


「右の家だ!」

「あいよ」


 オレは先陣を切りつつ、お千代さんと八丁堀を虚空人の住まう家に連れて行く。昨日と違って堂々と…足音すらも気にせず突っ切ると、家の扉に手を掛ける頃には、中が俄に騒がしくなっていた。


「何だ!」「誰か来たぞ!」「嘘だろ…!?」


 驚く虚空人。オレは扉を蹴飛ばして中に入り込むと、昨日ぶりの連中の面を見回してニヤリと笑う。


「テメェ等昨日ぶりだな!…暫く来ねぇと思ったか?んなわきゃねぇだろ!今日、この場で、死んで貰うぜ!」


 騒然とした家の中。オレは堂々と口上を述べると、手近にいた女を捕えてあっという間に首をへし折る。女を手にかけるのは趣味じゃないが、仕事となれば話は別。あっという間に一人を失った虚空人達は、ワッと瞬時に騒めきたった。


「襲撃だ!襲撃だぁ!」「クソ!追い返せ!」「女どもは逃げろ!男は残れよ!」


 中に押し入ったオレ達。中の男は中途半端な得物でオレ達に立ち向かい、女どもは甲高い悲鳴と共に外へ消える。暗闇の中繰り広げられたその光景に、お千代さんと八丁堀が斬りかかった。


「この野郎!失せやがれ!」「がぁぁぁ!!!」「あがぁっ…!…な、なんだ…こいつ…」


 暗がりに輝く妖刀の光。オレは血飛沫を浴びぬように立ち回りながら、二人の斬撃を逃れた男を捕えては、首をクルリと後ろに回していく。


「化物だぁぁぁぁ逃げろ!手に負えねぇ!」「兎に角外だ!外に失せろ!山に入れ!」


 一気に数を減らす虚空人。暗がりの中は、一つ間違えれば血の海に足を掬われる。


「うわあぁぁぁぁ!!」


 剣客二人の活躍を眺めながら練り歩いていると、二人の刀から逃れた男が血に足を滑らせて、オレの目の前までやって来た。


「おっとぉ、残念」


 滑って来た男を足で止めたオレ。そのまま男の背中に膝からのしかかると、男は苦悶の呻き声を上げた。


「斬られるのとどっちがマシかなぁ…地獄で連中と語り合いなァ!」


 そのまま、男の背中を足で押さえたオレは、男の首を掴んで一思いに男を折り畳む。斬撃の悲鳴が鳴りやまぬ中、背骨が砕ける音と、斬られたのとはまた別の種類の悲鳴が里中に響き渡っていた。


「さて…そろそろ終いかな。これでもまだ残りがあるってのが気に入らねぇが…」


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