表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大江戸虚空記録帖  作者: 朝倉春彦
肆:大火に蠢く者
77/150

其の七十七:鶴松、虚空人を始末する

「畜生、ちょこまか動きやがる…八丁堀ィ!そっち行ったぞ!逃がすな!」


 螢と仕事をして、一度比良に戻って体を休めた次の日。赤字だらけの虚空記録帖によって仕事を割り振られたオレだったが、いざ江戸に出向くと、何故か記録破りの対処ではなく、虚空人の追跡を手伝わされる羽目になった。


「クソ!逃がすかよっ!」


 ここは江戸のド真ん中。それなりに名のある役人の屋敷で大立ち回りをするオレと八丁堀。目に付く人影は皆、管理人の手を逃れた虚空人。オレは刀を振るってきた男をヒョイと躱すと、すれ違いざまに男の首を掴みあげて骨をへし折る。


「!!」


 グキリと鈍い音がした。騒めく屋敷内。その奥では八丁堀が次々に男共を斬り捨てている。もうこの屋敷に、逃げ場は無い…


「さぁやれるもんならやってみな!オレ等から逃げ切れると思うなよ!」


 オレはオレの仕事の為、こんな場所で時間をダラダラ使う暇は無かった。威勢のいい声を上げて刀を手にした者達の方へと突っ込んでいく。


「くっ!」


 振るわれた刀をかいくぐり、また一人首を掴みあげる。ワッと騒めく雑魚連中。お千代さんや八丁堀みたいな剣客でもない限り、オレにとっちゃ刀も棒も大差ない。


「適当に振り回してるようじゃぁ、オレには当たらないぜ?」


 首根っこを掴みあげて、男を一人…見せしめの如く振り回す。男達はその様を見て僅かに後退すると、俺は掴んだ首を握りつぶしてポイと捨てた。


「そしてよぉ、テメェら。オレだけが相手だと思うなよ?」


 首をへし折った男をポイ捨てしてそう言うと、オレの方に体を向けた男達が狼狽える。皆、オレにしか注目していない様だが…奴がいる。奥に逃げた連中を始末し終えた八丁堀が、男達を囲むように佇んでいた。


「はっ!!」


 背後からの殺気に気付いた男の一人。だが、声を上げた瞬間には、背中から派手に叩き斬られ床に崩れ落ちる。武士の恥も良い所…オレはニヤリと笑うと、残り二人になった違反者達を見据えて手を鳴らす。


「どうだ?まだ、逃げ切れると思ってるのか?え?」


 煽りと共に、ジリジリと距離を詰めて行く。コキコキと手を鳴らし近づくと、連中は徐々に震えだし、オレと八丁堀を交互に見やった。


「く、くそ…くそくそくそぉ!!!」

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 刀の間合いに入った瞬間。二人は何かが切れたかのように叫びだし、足を踏み出す。その一つ一つ全てに品の無さを感じた。


「ハッ」


 鼻で笑い飛ばすオレ。斬撃を易々と交わして腕を掴みあげ、あっという間に刀を弾かせると腕をへし折る。情けない悲鳴が上がったが、そこから動きを止めてやる事もない。オレは男に足を引っ掛けて床に転ばせると、無様に伏せた男の背中にのしかかり、両手で首を掴みあげた。


「最後だし、ちと、オマケしてやるよ!」


 横目で八丁堀がもう一人を斬り倒したのを確認すると、オレは辛うじて息が残っている男にそう叫び、一思いに男の首を引っ張り上げた。


「!!!!!!」


 背骨が折れる音と共に、男が折り畳まれていく。普通は曲がらない方まで腰を曲げ…それに耐えきれなくなった腹から骨と血が吹き出てくる。オマケはチト過激だが…まぁ、こうなる前に死んでるんだ。偶には怪死を遂げさせねぇと噂が回る。どれだけ管理人が上手くやっても、怪しいと気付いてしまう者は、出て来るものさ。それなら、化物にやられたと言ってくれる方が…まだ、記録帖にとって良い事だろう。


「ったく。手間ァかけさせやがってよ」

「すまない。俺も巻き込まれたのさ。しかし、こんな所で虚空人騒ぎとはな」

「あぁ、訳が分からねぇもんだ。夜の間だけ戻ってやがったのか」

「恐らく。偶々見かけて、そしたらお前を見つけてな」

「で、巻き込まれたのか。なら、オレの用にも手伝ってもらうぜ」


 オレは八丁堀にそう言うと、八丁堀は何も言わずに頷いた。否定しない辺り、奴の仕事は終わって暫く経つのだろう。きっと帰る途中にでもこの虚空人達を見つけて出向いたのだ。オレは愛想の悪い八丁堀に嫌味な笑みを向けると、この屋敷から程近い、同心の屋敷の方に顎を向けた。


「今回の的は同心だ」

「ほぅ?名は何だ?」

「仲條だとよ。もう、お前さんの知ってる同心は居ねぇんじゃねぇかな?」


 そう言いつつ、懐に入れた記録帖の一部を取って八丁堀に手渡す。この男も、もう管理人になってそれなりに経つ…恐らく、江戸でこの男を知ってるものは…もう、結構な年寄りしかのこっていないはずだ。


「もしかして…」

「なんだぁ?知ってんのか?三十そこらの平同心だぜ?」

「赤ん坊だった頃を知っている。そうか、もうそんなになるか」


 紙を見ながら、何処か寂し気な八丁堀。今から殺しに行くのだ。見知った顔、それも、子供の頃を知っているとなれば、それなりに毒だろう。オレは八丁堀から紙をひったくると、バツが悪い顔を浮かべて頭を掻いた。


「そうか。なら、先に比良へ帰ェりな。悪かったな」


 そう言って、屍の転がる屋敷を歩き出す。すると、俺の横に八丁堀が付いてきた。


「良いって言ってんだぜ」


 歩くのを止めず、八丁堀の方を見ないでそう言うが、隣を歩く男の足は止まらない。八丁堀は、手にしたままだった刀をヒュッと振るって血を飛ばすと、納刀しながら言った。


「手伝わせた借りを返すだけさ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ