其の百四十:白髪の怪人
「この国を良くしてやりたい連中に手を貸しただけで、どうしてこうなるかな…」
目の前の女は、俺達に銃を突きつけられても余裕ある態度を崩さない。寧ろ、さっきよりも楽になったかの様な声色でそういうと、俺達全員の目をジッと見回してから、こう言った。
「そこの武士被れな男はヤワだったからなぁ。テメェ等の弾が一発でも当たれば、暫くテメェ等に付き合ってやるさ」
そう言いながら、初瀬さんは、ゆっくりと椅子から立ち上がる。懐に手を忍ばせたまま…おかしな姿勢で、片足でヒョイと椅子から立ち上がって見せた初瀬鬼人は、クイっと首を傾げて開戦の合図を告げた。
「四十発だ。ワタシが、今持ってる弾の全て…それを撃ちきるまでに…当ててみナァ!!」
威勢のいい…甲高い叫び声と共に初瀬さんは一気に天井にまで飛び上る。
「「「「!!!!!!」」」」
俺達の銃口が一斉に上を向き…初瀬さんが手にした銃がコチラを向く。
刹那、会話以外には雷雨の音しか響かなかった部屋に銃声が鳴り響いた。
一人頭、ざっと三発。
計十二発の弾丸が初瀬さんの周囲を切り裂き…
初瀬さんの放った二発の弾丸のうちの一発が栄の胸に突き刺さる。
「ぐぅっ…!!」「栄さん!!」
「八丁堀、構うな!!」
「館から出すと厄介だよ!!撃って撃って!!数で押せ!!」
胸から血を噴き出し、力を失って倒れる栄さんを放って…俺達は天井や壁に飛び移っては動き回る初瀬さんに狙いをつける。狭い室内。これだけの弾数があれば、あっという間にハチの巣だろう…そう思った俺達は、すぐさま自らの甘さを思い知る。
「弾が見えるんだぜ。ワタシは」
ドン!ドン!と壁を蹴飛ばし近づいてきていた初瀬さん。俺達はそれを乱雑に追いかけ、兎に角銃口が初瀬さんに掠れば引き金を引いていたのだが…そんな甘い事をしている間に、彼女は俺達の間合いに入ってきて…あろうことか螢の体勢を崩して、首根っこを掴んで盾にまでして、俺達を嘲笑った。
「テメェ…!!」「畜生…」
あっという間の出来事。螢が手にしていた拳銃は初瀬さんに弾かれて何処かへ飛んで行ってしまっている。
「それになアホ共。弾切れだぜ?」
螢の頭に銃口を突きつけた初瀬さんの言葉を受け、俺達は初めて自らが手にした拳銃の弾切れを知った。突貫で手に馴染ませた得物…俺達が目を見開いた瞬間。螢の頭がパン!と弾け飛び、初瀬さんはクルリと振り返って部屋の外に駆けていく。
「八丁堀!何発ある?」
「五十だ」
「俺と螢は手持ちが少ねぇ!!お前と栄が頼りだ!」
「ケッ…十やっからテメェも手伝いやがれ!」
初瀬さんを逃がした直後。俺達は大慌てで銃に弾を込めていく。鉄の棒に付いた十発の弾丸を銃の上から押し込んで、鉄の棒を取って開きっぱなしの部品を引っ張り初弾を押し込む。
「螢!わっちの弾を半分やる!その方が可能性がある!!」
「ありがとう!栄さん!」
初瀬さんはまだ五発撃ったかどうかだ。調子に乗って撃てば、俺達の持ち弾が無くなるのが先だろう。
「八丁堀、俺達は下に降りようぜ?」「は?ここ最奥だろ?」
廊下を駆けて行った初瀬さんの背中が、まだギリギリ見える中。鶴松の言葉に俺は目を剥いて言い返したが、直ぐに口元を歪める事になった。
「なるほど」
そこに見えたのは、椅子の裏にある隠し扉。どうも、非常時に逃れる為の階段が設置されている様だ。館の主は脛に傷があるとみて良いだろう。
「栄、螢、馬鹿正直に追いかけろ!撃てば、飛び回るぜ!」
「分かった!」「任せて!」
一瞬のうちに作戦を決めた俺達は、即座に行動に移る。俺は鶴松と共に隠し扉の奥へと飛び込んで、階段を一気に駆け下りた。
「どう動くかなぁ?」
「さぁな、気付かねぇワケ無いから…遊ばれてるぜ。俺達」
「んな、面倒な女に執着してネェ…俺達も大分おめでたい連中だぜ」
軽口を叩き合って一階へ。
「ここは?」「裏口近くの部屋だ。倉庫だと思ってたんだがな」
出てきたのは、埃が積もった倉庫…さっきまで一階を掃除していた俺の先導で外に出ると、俺達は玄関口まで駆け抜けていった。
「おっ?」「逃がすか!!」「馬鹿正直者がヨォ!!」
初瀬さんとの競争はこっちの勝ちらしい。階段の手すりを使って、滑り降りてきた初瀬さん。俺達はそんな彼女に銃を向け、引き金を引いた。
「慎重になり過ぎだアホ!!」
数発撃ちこみ、結果は当然の様に外れ。初瀬さんは手すりの上に足を乗せて、いとも簡単に二階まで逃げ上がると、上から追って来ている栄と螢の足音の方へ顔を向けてから、二階の奥へと姿を消す。
「鶴松!さっきの階段から上がれ!」「合点よ!」
すぐさま追撃に入る俺達。鶴松に通せんぼ役を任せると、俺は階段を駆け上がって二階に上り、栄と螢と合流して初瀬さんの背中を追った。
「墜ちやがれ!」
そう言いながら、乱雑に狙いを付けて銃を乱射する俺。それでいい…真の狙いは螢の撃つ弾なのだから。俺が銃を放つと、初瀬さんは背中に眼があるかの如く動いて銃弾を躱し…
「クソ!」
近くの部屋の中へ飛び込んでいった。狙いは良いが…綺麗に決まらない。珍しい、螢の下品な舌打ちを横で聞きながら、俺は不毛な争いに、更にのめり込んでいった。
「栄さん!!螢!!このまま真っ直ぐ進め!!奥まで一気に走るんだ!!」
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