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大江戸虚空記録帖  作者: 朝倉春彦
陸章:盛者必衰の掟(下)
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其の百三十八:雷雨の奇蹟

「こんな時にこの数かよ」


 初瀬さんを取り返そうと盛り上がっていた俺達の気持ちを一瞬のうちに削いだ違反の報せ。俺達はすぐさま行動を開始し、虚空記録違反へ対処するために、比良の国から夜の帝都へとやってきた。


「しかも、ヒデェ天気だこと…しくじりにゃ、注意しねぇとなぁ…」

「まぁ、多少は多めに見てくれるよ。この様じゃね」

「そうじゃのぅ。とりあえずサッサと片付けねば…面倒が広がりそうじゃな」


 空模様は雷雨。違反者は特定の地域にしかおらず、量が多いと言えど、パッと終わらせられる程度でしかなかったが…俺達は違反者の事よりも、俺達に対する裏の意図が見え隠れしている現状に気を揉んでいた。


「虚空記録帖サマには何でもお見通し…何だろうな」

「そう思ってしまうよのぉ…少し、心の臓が縮んだわ。企み事はするもんでは無いな」

「言っててもしゃぁねぇがなぁ!八丁堀!栄さん!裏から回ってくるか?」

「この館なら、表裏から攻めれば直ぐだからさ」


 俺達への割り振りは、日本橋の一等地に建てられたデカい館。そこにいる全員を消せばいい。違反は犯されたばかりで、まだこの館を出た者もいないから、仕事の中身としては凄く簡単と言えるだろう。あれやこれやと考えを巡らせる必要が無い。


「分かった」「では、早速取り掛かるとするか」


 ずぶ濡れになりながら、俺は栄さんと共に館の裏手側へと回っていく。共に手にしたのは、螢に用意してもらった新型の拳銃。初瀬さんや螢が手にしているのと同じそれを右手に握りしめて、俺達は裏の勝手口から館の中に押し入った。


「見つけ次第、容赦は要らぬな?」

「あぁ、殺し損ねない様にな…」

「守月様よりは、点数が良かったじゃろう?」

「動いてる的に当てるのは、俺の方が上手かったじゃないか」


 軽口を叩きながら廊下を歩く俺達。未だ館の中は静かなものだったが、じきに鶴松と螢が放つ銃声が響くようになり…それと同時に、人々の悲鳴が止めどなく聞こえてくる様になった。


「おっと…裏口からも出られねぇぜ」

「すまぬのぅ…やりたくはないんじゃが」


 命からがらか、それともまだ遭遇していないだけか…あちこちの部屋から飛び出してきて、裏口を目指して駆けてきた者達に銃口を向ける。


「「「「「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」


 逃れて来た者達の表情は、何とも言えぬ色を浮かべていた。驚き、絶望…そして、逃れられるという期待感。数瞬の内に降って湧いて出てきた様々な感情が濃密に混ぜ込まれた顔が、絶望一色に染まっていく。


 新時代の殺しはこうも簡単なのか。


 俺達が引き金を引く度、違反者共はバタバタと倒れて行った。


「栄さんは生きてる奴にトドメだ。先行するぜ」

「あぁ、任せたぞ」


 最初に飛び出してきた連中を廊下に倒れ込ませた後。当たりどころが悪く、呻き声を上げて藻掻く者の処理を栄さんに任せて、俺は館の中枢へと足を進める。四角い、何の変哲もないであろう館…階段の類は入り口側にあるらしく、上の階からは銃声や悲鳴が定期的に聞こえてきていた。


(案外、一階には居なかったんだな)


 騒がしい二階以降と違って、一階は静かなものだ。俺はその中でもやり残しが無い様に一つ一つ、部屋を虱潰しに回って確認し…俺達の仕事を確実なものにしていく。


「……」


 一階を調べ終え、鶴松や螢が入って来た入り口の前までやって来た俺は、一旦栄さんの元に戻ろうと裏口方面に体を向けた。


「?」


 だが、階段の上の方…三階の階段近くで何かが蠢く様を見て方針を変え、一人、階段を上がって三階へと上がっていく。


(奴等はまだ二階で遊んでやがるのか…)


 一階の確認には、そこそこ時間をかけたつもりなのだが…まだ二階からは銃声と悲鳴が鳴り止まない。どうも違反者共は二階に溜まっていたらしい。


(しっかし…よくもまぁ、逃げださないな)


 この館の最上階…三階へと上り、心許ない明かりの中で目を凝らす。雷雨の夜…幾ら電気の類が使えると言っても、昼間のような明るさは望めない。俺は、一階の時と同じように、部屋を虱潰しに回って銃口をあちらこちらに向けながら、人影が無いかを確かめて回り始めた。


「いないか」


 幾つもの部屋を回って、中が空であることを見て回る…まだまだ賑やかな二階と違って、三階は音が無く、俺がさっき見たものは幻なのだろうかとも思い始めていた。


(幽霊騒ぎは御免だぜ)


 ここは、何か商いをする為の館。まだ新しく、その手のハナシとは縁がないハズだろうが…と、俺は内心で冗談を飛ばしながら、一定の緊張感を保ったまま部屋を見て回る。しかし、一階も三階も、俺が見た所は全て、机と椅子が整然と並ぶ作業部屋ばかり…二階はそうじゃないのかもしれないが…同じような部屋の多さに、俺は段々と目が回り始めていた。


(ちったぁ、中身変ってたりしねぇのかね。飽きちまうぜこんなんばっかだとよぉ)


 同じ内装を何度も目にして、そこに人影が無い事に焦れる俺。だが、三階の奥地…階段から最も離れた側の、幾つかの部屋はそうではなく、位が高い人間に宛がわれる部屋になっている様だ。内装の広さと豪華さが違う。


「贅沢なもんだな…いつの時代も金持ちってなぁ、こんな趣味だよなぁ…」


 四つある豪華な部屋。その内の三つは異常なし…だが、最後…館の最奥となる部屋に入った時。俺の眼に、その日一番の異常が映り込んだ。


「虚空記録帖の管理人…来るのが随分と早かったじゃないか」


お読み頂きありがとうございます!

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