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大江戸虚空記録帖  作者: 朝倉春彦
陸章:盛者必衰の掟(下)
132/150

其の百三十二:敗北の甘蜜

「畜生」


 闇に溶けていく俺の呟き。自刃して死に戻ってきた俺は、初瀬さんの影も形も見えなくなった館の裏庭に一人佇み、ふーっと長い溜息を吐き出した。


「どうなっていやがるんだ…」


 思いもよらない遭遇。長年探していた女は記憶喪失。自分が何者かさえ、あやふやな様子だったが…不思議なのはココだ。虚空記録帖に感知されていない館。虚空人が作る原始的なそれとは違う、最先端の館…一体誰が建てたのか、どうやって道を引いたのか、そして、何故…初瀬さんはこんな所を根城にしていたのだろうか。疑問が尽きる事は無かったが、誰もいなくなってしまった今、俺がコチラ側に長居する理由は無くなってしまった。


(兎に角、帰るとすっか…?いや、夜が明けてからの方が良いか…)


 だが、帰ろうにも、この闇だ。幾らココが有楽町…帝都の中枢といえど、下手に動けば遭難するだろう。それで虚空記録を犯していては、格好がつかない。俺は帰路に向きかけた足を館の玄関の方に向けて、再びふーっと長い溜息を吐き出した。


「家探しでもすっか」


 空の様子を見る限り、そこそこ良い時間らしい。夏という事も加味すれば、少しグダグダしていれば明るくなってくるだろう。俺は館の玄関扉を開けて中に入り、さっきよりもじっくりと中の様子を探り始める。


(何を持って帰れば連中に火を付けられるか…)


 館の中を改めてみれば、少々埃っぽいだろうか。初瀬さん一人しか住んでいなかったとしか思えず、彼女が使っていた部屋しか人の気配を感じない。俺は埃の溜まった殺風景な部屋を無視して、初瀬さんと遭遇した、2階の部屋を見に行った。


「……お?」


 洋風の館の中で異彩を放つ初瀬さんの部屋。ここだけ長屋の一角の様なその部屋に足を踏み入れた俺は、机の上にさっき放り出した書物を見つけ、机の方へ近づいていく。そういえば、畳をひっくり返してまで調べたのだったか…兎に角、俺はその書物を手に取って埃を落すと、懐へと仕舞いこむ。


 それからも暫く部屋を探し回ったが、結局、この部屋にそれ以上の成果は求めなかった。部屋を出て、まだまだ覗いていない部屋が沢山ある2階と、3階の部屋を1つ1つ回って、何かが無いか確かめて回る。こんな所に初瀬さんがああなった理由が落ちている等とは思わないが、今の彼女がなぜああなのかを探る手掛かり位は、あっても良いだろう。


「客間ばっかだな…1階はそれなりに色々あったけどもよ。ここ、もしかして宿なんじゃねぇか?」


 2階…4部屋を見て回って、全てが全く同じ間取りで、家具まで同じとくれば、そう思っても仕方が無かろう。まるで複製したかの如く、鮮やかな装飾が施された洋室を4度続けて覗き見た俺は、次の部屋にも期待せずに扉を開けて中を覗き込んだ。


「…だろうな。ん?」


 5部屋目…等間隔に並んだ扉から察しはしていたが…ここも客間らしい。だが、その部屋には、隣の部屋に繋がるであろう扉があった。一度廊下に出て確かめてみれば…一つ向こう側の扉の向こうは広い部屋…の様に見える。俺は5つ目の部屋に足を踏み入れて中を覗き見ながら、部屋の奥の扉を開けて、隣の部屋へと進んでいった。


「ふむ」


 その部屋は、大広間…とでもいえば良いだろうか。簡単な演劇ならばこなせてしまいそうな場所で、長い机が4つ並び、豪華な施しがなされた椅子が整然と置かれている。食堂…とも思えるが…実際の所、俺の知識でどうこう言える事は無かった。


「豪華なもんだな…こういう所に、洋装で固めた連中が募って会議でもすんのかね?」


 暗い中でポツリと呟く俺。館の中は、さっきの騒ぎで消えなかった灯りだけが点いている状況。この部屋に幾つか置かれた電灯は点きっぱなしだったが…それらすべてが切れかけていて、不安にさせるような光しか放っていない。


「2階でこの様なら…3階も大差ねぇだろうな…」


 大広間になっている部屋を出て2階の探索は終わり。廊下の突き当りにある階段から3階に上がっていくと、2階のそれと似た様な風景が見えてくる。扉の位置から察するに、俺の予想通り、2階と施設に差は無いと見た。


「不気味でしかねぇな。こんな立派な館が…この様ならよ」


 暗闇の中を進み、適当に扉を開けて部屋を覗き見て回る俺。洋室ばかりしか無い3階の部屋。俺の意識を奪う品も無く、この階は見るだけ無駄だと思っていたその瞬間。


「?」


 場所で言えば、初瀬さんの部屋の上に位置する部屋の扉を開けた時。明らかに違う…火薬のような匂いが俺の眉に皺を作った。


「コイツは…スゲェな」


 そこはただの部屋ではない。まるで武器庫だ。壁一面に長尺の銃器がズラリとかけられていて…部屋の奥。窓際に置かれた机には、分解された銃が無造作に置かれていた。


「拳銃は…なるほど。棚の中って訳だ」


 これらは…螢が居れば何処の物かがわかっただろう。恐らく、世界中の銃器が集められている…と思うのだが…俺は自分の判断に自信が持てぬまま、適当な銃を手に取って構えてみたりする。


「ふむ」


 朝陽が出るまでの残り時間。ここで時間を潰せそうだ。俺はズラリと並んだ銃火器達を前に口元を綻ばせながら、復讐戦に使えそうな銃を見繕う。


「…飛び道具には飛び道具をってな。次は逃がさねぇぜ…」


お読み頂きありがとうございます!

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