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大江戸虚空記録帖  作者: 朝倉春彦
陸章:盛者必衰の掟(下)
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其の百三十:空虚の徒労

「ケッ…!!」


 腰に下げた刀へ手を当てた時には、目の前の女が握りしめている銃の先端が俺の眉間を捉えていた。刹那、眩い閃光が辺りを照らし…咄嗟に抜刀した俺の手元を銃弾が掠めていく。


「ヘタクソッ!!」

「ハッ!!備え位ェはさせてやってんのよ!!」


 売り言葉に買い言葉。瞬く間に戦場と化した初瀬さんの部屋。銃口が何度もコチラに向いては閃光を光らせる中。俺はあべこべに部屋中を動き回って銃弾をかいくぐる。銃弾をかいくぐる度に、初瀬さんの部屋には硝煙の匂いと消すのが面倒くさそうな弾痕が残っていった。


(ぐ…ジリ貧だぜこりゃ)


 時折視えた銃弾を刀で斬り捨てるが、そんな芸当はいつまで続けられるかわからない。俺は体中に脂汗を感じながらも、部屋の入り口から去っていった初瀬さんを追いかけるために足を動かした。バン!と扉を開けて廊下へ出て…館の奥へ奥へと駆け出した初瀬さんの後ろ姿を追いかける。


「待ちやがれ!!」


 その背中に罵声を浴びせると、返答の代わりに銃弾が飛んでくる。コチラを見ないで放った銃弾は、嫌に精確に俺の付近を射抜いて行き、1発は俺の着物を貫いていった。


(これからは銃だって…螢のヤツが言ってた通りだぜ畜生め!)


 刀を手にしたまま、構えを解かぬまま初瀬さんを追いかける俺。ただでさえすばしっこい初瀬さん…大太刀を背負っていても、速さで敵った事が無い相手。それは屋内でも変わることが無く、初瀬さんは跳ぶように廊下を駆け抜け、あっという間に影に姿を消し…足音から察するに、階段を駆け上がって館の3階へと上がっていった様だ。


「くっ…」


 初瀬さんが通った廊下を駆け抜け、その先にある階段を駆け上がり3階へ。上がり切った先…廊下を渡り切った向こう側には、白髪の女子が嘲る様な笑みを浮かべて待っていた。


「随分トロいじゃないか!!旦那ァ!!ワタシはココだ!捕まえて見せな!」


 煽りを一つ受けた俺は、その言葉に何も返すことなく馬鹿正直に初瀬さんの元へ足を踏み出す。まだ、信頼しているからだ。初瀬さんは決して狡い真似をしない…出来ない人だと…


「いいねぇ!!正面からくるアホは嫌いじゃねぇ!!」


 そんな俺の予想は大当たり。彼女は廊下の奥でジッと立ち止まったまま、スーッと銃を構えて見せた。


「そろそろ運も尽きる頃だろう?」


 数発分の破裂音が館中に響き渡る。


 眩い閃光が俺の目を眩ませた。


「!!」


 カンで動かした腕に鋭い打感。次の瞬間には、俺の体に1発分の風穴が空き、俺の足は自然と固まって…そのまま、廊下のど真ん中で無様にすっころぶ羽目になる。


「当たりだな。1発1発が死を招くんだ。豆鉄砲なんかじゃねぇのよ」


 初瀬さんの煽りを受けながらも、ジワジワと、俺の下に広がる血だまり。刺すような痛みが腹部に走り、俺は目を大きく見開きながらも、痛みに耐えて上半身を持ち上げた。


「なぁ?どうだ。テメェはまだまだ動けるだろう?」

「どうだかぁな…ハァ…ハァ…クソ…」


 撃たれた箇所は…肝臓の当たりだろうか。厄介だ。俺はさっきと別の意味で溢れ出てくる脂汗を拭って痛みに歪んだ顔で笑顔を見せると、初瀬さんはゆっくりと俺の方に近づいてきた。


「大丈夫だろ。テメェは死なねぇタマだ。殺しても死に切らねぇだろ?」


 そう言いながら、手にした銃を顔の前に持ち上げる。


「簡単ニャ死なねぇ場所が射抜かれてるが…その様なら大丈夫だ。違うか?」

「どうだかな。試してみるか?」

「いやぁ、結構…試すかどうかはテメェが決めな。ワタシが決める事じゃない」


 初瀬さんは俺の言葉にそう言いながら、銃を手にしていない方の手を懐に入れて何かを取り出した。どうやら銃弾の様だ。


(弾切れだったのかよ…)


 何発かが一括りになったそれを、銃の上に引っ掛けて…親指でクイっと弾を押し込むようにして銃の中に入れていく。そうして、弾を括っていた金属部品をピンッ!と廊下の隅に弾き飛ばすと、初瀬さんは準備が整ったそれを懐に仕舞いこんだ。


「どういう風の吹きまわしだ?」

「どうだかなぁ…捕まえて聞いてみな。まだ捕まらねぇが…アンタと話してると頭痛がしてくるんだ。も少し遊びたかったが…止めだ!!ここまでだな。テメェは暫く動けそうもねぇし、今日はこれで消える事にしよう」


 態度をコロコロ変える女…初瀬さんは、飄々とした様子でそう言い切ると、プイっと踵を返して廊下の奥へ戻っていく。その様子を…その背中を見ながら、俺は沸々と、内側から沸き起こる怒りに震えはじめていた。


「舐めやがって…」


 背中を睨みながら一言。俺はそう言いながら、手にした刀を首筋に持って行き…


「ギッ…!」


 ザクリと…自らの刀で自らの首筋を切り裂いた。


「ん?」


 血の吹き出る音に気付いた初瀬さんが足を止め、コチラを振り返る。その時…彼女は廊下の突き当り一歩手前に居て…死ぬ間際の俺の目には、彼女が目を剥いた様子が焼き付けられた。


「逃がさねぇ……からな…初瀬……鬼人……」


お読み頂きありがとうございます!

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