其の百十六:仕事を進め候
「やっぱ刀を振るうと違うねぇ…生き返る見てぇじゃねねぇの」
「ヒデェ事言いやがって。無実なんだぜコイツ等はよ」
「まさか。記録を犯した咎人よ!公彦、向こうの連中を生きて返すな!」
「はいはい」
浅草に出向いたワタシと公彦は、通りに居る違反者共を瞬く間に屍へと変えていく。ワタシは、久しぶりに生き生きとした実感を感じながら、手にした大太刀を罪なき一般人に差し向けていた。
「悪ぃな旦那。テメェがしでかした罪は…あの世で閻魔に聞いてくれ!」
今もまた、通りの隅で腰を抜かして震えている男にそう言って…ワタシは何の感傷も無しに刀を振るう。斜め下から上へ、薙ぎ払われる様に振るった刀は、男の胴を真っ二つに切り裂くと…おびただしい血と臓物を噴き出しながら地面へと崩れ落ちて行った。
「よーし、公彦!テメェは向こう側をヤレ!ワタシはコッチだ!」
「あぁ、わかった!」
「一通りやり終えたら戻ってこい!扉の前で待ち合わせようぜ!」
「おう!」
比良の国から繋がるこの通りが、違反者が一番多い場所だった。そこを掃除し終えた私達は、手分けして残った違反者たちの処理に入る。
「ど、どういうつもりだ!!儂を何者か知っての所業か!!」
「そうよ!そんなことはやめて!!人殺し!!人殺しよ!!」
通りを抜けて、浅草を駆け巡って…ワタシが出向いたのは名のある商家。記録が犯されなければそれなりに長く繁栄する家だったのだが…記録が犯された今となっては…もう、その未来は望めない。
「どういうつもりかは…説明すんの、時間が掛るんでなぁ…」
堂々と玄関をブチ破って中に入ったワタシ。中に居た丁稚の連中が取り囲み…家長と女将らしき中年夫婦に喚き散らされたのだが…ワタシは説明もせず仕事に取り掛かった。
「テメェ等。ワタシが見える時点で…もう死んでるぜ」
ここは商家で…武家屋敷じゃない。血濡れた大太刀を手にしたワタシを取り囲んだ連中は皆丸腰なのだ。ワタシは全員をジロリと睨みまわしてそういうと、手近にいた丁稚の若い男を指さして足を踏み出した。
「さぁ、先ずはテメェからだ!!」
「や、やめろぉぉぉぉぉぉぉ!!」
一閃。
男の首から上が血飛沫を纏って夫婦の方へと飛んで行き、ワタシを罵倒していた連中の声が一瞬で静まり返る。場が凍り付いた今、体を動かせるのはワタシだけになった様だ。
「悪く思うなよ。テメェ等は運が無かった。閻魔も少しはオマケしてくれるさ!」
そう言って、次の標的の方へ体を向けて足を踏み出す。そこから瞬き幾つかをするまでの間に、ワタシの周囲を取り囲んでいた丁稚の男達は皆、この世から消え去っていき…残るは可哀そうな夫婦だけとなった。
「く、くそ…!!!」「誰か!誰か!誰か助けて!!!」
余りの悲劇に腰を抜かしかけていた2人だが、いざ2人しか残らなくなると案外動けるもので、彼らは助けを求めながら屋敷の奥へ奥へと駆け出していく。2人だけになった屋敷。ワタシも屋敷へ上がり込み、ゆっくりと彼らを追い詰める。
「諦めはつかねぇよな…そりゃそうだろう。後を継いで数年。頑張ったものなぁ」
独り言を言いながら、夫婦が逃げ込んだ部屋の扉を開けた。その刹那…
「!!」
火薬が弾ける音と共に、咄嗟に刀を出したワタシの左右を真っ二つになった銃弾が掠めていく。
「アブねぇもんもってやがんな。禁制の品じゃないか」
夫婦の最終兵器は鉄砲か。それも、南蛮渡来…最近、螢が好き好んで使ってる最新式の連発銃。
「諦めが悪いと、閻魔様もオマケしてくれなくなるぜ?」
「黙れ!押しかけて来るなり全員を殺しやがって…お前だけは儂が殺してやる!」
殺気立つ旦那。ワタシはニヤリとした顔を貼り付けて、刀を構えたまま、ジリジリと2人の方へ近づいて行った。
「殺せるものなら殺してみるがいいさ」
「クソ!!!!!!!!!!!!!!」
刀の間合いに入る直前。ワタシの煽りに乗った旦那が銃の引き金を引いた。
「っ…」
それに対して、ワタシは何もせず銃弾を額に食らってグラリと体制を崩す。死の間際…唖然とした表情を浮かべた夫婦の姿が見え…視界が闇に沈み…
「ば、化物だ…」
即座に生き返ったワタシは、畳の上に崩れ落ちることなく姿勢を立て直した。
「案外、銃弾も痛てぇもんじゃねぇな」
眉間を貫いた筈の弾丸。眉間にあるはずの傷は塞がっていて、ワタシの体からは血の一滴も流れていない。夫婦はそんなワタシの姿を見るなり、ガタガタと体を震わせて抱き合うばかりとなってしまう。
「ま、そういうことでな。ワタシは人じゃないのさ」
ひとしきり怖がらせた後。ワタシは何気ない様子で2人の傍に近づいて刀の間合いに入ると、ゆっくりと刀を構えた。そして一言…暇つぶし相手になってくれた夫婦に目を向けて最期の言葉を投げかける。
「悪いな。こうなっちまって」
ボソッとそう言って、刀を一閃。夫婦を一度に切り裂くと、ワタシは返り血を浴びたまま畳の上に佇んで、静寂が戻った屋敷の中で、ポツリと気の抜けた言葉を呟いた。
「今回ばかりは、ワタシの罪だわな。あぁ、悪いと思ってるぜ。本当に…」
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