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第18.5話 月への手向け
僕が産まれた時、その時すでに人類は月へと到達していた。
人類はどれだけの苦悩を抱え、どれだけの苦労を経て、月にたどり着いたのだろう。
僕にはそれがわからない。
月に人が届いた時、きっと何よりも夢見心地な現実を目の当たりにしたはずだ。
人が地球という母を離れ、新たなる未開の地へと足を踏み込んだ様は
数多の人々が成し得なかった
幾多の人が夢にまで見た
一つの紡がれ続けた想いであって
それは人類の遺伝子に刻まれた成功体験であった。
でも僕は、その喜びを知らない。
どれだけ映像を見たって
どれだけ体験談を聞いたって
どれだけ思い描いたって
そこに対する執着も
そこに行きつく経緯も
そこにかけられた想いも
あの日乗り越えた者にしかわからない。
だから僕は
この世界で
月に行く
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