ねこ日和
3分で読めるなんでもない話です。文章を書く練習ついでにでして……もしよければ。
風が吹くとひげが揺れて少しくすぐったかったが、同時に日に温もった肌の熱が攫われて心地よかった。私はふかふかで長毛の自身の体へと顔をうずめ、外の世界の音と光と僅かばかり距離をとる。あと、どれくらいすればサクラ玄関の引き戸をガラガラと言わせ、さらには白いビニールの袋をガサガサと言わせながら、ワックスの厚く塗られたよく滑るフローリングの上にお尻から勢いよく座り風を起こすのだろう。少し、お腹が空いた。しかし…………ふにゃぁぁん。おっと失礼、欠伸が。えっとなんだっけ。そうそう、お腹が空いたのだが、けれど……えっと……少し瞼が重…………すぅ。……すぅ。
【間】
【間】
『ガララララッ』
途端、私の体の中味が私の表皮を風船のように膨らますほどに大きくなって、私は全四脚を伸ばしながら宙に飛びあがった。飛び上がりながら、私は真ん丸にした目で真っ赤に染まった世界にお寝坊さんだと笑われたのだった。余計なお世話である。私は右手を丸めて口元にもっていきペロペロと舐めた。たしかにいの一番にサクラを迎えに行きたいという気持ちもあるが、私は所詮家猫であるのだ。寝坊などという概念はなく、自由に寝て自由に起きるのだ。ふん。と、サクラが台所で白いビニール袋を開け何やら机に並べていく音が聞えた。私はそれまでの気持ちを全部忘れて軽い足取りでトットットと玄関へ向かう。近づくにつれてサクラの甘い香りが濃くなって、自然と顔がゆるむ。そして、机と椅子の足の森の向こう伸びた黒い影の元に桃色のズボンに、濃い灰色の靴下、そして桃色のスリッパをはいたサクラの足が見えた。
「にゃあ~ん」
そう言いながら耳の下のあたりをサクラの足にこすりつける。
「あれぇ、起こしちゃったかねぇ」
……なんだかまるで寝坊したようなことを言う。でも、サクラの垂れさがった優しい目じりを見るとそんなことはどうでもよくなる。右足くるぶし、足の間、左足くるぶしと、八の字を描くように足に体を擦りつけて、するとサクラも笑って、そんな時間が一番幸せ。
でもそうしていると夕陽が、やっぱり寝坊じゃないか?なんて言ってくる。だから余計なお世話なのである。