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お得意様

作者: 涙乃明日

 夕方6時から夜の8時にかけての時間はファミレスにとっての稼ぎどきだ。当然バイトをたくさん入れて対応するが、ホールもキッチンも大忙し。


 そんな慌ただしいキッチンを見つめる瞳がある。忙しくて対応しきれないこともあるが、このファミレスのメンバーはみんな彼女が大好きなのでなるべく時間を作って対応する。彼女も慣れたもので一声かけた後はのんびりくつろぎながら誰か出てくるのを待っている。


 長く勤めているパートさんがいうには彼女は4年ほど前にここに来たらしい。前の店長が裏口で雨に濡れてるのを見るに見かねて店内に招き入れ、賄いを出したのだそうだ。


 彼女は週に3、4回ほど顔を出しては賄いを食べていく。おこぼれをねだる割にその姿は美しく、そんな彼女に私もすっかり骨抜きにされてしまった。


 注文のラッシュが落ち着いて、ふと裏口を見ると彼女はまだそこで待っていた。珍しく私以外に対応できる人がいないらしい。


 私は心の中でガッツポーズすると、彼女の求めるものを用意しにかかる。もちろんなにを出されても文句を言うわけではないがどうせ出すなら喜んでもらいたい。


 今日は刺身の端切れが多めに残っているのでそれをご飯に開ける。浅めの皿に入れたそれを持っていく。

「お待たせしました。」

そう声をかけると嬉しそうな声が返ってきた。


「にゃ〜ん。」


 ああ、なんて可愛いのだろう。今日こそはそのもふもふの毛並みを触らせてもらえるだろうか。

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