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5.運の良い一日?

「…」



「あぁ、もう全然運がなさすぎる、俺は降りるか…」


 勝負も佳境に入る。アタシがリーチをかけるのを確認し彼は降りると発言するが、四季君の三味線かもしれない、騙されないように引き続き気を引き締める。


 これが当たったらなかなかデカいぞ…


「…」


「うーん、相変わらず良いの来ないな…」


 三味線三味線!彼の言動に惑わされるなアタシ、リーチをかけてもまだ勝負は続いているのよ。


 っと、河に出てきた牌… おおおお、それは!! 


「それロン!!」

 

ドォーンと四季君が差し出した牌に稲妻が落ちた。その音とほぼ同時に彼は「マジかぁ…」とこぼしながら信じられないといった顔でアタシを見てくる。


「うわぁー やられたぜ…」


 序盤早々、アタシが跳満を叩きだし、四季君はあっさり飛ばされてしまった。


「つ、つええ… やるじゃねえか…」

 

 

「へへーん、ざっとこんなもんよ!」


 得意気になっているがアタシもたまたま運が良いだけだった。最初からずっと良配牌だったので、負ける気が全くしなかった。ありがとう麻雀の神様。そしてこの運は引き続きよろしく頼む。


「うっへえ、あんなので持ってかれたらたまらんぞ…」


「えっへっへー、アンタの手はお見通しよ!」


 とりあえず彼のノリに合わせ、相手を煽ってみる。彼もそれに答えるように額に手を当てながら「かーっ」っと声にならない声で悔しさを表現している。


 た、楽しい… ゲームマジ楽しい…!!


 麻雀とはいえ、クラスメイトと遊ぶゲームがこんなにも楽しいものだったのか… 向こうもそれなりに意気込んでやっていたのか、適度に挑発してきたり、煽り返したりと傍から見れば完全な茶番だと分かっていてもこれが中々楽しいものなのだ。


 いや、こればかりは四季君もいけないのよ、ゲームごときに大袈裟にリアクションして、「なんだお前!そんな不自然な手は効かねえぞっ!」とか「絶対負けねえ、ぜえってえ負けねえ!!」とか言ってくるし、そんなことされたらゲーマーとしてテンション上がっちゃうじゃない。

 

 新クラス初日、念願のクラスメイトとゲームする事ができてアタシはつい感極まりガッツポーズもしてしまう。

 


「まじか、まさか麻雀で負けると思わなかった。俺に勝ったお前にはこれをやろう」


 っとごそごそと四季君の鞄の中から出てきて渡されたのは… 小分けされたチョコレートだ。

 

 勝ったアタシを讃える意味でくれるのだろうか、お言葉に甘えて頂く事にする。


「お、まさかご褒美がくるなんてね!」


「これで勝ったと思うなよ、次は潰すからな!!」


 ぐぬぬと、割と本格的に悔しがっているようだ。またこの彼のリアクションが闘争心をくすぐるんだよね!

 ゲームは本気になればなるほど面白い、いつでも受けて立つ! なんてね!


 チョコの袋を開けて食べてみる。 イチゴ味のチョコで、なんというか先のラムネといい、四季君は甘いものが好きなのだろうか? アタシも甘いもの好きだから全く文句とかはないのだけど、これは思わぬ収穫だ。口いっぱいの甘い味と共に勝負の余韻に酔いしれる。


 

「チッ、幸せそうな顔しやがって… 」


 聞こえてるぞ〜


 悔しそうな顔を残しつつ四季君は教室に掛かれた時計を見ながら「あぁ…」と声を漏らした。

  

「あー、俺があっさりやられたからまだ時間あるなー」


 アタシも時間を確認したが、まだ次の授業までそこそこ時間が残っている。確かに… 四季君が早いこととんでしまったから時間が余ってしまった。


「もう一勝負やってもいいけど。」


 今度はアタシが勝負を仕掛けるも四季君は苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべた。えっ、何か不味いこと言ったのかな…


「もうチョコがねえよ、俺が負けたら何を差し出せっていうんだ。麻雀は明日だ明日」


 なんだチョコかい! 少し心配してしまったアタシが損した。この話を聞くに先のラムネもチョコも最後のものだったらしい。 


「ええ!? 負けたら何かあげるルールだったの!?」

 

 逆にアタシはチョコすら持っていなかったから、負けたらどうなっていたんだろう。現金でおやつでも買わされてたりとかしていたのかな…? そう目論んでいたのなら中々危険な戦いだったな、先の死合は。


 ただ、他の提案をしてみても「今日は麻雀の日じゃなかった」とか言い始めたので連戦はしないようだ。麻雀楽しかったのに少し残念だが、四季君のその気持ちはかなり共感するのでアタシもしぶとく誘うことは止める。

 


 じゃあ、これからどうしようかと言う時、四季君がふっと目を細めた。

 

「ってか、ゲームやってて思ったけど、名前、リンっていうんだな」


「嘘でしょ、アタシ自己紹介していたじゃん、ちゃんと名前覚えてよ!」


 しかも隣で! というか、アンタこそ名前の知らない相手とずっと会話していたって事になるじゃない!! どうして人のことが言えようか。


 とりあえず彼に「不渡稟よ、不渡稟」と紙に書き出しアタシの名前を再度教え込ませる。真横で名乗っていたのに全く聞いてなかったのかコイツは…



「うーん、難しい名前だから明日には忘れそうや」


「二文字しかないのに!? お互い似たような名前なのに!?」

 

じゃあ、アタシの名前を一文字にしろと言われたら「り」しか残らない。それを名前と言えるのかどうかは不明だが、少なくともそう言われたら拒否するつもりだ。

  


「うーーん」

 

「どうしてここで腕組む必要があるの!? リンとレンだよ、これはもうペアで覚えられるレベルだよ!」

 

双子で付けられても違和感ないレベルのゴロの良さだと言うのに。  


「いや、かなりキツイな、俺の記憶力舐めるな。」


「アンタの脳みそはニワトリサイズなの!?」


 よくもまぁ、そんな3歩歩いたら忘れるような記憶力で、7万五千文字以上の自己紹介文を暗記しようとしたものだ。



「まぁまぁ、落ち着けや、冗談だって」


 ついヒートしてしまうアタシを宥める為、子供のように扱い始める四季君。この対応には若干癪だが向きになっても仕方ないので彼の言う通り一旦落ち着く。


 アタシだって、アンタの冗談にわざと付き合ってあげているんだからね。



「正直なところ、リンという名前は非常に呼びやすいと思う。逆に不渡って呼び難くねえか?」


 先と異なり何処か真面目なトーンで話だす四季君。


「えっ… まぁ、確かにそう思う…」


 彼の意見には同意するけど、それってどういう意図で言ったのだろうか…

 それでもアタシはずっと皆から不渡さんと呼ばれていたし、名前で呼んでくれるのは家族ぐらいだった。

 

「俺がお前の名前を言った時舌を噛み切って死んでしまう恐れもあるぞ!」


 それは多分… というか、絶対無いと思うけど… ここは野暮にツッコまず静かに聞く。 

 

 えっ、ちょっと待って… この展開って… なんとなくアタシ察しちゃうんだけど、期待しちゃっても良いの…?

 

 とりあえず変ににやけないように表情は引き締めつつ後に続く彼の言葉を待つ。


「それに、俺らお互い似たような名前じゃねえか!」


 真っ直ぐな瞳でアタシを見てくる。こ、これはまさか…!!

 

 ま、間違いない。四季君は不器用なのか知らないけど、遠回しにアタシを誘導してきてるんだ…

 

 このシグナルをしっかりと受信して彼のノリに合わせないと、思っても見ないチャンスを取りこぼす事になりかねない。


「そうだね、お互い似たような名前なのも何かの縁だよね…アタシも四季君ってちょっと言いにくいかもって思っているところもあるしさ…」

 

しどろもどろになるアタシの言葉。急に顔が熱くなってきた… やばい、気が高揚してしまって頭が白色になりそうなんだけど…!! お、落ち着けアタシ、世間一般では普通のことよ。相手が男の子ということはあるけど、そんなに珍しい話じゃないわ。

 





「え? そうか? 俺は別にそう思わないけど…」



「えぇ!?!?」


 こ、こんなところでボケなくてもいい!! これは言い出したアタシが悪いのかどうなのかもう分からなくなってしまった。四季君はズッコケそうになるアタシのリアクションを楽しみながらまたも落ち着いたトーンに戻り話始める。



「まあ、それはどうでも良いとして、俺は思うんよ。今後お前を呼ぶ時には楽な方がいいんじゃねえかって」

 

 そ、そうだよ!絶対そうだよ!! っと心の中で連呼する。というか焦ったい!! なんでそんな遠回しに言ってくるのさ! 


「う、うん… アタシもそう思うし、別にアタシは大丈夫だよ。四季君が言い易ければどちらでも…」


 ほら、アタシからのわっかりやすいシグナルだぞ! しっかり受け取ってくれ、頼みますから!!

 

 アタシの願いがこもった言葉を彼は耳にし、何処か意を決したようにアタシを見てくる。

 

「だよなあ。じゃあ、これからは楽な方にするか!」


 そう! それでいい!! ま、まさかのまさかの展開にアタシは胸が熱くなってしまう。


 嘘でしょ、まさか初日にここまで行ってしまうなんて、思いもよらなかったからだ。



『名前呼び』なんて小学校低学年以来だ。まして男子から直接名前で呼ばれることなんて殆ど無くずっと「不渡さん」一本で暮らしてきた。

 だからそういう関係じゃないにしても男の人から名前で呼ばれるとドキッとするのかもしれない… そこは許して欲しいな、なんて…

 

 あぁ… 神様ありがとうございます。麻雀から続く良運はここまでで十分です、あとは老後にストックしておいて下さい。


「うん… 四季君がよければ… そうして。アタシの名前、覚えてるよね?」

 

 あ、アタシ何言っちゃってるんだよ! 凄い恥ずかしいんですけど!! で、でもここまで分かりやすく促せばもう彼には逃げ道がないはずだ。そうと信じて彼の表情を窺う。

 

 やば、恥ずかしすぎてまともに顔が見れないのだけど…ただ、ここで逸らすわけにもいかない、彼が与えてくれたチャンスをしっかりとものにしないと!

 


「うっす、大丈夫だ、任せろ」と元気よく返事し、しばらくしたら前方を指差す。


 うっわぁ、滅茶苦茶ドキドキしてきたー! だ、大丈夫よアタシ、呼ばれたらしっかりと返事すれば良いだけのことっ!落ち着けー落ち着けー!!

 気の動転を抑えるのに必死だが、引き続く彼の言葉を待ち続けた。



「ところで不渡ィ、窓際さみーんだよね、暖房のつけてくんない?」





「おい!!!」


 



麻雀バトルWX:稟たちが遊んだ麻雀ゲーム。 リーチやあがり演出、BGMに非常に力を入れておりプレイヤーのテンションを最高潮まで高めてくれる。 オンラインで全国対戦が可能。 


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