4.お互いハッピーエンド?
LHRが早く終わりクラスの皆が集まりながら談笑を始めており、皆どうやって初日からあんなに仲良くなっているのか聞きたいものである。
「だよね〜、つーかさ、ウケない?彼氏の家に入ったら金魚が死んでたんだけど〜」「わっかる〜〜」
…あのあたりは所謂ギャル集団だな。アタシには全く関係の無い団体様だ。あんなに派手派手で着飾りこなすのはそれなりの容姿と度胸もいるし…
「フヒ、このクラスは美人揃いでありますなぁ、大将!」「うむ、眼福というものじゃ。」
向こうで腕を組む男子二人組、あれはオタク臭しかしない。どうしてサムライ見たいな言葉遣いをするのだろうか、甚だ疑問であるところだ。あともう一つ、その美人集団にアタシが含まれていたら結構嬉しい。絶対ないけど。
「いや、まさかケイゴと同じクラスになるなんて!ウエーイ!」「シンジも同じクラスなのか!これはまた賑やかくなりそうだな」
奥の方は、いかにも陽キャですといった男女のグループが集合しテンションを上げようとしている。どこのクラブだよ。
…しかし、こうやって見ると本当に同じクラスでも色々な人種がいるものだ。っと我ながらに感心してしまう。そしてこちらは…
「あー はいはい、ほーん ふーん」
奴が先程からずっと電話をしている。おかげと言っては何なのだが、アタシがとても暇となってしまった。今現在話す相手もおらずこれからどうしようかとずっと心の中で策を練っていた。
悔しいことにアタシは今隣の奴が話しかけてくれないと話す相手がいないぼっち状態だ。授業中でなくこの自由な時間に話しかけてくれればアタシはいくらでも対応できたのに本当にタイミングの悪い電話だ。スマホを開けたりしながら隣の奴の電話が終わるまで待っているが…
「はーあ? なるほどー ほーん」
…どうにも中々終わりそうにない気配だ。とはいえだ、まだクラスの全員が馴染めているわけではないためアタシのような暇を弄んでいる方々は何人か存在するものの、消えていくのは時間の問題だろう。安心してはいけない。
──となればだ、アタシは奴とは逆方向の隣の席… 右隣の子に話しかけようかと考える。先程、窓際の奴と色々話していた中でアタシ自身が温まってきており、この調子なら気兼ねなく話せるかも… っと調子の良いことを思い浮かんでしまったからだ。
友達は待っていても出てこない。だから自分で行動しないと!
やはり若干緊張はあるものの、先程みたいな異常な不安感はない。これはいけるかも…
「…」
先程鏡で練習した笑顔を作り、体を右側へ向け挨拶しようとしたが…
「…♪」
右側の男子生徒はイヤホンをしながら読書に夢中だ。手に持つ本はブックカバーをおり何の本なのかは分からなかったが、推測するにあれはライトノベルだろう、恐らく異世界転生系の…
その男性は少し長めの髪で顔が若干隠れている為分かりにくかったが、恐らく無表情だと思う… けれどアタシは全てを察することができた。彼はかなり充実している…!
こ、これは… 話しかけられない… というより話しかけてはいけない!
彼はぼっちではない、一人を楽しんでいるのだ。一人が好きで一人を選んでいる方だとすぐに感じてしまった。
アタシには分かる、今の彼の気持ちを。
一人で好きな音楽を聴きながら読書をする… それはまさに至福の時間!そんな彼をアタシは邪魔できない。
…まるで、過去のアタシを見ているようでならなくなりそっと視線を前に戻した。
別に友達がいないことが充実していない訳ではない、一人でも十分充実して学校生活を謳歌している人もおり、アタシはそれを否定はしないが、その…あまりにも昔のアタシに似ておりなんだか色々思い出しそうになる。
楽しい時に楽しいことをすればいい… 楽しみは人それぞれ… だからこそ… アタシは彼の気持ちがわかるからこそ声をかけないという選択を選んだ。これは決して間違っていないと自信がある。
「はーん、へぇー ほうほう…」
横でまだ話している彼を一瞬チラ見する。 一体何を話しているのだろうか、普通だったら気にならないところもぼっちだとつい気になってしまう…
一向に電話が切られる様子がない為、アタシは一人寂しく虚空を見つめる人となってしまった。
席を立って一人でいる子の元へ挨拶しにいこうか… ただ、それがすんなりできていたら今まで苦労していないんだよな。突然「ヤァ、おはよ。仲良くしてね」なんて一人でスマホいじっている人に対してどうして突撃できるだろうか。
本当… コミュニケーションって難しいな… 朝方は彼の救いがあったものの、結局彼が話しかけてくれないとアタシはただの虚空を見つめる人だもんな…
「あひゃひゃひゃ!! はーあ… まじか…」
楽しそうな電話の声が聞こえてくる。相手は一体誰なのだろうか… あれ程人と話せるんだからアタシ以外でもきっとたくさんの知り合いや友達がいそうだもんな…
そうだよな… アタシって調子のいいことを考えすぎてたのかも。LHRの間のやりとりでもしかしたら彼と友達になれるかも… って一瞬期待してしまったけど、彼にとっては日常的な振る舞いでただアタシが一方的に仲良くなれそうと勘違いしていただけなのかも知れない。
たまたまアタシが隣で話しかけやすかったというだけで… 別に誰でもよかったんじゃ…
って何考えてるんだろ、普通そうだよね! 特に何の魅力もないアタシが急に声かけられる理由なんてそれぐらいしかないじゃん! アタシったら何自分が特別扱いされているのだろうとか思っちゃってるんだろう。ちょっと考えれば分かることなのに!
一つ、ため息をしてしまう。
「おぉ?? ふーん、へえ〜」
徐々にブルーになっていくアタシを他所に彼はずっと電話で興味深そうに話し続ける。
ほんと… 馬鹿みたい、アタシってずっと彼が相手をしてくれるのだろうと無意識に期待しちゃってたんだ。別に彼は何も悪くないことだし、ただアタシが勘違いしていただけ… これからは気をつけないと… 彼はきっとたくさん友達がいるのだからアタシと違って忙しいんだ…
「ういーっす、またな~」
ようやく彼の電話が終わり、アタシは自然と体が横に向いてしまった。やっぱり、アタシって寂しがり屋なのかな…
「はーあ、こんな時間に電話してくるなんて、俺をニート何か勘違いしているのか?って話だぜ…」
ダルそうだけど、こうしてアタシに声をかけてきてくれた。彼の電話は恐らくほんの数分だったのかもしれないけどアタシにとっては物凄く長く感じていた。ずっとあんたが電話切るのを待っていたんだからっ!
「なんか、やけに楽しそうだったけど、友達?」
アタシが尋ねてみる。
「ちげーよ、太陽光のセールス。急に電話が来て何事かと思ったらよ… マジでわけわからんわー」
彼がこちらを向き、部が悪そうな顔をする。
そっか、そうだよね、コイツにも仲のいい友達がいて… って??
「セールスの電話!? あんな楽しそうに話してたのに!?」
いや、本当は心の中で突っ込もうかと思ったけどあまりにもアタシの予想と違いすぎて声を荒げてしまう。友達じゃないんかい!?
「急にどうした? なにムキになってんだよ。セールスだぞ、話聞いてもたのしくねーよ。俺に何を売りつける気だって話だろ」
「でも、笑ってたじゃん、『あひゃひゃひゃ!!』って…」
「はぁ? なんだそのヤク打った人間みたいな笑い方は… 途中で商品の話が逸れて、セールスの野郎が昨日彼女と別れた話をしだして… まぁ、それが大爆笑」
「そ… そう…」
あまりにも拍子抜けすぎて呆気に取られてしまう。 というか、もう突っ込むに突っ込みきれなくなった。
正直なところ、これが事実かどうかは定かではないが、少なくともアタシは損した気分を味わうことに…
「は~あ、俺が電話している間に皆仲良くなってくなー、さみしーのは俺達だけだ」
周りを見ながら両手を頭の後ろに置き、どことなく悟り始める窓際の男。
そんな短時間で人間仲良くなんかなれるものか、と思いたいところであるが、彼の言う事に反論できなかった。
アタシは今日彼がいなければ一日だんまりだった可能性もあり、先程まで悔しいが寂しさを感じていたのは事実だからだ。
「お!?」
ふと彼の視界に何かが目に入ったようで突然声を上げた。アタシもとりあえず「どしたの?」と一言尋ねてみる。どうせ大したことじゃないとは思うけどさ…
「おぉ、あの男めっちゃかっけえやん、スタイルもいいし!やっぱああいうのが好みなの?」
奴と同じ方向を見れば先程からお喋りを続ける所謂陽キャグループがアタシの目に映った。恐らく彼はあの集団で一際目立つ背の高いイケメン男子のことを言っているのだろう、アタシも名前は分からない ──というか横のやつのせいでほとんど他の人の自己紹介が頭に入らなかった為── ので、詳しくは知らないが… 確かに彼の言う通りかなりカッコイイ。どこぞの事務所で歌やダンスをしていても謙遜ないくらいだ。
「んまぁ… そりゃね。ああいう背の高いイケメンってやっぱり女子は憧れるじゃん」
「ほーん。やっぱそうだよなぁ。かっけえもんな!」
だからと言ってアタシがイケメンな彼を狙っているなんてことは全くない。現に周りには女の子に囲まれてその女の子もかなり綺麗な人ばかりだ。ああ言うのはいわゆるカースト上位層で、とてもじゃないけど手が届かない… と言うよりそもそも関わることが難しいだろう。少なくともアタシは眼中に入ってないと思われる。
「おーう、なら声かけちゃいなよ!あんなイケメン男子なかなかいねえぞ!」
「無理に決まってるでしょ! 何言ってるのよ!」
「無理なことはねえだろぉ、日本語通じる相手だし」
「そういう意味で言ってる訳じゃないからっ! あのいかにもリアルが充実してますよ的なグループの中にアタシが突然「はい、すみません」って割り込んできたらどう思うって話よ、明らかに不自然でしょ?みんな「なんだこいつ…」みたいな空気になるのは目に見えているんだからね!」
「大丈夫だって、そんなことにならねえよ。だってそんな空気になったら「アタシは彼を狙ってますから、取らないでくれます?」って言えば事収まる話じゃねえか、ついでに彼も「はっ、こいつ、俺のことが好きなんか!付き合ってくれ!」ってなるかもよ。お互いハッピーエンドじゃねえか!」
一体どこの小説や漫画を見てそんなハッピーエンドを見たのか問いたいところだ。どんなに頭が激甘ハッピースポンジ脳な少女漫画主人公でもあんな思考には至ることはそうそう無いのに。
「アンタねえ、アタシみたいな凡人がそう易々と成功する訳ないでしょうがっ! ああいった相手はじっと傍で見つめて勝手に心を癒しておけばいいのよ。変に触れたって悪いことしか起きないんだから」
呆れながらそう言うと奴は「なかなか寂しい思考してんな」とかぶーぶー言っている。勝手に言ってなさい、立場をわきまえ距離を保つ。これが一番と言うものなんだから!
話の区切りがつき、彼が何か思い立ったようでアタシに向かって「おーい」と呼び始める。聞こえてるわよ、こんなに近いんだからっ!
「どうしたのよ?」
「次まで時間があるんだけど、なんかゲームでもやろうや」
「ゲーム?」
スマホを掲げながらそう言ってくるので、恐らくはスマホで何か対戦ゲームを一緒にやるか何からしい。
この提案に一瞬だけ疑問符を浮かべてしまったが彼の提案には合意だ。 アタシは結構ゲーム好きだし、時間も潰れて丁度いいと思ったからである。
アタシもスマホを取り出し「いいけど、何やる?」と聞き返す。スマホゲームはそこそこ網羅しているつもりだ。
「最近麻雀にはまってるんだよね~。できる?」
尋ねる彼に「大丈夫だよ」と返しアプリを立ち上げる。
「おお、まじで? 麻雀できるのはポイント高え… ありがてぇ… 隣の奴が麻雀できて…」
まるで神様が目の前に現れたかのように目を輝かせ始める隣の彼… というか、さっきからずっと話しているけど彼の名前知らないのよね…
だけどまさかここまで感謝されると思わなかった。アタシは特段麻雀が得意という訳では無いが、人並みには出来るので彼と一緒に時間が潰せるのは間違いないだろう。確かに麻雀は全員ができる人という訳でもないので、彼にとっては「ポイント」が高かったのだろう。こんな変なタイミングでアタシの株が上昇するとは思わなかった。
ゲームの画面に入り彼からの「AI含めて三人麻雀でやろうや」の提案に乗りネット対戦の待ち受け画面に入る。
そのあまりにもテンポの良い展開ではあったものの、アタシの心の中はかなり感動に浸っていた。
…まさか、初日にクラスメイトと一緒にゲームができるなんて。
ただ一人、教室の端っこでゲームしていた時代が本当に懐かしく感じられる。他のクラスメイトも一応何かしらのゲームはしているが、一緒にやることは全く無かった。なのでこうやってコミュニティツールとして利用したのはアタシにとって初めてかもしれない。
それに… 彼ってもしかしてかなりのゲーム好き? そんな気がしてならない。これが事実であればアタシとかなりウマが合うのかも… とかちょっぴり期待しても損はないんじゃないか?
淡々と画面を進める彼に対しアタシは内心かなりドキドキしていた。
今日の朝は非常に憂鬱な気分だったけど、しっかりと学校に来てよかった、本当に何が起きるか分からないものね…!
「おーい、早く画面を進めてくれ〜」
「あ、ごめん」
心の中で余韻に浸っていた中彼の声で現実に戻される。アタシも画面を進めていざ勝負だけど、アタシは未だに彼の名前が分からない。実は先ほどから少し彼の持ち物や身の回りのもので彼の名前がわかりそうなものを探っていたが一向に手がかりが見つかっていなかったのだ。
と、とりあえずどこかのタイミングで名前を聞かないと…
「あの──」「よーし、絶対勝つからな!」
アタシの質問と彼の気合が被ってしまって聞きそびれてしまう事態に。今はちょっとタイミングが悪いかな… ある程度タイミングを見計らって聞いてみよう… って、なんでアタシは名前を聞くのにこんなに苦労しているのだろうか…
視線を下に向け配牌を確認する… 悪くないかもね!
ついで言えばアタシのプレイヤー名は「リン」だ。 なんの捻りもない、名前だけ…
対する彼は
「レン?」
プレイヤー名がレンと言う事に気が付く。 あ、もしかして…
「あ、もしかして名前… リンに合わせた?」
名前の似ている名前を使うことがちょっと揶揄われていると感じたので確認をとると、彼は「え、ちげーよ、何言ってるんだよ…」と戸惑いを見せた。
「え、じゃあ… もしかして… アンタの名前?」
「今更なにいってんだ? そーだよ」
呆れたと言わんばかりのトーンでサクサクとゲームを進めるが…
そっかぁ、レンか〜 って!
「いやいやいや、今初めて知ったよ! 全然名乗ってくれなかったじゃんアンタ!」
そう言うと彼は「うっへえ? そうだっけ?」と言いながら目を丸くしてきた。そうだよ! 今初めて知ったの!! アンタの名前!
「うぉ、まじか! いや、確かに木戸のねーちゃんにはスルーされたけどよ、お前にはまだ名乗ってなかったのか!? それはまずったな申し訳ねえ… ってか、今まで名前知らずに俺と会話してたのか?」
やっぱりそうか! コイツの頭の中はもう話したことになっているんだ!
まるでアタシが名も知らぬ男と簡単にベラベラ会話する不審者とは思われたくないので更に補足を付け加える。
「そうだよ! 聞こう聞こう思って全然聞けなかったの!」
「あーそうだったのか、まぁ、そんなこともあるよね…」
やばい、流されそうだ! あ、麻雀の話じゃなくて、彼の名前を確認するタイミング! ここで逃したらもう二度とないかも知れない!
そう思い、恥を偲んで彼に問いかけた。
「あ、あんたの名前、教えてよ!」
アタシのその言葉を聞き彼はすぐに口を開いた。
「四季 蓮」
あ〜〜、ようやく心の靄が晴れた〜〜
「な、なんだお前…? 」
謎の爽快感を得たアタシの表情を見ながら彼は奇特な物を見物するような眼差しをアタシに向け呟いた。
何よ、見せものじゃないわよ!!
太陽光のセールス:作品内は太陽光発電がトレンドである。 政府が補助金事業を始めたことによりセールスの電話が一気に過熱。 新規獲得を目指し営業の人は日々業務に終われているが、レンみたいな高校生に電話しても契約に至らないことが殆ど。