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12.稀に訪れる幸せな日

「また太陽光のセールス?」


 アタシが呆れ口調で聞けばと隣のレンは「ちげーよ」とすぐに踵を返してきた。そう何度も太陽光発電のセールスは流石に来ないか…

 


「間違い電話。 ったく、俺をどこの誰かと勘違いしてやがった。ちゃんと正しい番号でかけてくれねえと困るぜ」

 そんなことを言いながら携帯をしまう蓮。


 まぁ、それだったらお喋りが弾んでも仕方な──




「は!? 間違い電話!? なんであんなに楽しそうに話せるの!?」

 


 耳を疑い思わずツッコミを入れてしまった。そんな… 嘘でしょ…あれが間違い電話だったのか…


 あまりにも衝撃的な事実にアタシは石のように固まってしまう。 結構話し込んでたじゃん、間違え電話であんなに話すものなの… というか、あれは話している定義に入るかも怪しいけどさぁ!


「んだよ、大袈裟に驚きやがって。 俺は切ろうとしたんだけど、途中で向こうの失恋話が始まって、なかなかこれが面白かったんよ」

 

 またも失恋話の登場だ。電話をかけた相手はレンに失恋話をしたくなってしまうのだろうか? あの電話の対応を見れば到底そうは思えないのだが…


 いやぁ… この驚きは大袈裟じゃないって… アンタが電話している間に恋が向こうに行っちゃったんだからね!


「はーあ、でもまたそれから話が逸れてついお喋りしちまったぜ。 お、そういえばあの子はどこいっちまったんだ?」


 何を今更… 呑気なものだ。


「アンタが話している間に別の女子に呼ばれて向こうに行ったよ」


 アタシがそういうと「うっわまじか、なんで引き止めてくれなかったんだよっ! 俺だってあの子と話したかったぞ」とぶつくさ文句を言いながらアタシを見てくる。

  


「いやいやいや、アンタが変なタイミングで電話に出るからでしょうが! あんな可愛い女の子から声かけられて、電話出るなんてアンタ人生相当損してるわよ。なんで電話出ちゃうのよ!!」

 

 説教してやる。少なくとも女の子の恋はこっちの蓮を少し待っていたのも事実だし、コイツが長話するのが悪いのだ。向こうの恋は何も悪くない!


「うわぁ、やられた。 俺てっきり、前回応募した懸賞の当選報告の電話かと思ってドキドキしながら出たんよ。そしたら「高山さんですか?」とか言われて… うあ〜〜、あの時アイツの話なんか聞かず即電話を切るべきだったかぁ〜 しまったぁ〜」

 

 めちゃくちゃ悔しそうだ。次いで「なんで、俺はあんな興味もない男の身の上話なんて真面目に聞いてたんや…」とかなり落ち込んでいるようだ。



「そう簡単に懸賞なんて当たらないわよ。」

 

「はーあ、最悪だ。 懸賞も当たらねえし、女の子と楽しく話せねえし、俺の人生お先真っ暗すぎて帰りてぇ…」


 絶望に瀕しすぎじゃないか…? そしてアタシは女の子じゃないのか…?


「また、チャンスあるよ…きっと…」


 適当にフォローする。もう、いちいち付き合っていたら身が持たない。


 現に恋はもう一度来ると言っていたし、恐らく向こうもこちらの蓮と話したい気も見せていたし…



 



「…ん?」


 ふと彼が顔をあげ、何かに気がついたようにアタシの方を見てくる。

 なんだろう、アタシの顔に何かついているのかな?


「なんだお前… 変ににやにやしやがって、朝から気色悪い…」


 えっ…アタシも気が付かなかった… 無意識だったのか、どうもにやけていたようだ。

 意識的に顔を引き締めむっとした表情を作る。 こ、こうかな…?


「んだよ、にたにたしやがって。 変なもん食ったのか?」


 お察しの良い蓮が言及する。どうもアタシのにやけはちょっとやそっとじゃ直らなかったようだ。

 

 そうか、そうだよな。 何を隠そう今アタシは幸せオーラでいっぱいなのだ。流石の彼もそれには察してしまったか。



「そうじゃないわよ! さっきの子… レンと仲良くなった…!」


 


「ハァ?」




 

 


 とりあえずアタシは先程のやりとりを簡単に説明しながら彼にお菓子の詰め合わせを渡す。



「ほぉん、なるほど、あの子もレンというんか… 」


 袋を開けて早速中に入っていたクッキーを食べ始めるのは男の方の蓮。相当気に入ったのか知らないけど「うまい、うまい」と言っている。


「そうなのよ! 驚きじゃない!? レンと同じ名前だよ!」

 

「ほーん。まあ、世の中広いしそれくらいあるだろうに。それで、なんだ? さっきの女の子と仲良くなって一人でウキウキしていただけなのか?」


 それ以上でもそれ以下でもないかなり的を得ていたので「そうなのよ!」と彼の前で素直に認める。


「んだよ、一人で幸せそうにしやがって… てっきり悪いもんでも食ったかと思って心配した俺の気持ちをどうしてくれる!」


「知らないわよ、勝手に推測しただけでしょ? それになんでニコニコしている人に対して悪いものでも食べたのか心配するのよ! 腹痛とか、めまいならわかるけど…」


「お前滅多にニコニコしねえだろ、逆に常時めまいか腹痛に襲われているんじゃ—」「襲われてないわよ!!」


 何よ、いつもお腹が痛そうな顔をしてるって言うの!? 失礼しちゃうわ。


 言い返せばどうにも納得できないと言った顔をしてくる。なんでよ!!

 


「お、お前菓子食わねえなら、俺にくれよ! 今ダイエット中だろ?」


 する〜っと凄まじい早さで奴の魔の手がアタシのお菓子袋まで迫ってきた。アタシは慌ててお菓子をよけさせることに。あ、危ない危ない…


「あ、アンタももらったでしょ!! アンタになんかあげないんだから! これはレンが私にくれたお菓子なのっ! 後で食べるの!」


「えっ、でもお前ダイエット中だろ?」


 何度も強調しなくていいってそこ!


 なんでアタシがダイエット中って設定を無理やりこじ付けるのよ! あーずるいずるい、男の子って女の子から食べ物奪う時すぐその手段使ってくるんだから! 卑怯よ、卑怯。



「残念、アタシはそこまで体重を気にしていないので過去一度もダイエットしたことはないし、今もダイエット中じゃありません。そして今後しないつもりです! 相手が悪かったわねっ!」


 それを聞くと奴は「チッ」と大きく舌打ちをした。何よ、世の女性が皆ダイエットしているとは限らないんだからね!



「ただ食い意地が──」「アンタには言われたくないわよ!」


 奴の文句もキャンセルしてやる。早くもレンの言いたいことが大体分かってきた。早すぎるツッコミに流石のレンも予想していなかったようで「お、俺まだ最後まで言ってないのだけど、最後まで聞いてくれよ…」とか言っておりとても悔しそうだ。



 ここはアタシの勝ちのようね。 彼の魔の手がついに伸びなくなった。

 奴は完全に諦めたようだな…



「あ、そうそう。 それでね、向こうのレンとさっき連絡先交換したんだ!」



 次いでを報告すると、隣のレンが驚いた顔をして「ハァ!?」と声をあげた。


「はーあ? リンに限ってそんなことは万に一つもねーと思ったがまさか連絡先交換だなんて… マジかよっ!」


 えっ、めちゃめちゃ驚いているんだけど。 そこまで驚く必要… あるか、アタシ自身も驚いているし…


 でも…


「万に一つは言い過ぎじゃない!?」


「言いすぎじゃねーよ、むしろ過言ぐらいだ。 しっかし、こういうのってのも、実は一回連絡先交換したっきり、もうメッセージとか来なくなるパターンじゃねえのか? 名刺交換みたいな感覚で向こうはやってるんじゃねえの?」


 か、過言だなんて…


 レンの疑いの目がアタシを攻撃してくる。

 ただアタシも不安になってきてしまいそれは一理あるんじゃないかと思えてきた…

 

 慌ててアタシはスマホの画面を確認すると、既にレン(女の子)からメッセージが届いている…


 


 レン:これからよろしくね、リン! 


 おぉ〜、よかったぁ〜



「ほらほらぁ! ちゃんとメッセージ来てるぅ!」

 

 嬉しさで舞い上がったアタシは立ち上がりレンに携帯の画面を見せ、先の意見を撤回するように主張する。

 

 いつの間にか、連絡が来ていただなんて… 急いで返信を返そう。『こちらこそね。お菓子ありがとう!』っと…

 

「落ち着けや、メッセージぐらいくるやろSNSなんだから。 しかしなあ、とんだ巡りあわせもあったもんだなあ、俺も電話に出てなければ連絡先とか交換できたんかな?」


 どことなく悔しい表情を浮かべるレン。 そりゃそうだろうね、しっかり対応していたらあんな可愛い子の連絡先交換ができたかも知れないし…


 彼は不満足そうに「いうてもそれ社交辞令じゃねーか」と余計な一言を添えてくるが無視だ。



「っていうか、なんで二人ともアイコンが漢字一文字なんだ? 明らかに不自然すぎて新興宗教かと思われるぞ。」


「なによ! いいじゃない、シンプルなのが一番よ!」


 恋も共感してアタシの真似してくれたんだからね。 遅れているのはアンタの方よ。


 これに関してどうも納得できないと言った顔だ。ただ、アタシだけじゃなく、恋まで同じ漢字一文字なので「自分が間違ってるんか…?」とか自問自答し始めている。 そうよ、アンタが間違ってるのよ!



「お前はいいな、朝から猿みたいにウキウキするようなことばかりで。ハァ〜ア…」


 ため息をつき始めた。 


「でも、一応また来るとか言っていたよ。レンと話したそうだったけどなぁ〜」


 アタシがわざとらしいトーンでそんなことを口にすると奴はすぐさま「マァジかよ!」と起き上がる。現金な奴だな…


「そんならくる前に急いで接待の準備しねえと! 高級菓子とか、手土産とか! あっ、リン、この辺り掃除してくれ! 床が汚ねえぞ! なんだこの植物、びもねえ、邪魔だなあ…」


「そんな手厚いもてなしは本人求めてないって!」

 

 来賓対応かよ!

 しかもその侘び寂びもない植物はアンタが買ったんでしょうがっ!


「えぇー、でもカステラぐらい用意したら流石に喜ぶだろ… 次の授業終わったらすぐに買ってこようかな。」


 ツッコみたいけど、女の子は甘いものに弱いからなぁ…


「もう好きにしなさい… だけどその植物は撤去しちゃダメよ」

 

『ザ・デーモンマン』が「僕は捨てないで!」っと言っているのがなんとなく分かる。 



 そんなタイミングで授業開始のチャイムが鳴った。


 


「あー、もうこんな時間か、ところで今日から授業が始まるんだよな、何の授業だっけ? だるいなあ…」


 ゴソゴソと机の中を漁りながらレンが尋ねてくる。

 

「最初は確か古文じゃなかったかな… 木戸先生の…」


 アタシは急いで古文の教科書を机の上に出した。 まだ木戸先生は来ていないようだ。


「ヤだなあ… 始業式終えてすぐ授業なんて精神衛生上よくねーだろ。 もう2,3日休ませろや…」


 

 この辺りはレンと全く同意見だ。 話を聞く感じだと、レンも勉強がどうも苦手のようだ。 

 


「レンは得意科目とかあるの?」


「ねーよ、全部嫌いだ。 特段数学が嫌いだぜ…」


 本当に顔色が悪い。よっぽど数学が嫌いなのだろうか、それはアタシもわかるよ…

 


「数学ねー アタシも嫌い。 でも古文はわりと嫌いじゃないかも。担当木戸先生だし、好きになりそう」


「木戸のねーちゃんなぁ… はぁー いきなり源氏物語かよ、勘弁してくれって感じだぜ…」


 あくびしながら教科書をぺらぺらと開き愚痴を漏らすレン…


「源氏物語かぁ… 難しそうだな… やっぱり2年生になると難しくなるもんだよね… 」


 アタシは予習をする程真面目じゃない、けど先生が来るまでの時間は一読しておこうかな…


「うーわ、紫の上のシーンかよ… やってらんねえぞ…」


 レンが手で顔を覆い尽くした。そこまで嫌なのか…


「あ、知ってる、紫の上って、幼女でしょ!?」


「みてーだな。 こんなん読まされる生徒の気分になったことあんのかねー 教諭共は…」

 

 ブツクサと文句を垂れ始める。


 あ、アタシはわりとドロドロ恋愛嫌いじゃないけどな… 

 

 ほんの少ししたらすぐに木戸先生が教室に入って来た。


猿みたいにウキウキ:気分が昂り興奮状態にある人を表す言葉。猿の鳴き声はウキウキだし、猿そのものもなんだか振る舞いがウキウキしている。そして動物園で猿を見てウキウキする人もいるだろう。猿を見て心をウキウキさせるのは全く問題ないが、突然猿の真似をしてウキウキし始めるのは明らかな不審行為なので控えた方が良さそうだ。


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