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幽閉令嬢は悪魔と口付ける〜婚約破棄から始まる恋物語〜  作者: 南雲 皋


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第2話 隠された扉

 塔は王都の外れ、周囲には荒れ果てた大地の広がる場所にありました、

 元より罪人を閉じ込めておくための塔だったようで、入り口の扉は登録された魔力の持ち主しか開けられないようになっています。


 私は(かせ)を外され、塔の中へと入れられました。

 目の前で鉄の扉が閉まり、魔力を感じたかと思うと見る間に消えてしまいます。

 扉のあった位置には、今はもう壁しかありません。

 塔の内部には宝箱のような木箱が置いてあり、その魔道具を介して一ヶ月に一度、食料が届くそうです。

 開けて見てみると、大量のパンが入っています。

 パンだけで暮らせというのでしょうか。

 まぁ、あるだけありがたいのですが。


 とりあえず、身を清めましょう。

 木箱とは反対側に井戸がありました。

 自分で水を汲んだことなどありませんが、やらなければ汚いままなのです。

 私は袖をまくり、縄を(つか)みました。


 汲み上げた水は、想像していたよりも綺麗でした。

 井戸に立てかけてある大きな桶をその水で掃除し、それからまた水を汲んで桶に溜めます。

 塔の内部は外界と完全に隔離(かくり)されているそうで、魔術の使用は特に禁じられませんでした。


 私が水を温めようと手のひらに魔力を集めると、それに呼応するように壁が光ります。

 どうやら塔に対してなにか魔術を使ったとしても、それを全て吸収してしまうような術式が刻まれているようです。

 別にそんなことをするつもりはないので、問題はありません。

 私は溜めた水に手を突っ込み、お湯にします。

 適当な温度になったところで、私は服を脱ぎ、身を清めました。

 恥ずかしいなどと言っている場合ではありませんし、塔には私しかいないので、これも問題はありません。えぇ。


 全身をお湯で洗い流し、長い髪をお湯に浸しながら考えます。

 この長い髪も、もう必要ないのではないかしら。

 まっすぐで長い金色の髪は我ながら美しいと思っておりましたが、ひとりでこの美しさを保てるかと言われると、首を振るしかありません。

 ここには石鹸(せっけん)もありませんし、洗うのにも乾かすのにも手間と時間がかかります。

 私はすぐに風で刃を作り出し、肩の辺りで髪を切りました。

 濡れていてひとかたまりになっていた髪は、後で燃やすことにしましょう。

 一旦避けて置いておきます。


 着ていた服や下着もついでに洗って、暖かな風を起こして乾かします。

 綺麗になった服を着て、伸びをしました。

 はぁ、やっと少し落ち着きました。

 

 自分の身が綺麗になったところで、私は塔の内部を見渡します。

 一階部分には木でできた簡素なテーブルが一つと椅子が一脚。

 それからパンの入っている木箱と、井戸、そしてトイレ。


 トイレは壁に囲まれているわけでもなく、ただただ床にぽつんと便器が置いてあるだけです。

 特に匂ってこないので恐る恐る便器の中を(のぞ)き込むと、暗がりにうねうねと不定形の何かがいるのが見えました。

 我が家のトイレにもいた、何でも分解してしまう魔物ですね。

 しっかり登ってこられないようになっているので、よしとします。

 お尻を拭く紙がありません……お湯を用意してから用を足さなければなりません。気を付けないと。


 とりあえず、一階部分を洗浄してしまうことにします。

 父は、この国の宰相(さいしょう)でありながら優れた魔術師でもありました。

 兄は父から英才教育を(ほどこ)されていましたが、私は何も教わっていません。

 女は黙って男を見守っていればいいのだというのが父の口癖でした。


 ですが、私は父に隠れて書斎(しょさい)に入り込み、魔術の本を読み耽りました。

 兄には申し訳なく思いますが、恐らく私の方が兄より魔力量も多く、魔力操作も上手くできます。

 今までは大々的に使うことができませんでしたが、ここでなら話は違います。

 思う存分、魔術が使えるのです。


 私は気合いを入れて、洗浄の魔術を使います。

 効果の範囲は一階部分のみ。

 床、壁、天井、テーブルと椅子も一緒に。



「来たれ清き水よ、(けが)れを(そそ)ぎ輝きを、清廉(せいれん)緑風(りょくふう)が全てを包む」



 言い終わるやいなや、私の魔力が手のひらから(ほとばし)り、大量の水となって空間全体を洗い流していきます。

 最後に一陣の風が吹いて、洗浄が完了しました。



「ああ……やっと息ができます」



 私は大きく息を吸い込み、深く深く呼吸をします。

 婚約破棄を言い渡されてからようやく満足に息ができて、肩から力が抜けるのが分かりました。



「あら?」



 ピカピカになった床に、私は何やら違和感を覚えました。

 近づいてみると、どうやら隠し扉のようです。

 どこかに鍵穴でもあるのかと探っていると、急にぱかりとその扉が開いたのです。

 そこには、地下へ降りる階段が続いていました。

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