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幽閉令嬢は悪魔と口付ける〜婚約破棄から始まる恋物語〜  作者: 南雲 皋


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【番外編】人間界のその後

※残酷描写注意※

 悪魔がリネットを抱えて姿を消すと、塔の中は騒然(そうぜん)となった。

 片足を切断され痛みに喘ぐカトリーヌは、怒涛(どとう)の展開に思考が追いつかない。



(何よ何よ何よ何よ……!!)



 リネットへの負の感情に支配され、()()()()()()()()()()()()()()()()()()



「リネットのくせに私より幸せそうにするなんて!」



 カトリーヌは自らの口から飛び出した言葉に目を()き、慌てて口を(ふさ)ごうとするが叶わない。

 王子や騎士達が突然大声を発したカトリーヌに注目する中、その口はとめどなく動き続けた。



「王子との婚約で将来が約束されているなんてずるいじゃない、女王の座は私こそふさわしいのよ、単純な王子で助かったわ、すぐに信じて婚約破棄だもの笑えるわ、単純なのはいいのだけれど問題は顔よね、好みじゃないからこの先どうしましょう、ああでも高い身分さえ手に入れば愛人の一人や二人囲っても問題ないわよね、周囲を私好みの男で囲えばいいわ、それにしてもあの悪魔顔だけは最高だったのに私の脚を切り落とすだなんて」


「カ、カトリーヌ?」



 王子は信じられないものを見る目でカトリーヌを見た。

 一瞬、騎士の方へ視線をやったが、すぐにカトリーヌの方へと戻ってくる。


 そのままゆっくりとした足取りでカトリーヌに近付いてくる王子を見て、カトリーヌは気付いた。

 王子も今の自分と同じ。

 ()()()()()()()()()()()のだと。


 周囲の騎士達は動けないのか動かないのか、その場に(しば)り付けられたように立ち止まったまま、カトリーヌと王子の動向を見ている。



「こんなことならお父様にもっと重い罪を考えてもらうのだったわ、お父様の用意できた罪が小さなものばかりだったから処刑にできなかったのだもの、王子にもそれとなく聞いてみたけれどリネットは品行方正で使えるものがなにもなかったわ、私を叱責(しっせき)したことが罪にならないなんておかしな話」



 なおも勝手に動く口を止められず、カトリーヌの手は口を塞ぐどころか王子の胸元へと伸びていた。

 カトリーヌは知っている。

 そこには王子が護身用(ごしんよう)に持ち歩いている短剣が忍ばせてあると。



(待って、何をするつもりなの!?)



 カトリーヌの手は何に(さえぎ)られることもなく、王子の胸元から短剣を取り出した。

 そしてその短剣は、王子の(ほほ)の肉を切り落とした。



「ああああああああああ!」


 王子の悲鳴が響き渡る中、カトリーヌの握る短剣は王子の唇を切り裂き、(まぶた)を切り裂き、そして腹部を何度も突き刺した。



「この頬肉は無駄なのよ、厚い唇も嫌いだわ、腫れぼったい一重(ひとえ)も、極め付けはお腹の贅肉(ぜいにく)よ気持ちが悪い、気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い、ああこれと触れ合ってしまったこの身体も気持ちが悪いわ、気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い……」


(やめて、やめてぇぇぇぇ!!)



 カトリーヌは王子を滅多刺(めったざ)しにした後、自分の唇に刃を立てた。

 それから王子に触れられた部分を次々に傷つけていく。

 上品な薄い萌黄色(もえぎいろ)のドレスが真っ赤に染まる頃、ようやくカトリーヌは騎士達に取り押さえられた。

 騎士の手が触れると、カトリーヌはすぐに大人しくなった。

 その口は変わらず己の罪を呟き続けていたが。


 王子とカトリーヌは命を落とすことはなかったが、顔面に刻まれた傷は()えることがなかった。

 王子は自室に(こも)るようになり、次期国王は第二王子になりそうだというのが貴族間でのもっぱらの噂だった。


 カトリーヌは父親とともに投獄(とうごく)され、精神科医の治療を受けたが正気を取り戻すことはなかった。

 もちろん、カトリーヌは狂っているわけではない。

 心の中では正気であると訴え、助けを求め続けているが、セイルのかけた呪いが解けることはまずないだろう。


 塔へ(おもむ)いた者達の証言は、どれも要領を得ない物ばかりだった。

 ただ一貫していたのは、罪人とされていたリネットは塔の中で死んでいたのだというもの。

 しかし、その死体はどうしたのだと尋ねれば、黙り込む者ばかりであった。


 リネットの冤罪は晴れ、しかしリネットは戻らなかった。

 ビングリー家の墓には、何も埋められていない地面の上に、リネットの名が刻まれた墓石だけが静かに(たたず)んでいる。

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