第2話
「うっ……」
僕は目覚めた。
むくりと起き上がり辺りを見回す。
白い壁とベッドのみのシンプルな部屋。
ここは……病室だろうか?
そう思っているとドアが開き3人の男女が入ってきた。
女の子が二人と初老の男性だ。
「あら、気が付いているじゃない。」
「あの、ここはどこですか?僕は一体どうしたんですか?」
「ここは私の船、ブリュンヒルト号の中の病室の中ね。」
病室……やはり何かあったのか。
それにしても船の中にしては揺れがない、湖にでも止まっているのだろうか?
「君はね。」と壁のスイッチを押す。
ウィーンと壁が動いて窓が現れた。
窓からは宇宙と青白く光る惑星の姿が見えた。
「あの惑星ラーガルに傷だらけで倒れていたのよ。」
「一ヵ月も眠っていたんだから。」
「一ヵ月も……」
「それにしてもここは宇宙……そして宇宙船の中だったのか、どうりで揺れがないわけだ。」
「ところで、そろそろ君の名前を教えてくれないかしら?」
「あぁ、えっと。」
「ちょっと待った、人に名前を尋ねるときはまず自分からよね。」
「私の名前は、クリスティーナ・ハワード、クリスって呼んで頂戴。」
「冒険者であり医者よ。」
「僕の名前は、武藤 勇気。」
「わかったわ、ユーキで良いかしら?」
「うん、それで良いよ。」
隣の女の子が話掛けてきた。
「初めまして、ユーキさん、私はステファニー・ハワード、ステフとお呼びください。」
「わかったよ、ステフ。」
クリスが続けて答えた。
「私の妹よ、冒険者。」
「惑星ラーガルでのユーキの第一発見者よ。」
「発見した時はもうダメかと思っていたんです。」
「無事回復して良かったです。」
最後に、初老の男性が話しかけてきた。
「初めまして、ユーキ様、グレイスンと申します。お嬢様方の執事をしております。」
「わかりました、グレイスンさん。」
「それで、クリスにちょっと聞きたいことがあるんだけど。」
僕は聞いてみた。
「あの、地球って星は知っていますか?」
「う~ん、地球って星は知らないわねぇ。」
「そこがユーキの母星なの?」
「そう、地球に戻りたいんだ。」
「国交がない惑星に帰りたいってのはちょっと難しいかもしれないわね。」
「それはそうと、なんで入植前で人が居ないハズの惑星ラーガルに居たのかしら?」
「わかりません、突然空気が歪んで地面に魔法陣が描かれ、その後全身が痛み、気が付いたらここに居ました。」
「ふ~む、何者かの転移魔法、ということが考えられるけど、聞いたことのない星を跨ぐ転移魔法なんて神か悪魔位にしか扱えないんじゃないかしら、そんな超上級魔法にあなたがなぜ選ばれたのかは疑問が残るわね。」
「魔法があるんですね。」
「あるわよ、攻撃魔法から回復魔法まで何でもござれよ。」
「といっても得意不得意があって私の場合、火炎魔法が得意で回復魔法は苦手なのよね~」
「ステフは氷結魔法と回復魔法が得意なんだけど。」
「まぁ魔法の話はこのくらいにして。」
「ユーキはこれから帰るところはあるの?」
「え?いや……ないけど」
一人で宇宙に放り出されたようなものだ。帰る場所などあるはずがない。
「じゃあ私の会社に来ない?」
「私の会社、ギャラクシー・リンク社は現在冒険者を募集しているのよ。」
「ユーキならぴったりだわ。」
「え?でも冒険者ってモンスターとかと戦ったりするんでしょう?」
あくまで勝手なイメージだけどあながち間違っていないはずだ。
「剣道すらやったことないからむりだよ。」
自慢じゃないが武道は何もしたことがない。
「あら、それなら大丈夫よ。ユーキは今全宇宙の剣士、剣豪の技を使えるのよ。」
「ユーキの体を治す際にちょっと移植したのよ。」
え?なんだって
クリスはなおも自分の成果を話し続ける。
「ユーキは何もしなくても体が剣士の技で勝手に反応してくれるし、それに死にかけてから復活すると……」
いやいや、ちょっと待て、話に割込むように声を上げた
「それって人体改造じゃないか!」
そこにステフが話に割って入る。
「クリスお姉様は、人体改造なんてしませんわ。」
「でも、実際にしているじゃないか。」
「それは……」
僕はクリスに向き直る。
「どうなのクリス?」
「え、えっと~剣士の技を身に着けていると役に立つわよ。」
「モンスターなんかもイチコロね。」
「そんなことをしてくれなんて頼んでいない。」
昔、悪の科学者に改造された特撮ヒーローが居たなぁなどと思った。
気まずい空気が流れる。
「とにかく、私の治療がなかったらユーキは今ここに居なかったのよ。」
「それについては感謝している。でもそれとこれとは別問題だ。」
「じゃあユーキはどうしたいの?」
「治療費は将来働いて必ず払います。冒険者は出来ません。」
「最後にもう一度だけ聞くけど来る気はない?」
「冒険者なんて、出来ない、出来ないよ……」
「そう、決心は固いのね。」
「うん。」
「そうね、来てほしいのは私のわがままだもんね。」
「わかったわ。でも一ヵ所来てほしいところがあるのよ。」
「お別れはそれからでも遅くないでしょ?」
「わかった。」
クリスが声を上げた。
「さて、じゃあ出発しましょうか。」
「まずはユーキに剣をあげないとね。」
「え?でも使えないよ。」
「護身用よ、一応形だけでも持ってなさい。」
「まぁ持つだけなら。」
「グレイスン。」
「はいクリスお嬢様。」
「ユーキに剣を見繕ってちょうだい。」
「はいクリスお嬢様。」
「それではこちらの剣などいかがでしょう?」
「軽くて切れ味も抜群でございます。」
「それで良いわ。」
「じゃあこれから3人で惑星ラーガルまで行ってきます。」
「入植が開始されたとはいえ危険も多いのでお気を付けて。」
「まずは母船であるパイオニア号に行くわよ。」
小型艇を港に着けて。
「ここが母船パイオニア号よ。」
ユーキは声をあげた。
「すごい!町が丸ごと入っているんだね。」
「そうよ。私たちの母星、惑星コウオウから門を通じて、惑星ラーガル上空に泊まっているのよ。」
「まずはパイオニア号の冒険者ギルドに行くわよ。」
「ここが冒険者ギルドか。」
クリスとステフはカウンターへ行っている。
「は~いイリス、エリスは居るかしら?」
「あら、クリスとステフじゃない、久しぶりね。」
「エリスに用ってことはラーガルに行くのね?」
「そうね、少し用があって。」
「わかったわ、正面に映像出すわね。」
正面に映像が出た。
「クリスさんとステフさん、お久しぶりですエリスです。」
「これからラーガルに行くけど、特に問題はない?」
「はい、門も安定していますし、問題ありませんよ。」
「じゃあ、あとで会いましょう。」
「わかりました。」
「中に小型の門があるのよ。」
「今はわりと自由に行き来できるけど、ちょっと前まではごく限られた人しか出入りできなかったのよ。」
「ユーキを発見したのもその頃ってわけ。」
そこから惑星ラーガル地表の冒険者ギルドまで門が伸びている。
門を潜ると一瞬で惑星ラーガル地表冒険者ギルドに着いた。
エリスがやってきた。
「クリスさんとステフさん、本日は依頼を受けて来たのですか?」
「今日は依頼じゃなくて、個人的な用事で来たのよ。」
「そうですか、わかりました。何か用事があれば声をかけてください。」
エリスは、カウンターへ戻っていった。
「それで行きたいところってのはどこだい?」
「ちょっと歩くかもね。」
20分位歩いただろうか、鬱蒼とした森の中に入っていく。
「そろそろ着くわ。」
大きな木の前に着いた。
「ここよ。」
「ユーキはここで血まみれで倒れていたのよ。」
ここでといっても覚えは全くない。
そのことを告げると、クリスは呟くように答えた。
「やっぱり覚えてはいないか。」
「もしかしたら何かヒントがあるかもしれないと思ったんだけどね。」
ステフも痕跡を探してくれているようだ
「裏側に何かあったりしませんよねぇ。」
そういって木の裏側に回り込んだ。
そこにモンスターが居た。
二本足で立つ猪のようなモンスターだ
「グォォォ!」
「キャアァァァ!」
「危ない!」
ユーキは反射的に動いていた、剣を持ち「ザシュ!」っと自分でもわからないままモンスターを倒していた。
「グォォォ……」
「あれ?今何を……」
ステフが声をあげる。
「凄いです、ユーキ。」
クリスも声をあげた。
「さすがね、ユーキ。」
ユーキはしばらく放心していた。
倒したのか僕が……
「クリス、ステフ、僕ギャラクシー・リンクに入るよ。」
「僕でもモンスターを倒せるってわかったし、こんな僕でも役に立てるなら。」
クリスは歓喜の声をあげた。
「本当に、今更取り消してなんてあげないんだからね。」
ステフも喜んでいるようだ。
「仲間が増えました。」
「さー帰って今日は祝杯よ。」