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ロマンティックにオフィスラブ

作者: AGEHA

「ねえ美佳 今日の合コン何時からだっけ?」


「7時だよ 何!? 覚えてないの? って事は 気が乗らないって事か!」


「あはっ よくおわかりでっ!  正直 面倒くさ~い」


「あらまぁ…  ふっ まったく…   参加は一次会だけでいいから 頼むわよ!」


「ん~ はいはい…」


″行きたくないな…″



合コンの人数調整で収集された私は 正直面倒くさいという気持ちでいっぱいだった


それに合コンの相手は身内


"何で身内なの!? うちの会社にいい男なんていないじゃん!! なのに…   何で美佳達はあんなに気合い入ってんだろ…"




美佳に連れられ ちょっとお洒落なレストランに来た

美佳達は "もう来てるかな ドキドキする~"  なんて事を言いながら 案内してくれている店員の後を コツコツとヒールを鳴らしながら付いて行く


でも 案内された場所には まだ誰もいなかった


「はぁ~ まだ来てなかったね 何か ドキドキして損しちゃった」


なんて言ってるけど 私は


"は? もう5分前なのに 何で誰も来てない訳? こんな時って 男は女より先に来てるもんじゃないの?"


と 不満に思っていた


私達が席について15分程経った時 男性陣がやってきた


『すみません遅れてしまって… 会議が長引いて… 本当にすみません』


と いかにもムードメーカーって感じの人が言いながら 他の男性陣を席につくように促した


すると他の男性陣は何も言わず 当たり前のように席についた


私はその様子を見て ますますイラっとした


"謝罪の言葉は無いわけ? 何様? こんな奴らがうちの会社にいたなんて…  どこの部署だか知らないけど うちの会社の恥ね!  はぁ… 何か気分悪っ やっぱ断ればよかった"


と悶々と思っていると


「はい 次 (あきら)


と美佳が言った


「えっ? 何?」


と私が言うと


「何って 自己紹介だよ!」


と 美佳が答えた


どうやら 私が男性陣達に不満を抱いている間に 合コンが始まっていたようだ 


「あっ  ごめん  えっと 関内です」


とだけ言って ペコリと頭を下げた


『じゃ~次 男性陣』


とムードメーカーの人が言って 男性陣の自己紹介が始まった


8人がけのテーブル 私の真正面の人が

佐久間さん 見た目は普通だけど 私をジッと見てきて 何か圧を感じた  こういう人ちょっと苦手かも…

佐久間さんの右隣の人が

堂國さん  4人の中で 1番イケメン

堂國さんの右隣の人が

水嶋さん  強面だけど 笑顔がいい人

水嶋さんの右隣の人が ムードメーカーの  飯田さん


みんな 企画開発課の人達だった

企画開発課と言ったら うちの会社ではずば抜けて頭がよくって 語学も凄くて ほんと優秀な人材が集まっている部署だと 噂で聞いた事がある  でも私は入社して10年だけど 1度もこの部署の人達に会った事がない


"だから上から目線で あの態度だったのか…"


と 男性陣登場の時の事を思い返し


"会社じゃ優秀な人材かもしんないけど 遅れてすみませんとか ごめんなさいを言えない 非常識人間じゃん! "


と やっぱり不満な気持ちで悶々としていた

それでも美佳達に迷惑をかける訳にはいかないと思い 必死に作り笑いをしていた


談笑も半ばになり みんなお目当てさんの隣に移動し始めた


美佳はムードメーカーの飯田さんといい感じ! 


私は作り笑いに疲れていたので お手洗いに行くふりをして店を出た


「はぁ… 作り笑いのせいで頬が痛い」


と独り言を言いながら 店の前の防護柵に腰かけて頬をマッサージしていると


『何でこんな所にいるの?』


と 佐久間さんが店を出てきた


「えっ!? 何で?」


と 佐久間さんが出てきた事にびっくりして 佐久間さんの問に答えもせず 不思議そうに言うと


『何で? ってこっちが聞いてるんだけど…  何でこんな所にいるの?』


と また佐久間さんは聞いてきた

私は きょとんとしつつも


「あっ… ちょっと 風に当たりたくて…」


と答えると


『ふ~ん』


とだけ言って 私の隣に腰かけた

そして


『本当は 疲れたんでしょ? 作り笑いに』


と言って見透かした目線で うつむきかげんで腰掛けている私の顔を覗き込んだ

そして こう続けた


『ってか! 関内さんも人数調整で来たパターン?』


その言葉を聞いて


「も…って事は 佐久間さんもですか?」


と私が聞き返すと


『正解! とりあえず一次会だけ来いって 飯田さんに頼み込まれて 断りきれなくて…』


と あっさりカミングアウトしてきた

そして


『合コン始まってすぐ 関内さんはそうだろうな…って思ったんだよね!  何か遅れてきた俺らに 敵意むき出しな表情だったし 作り笑いもバレバレだし  人の話も聞かず明後日の方向見てるし  俺と同じ理由の人がここにもいたか!  って思ってたんだよね!』


「アハハ バレてましたか…」


『うん バレバレ!  でさ 提案なんだけど  一緒に消えるふりして 帰っちゃわない?』


私は佐久間さんの提案の内容に驚き 佐久間さんを見ながら固まっていると


『帰りたくないの? このまま まだ続くであろう一次会に付き合って ひきつった作り笑い続けるの?』


と 積めてきた

私は


「帰りたいですよ! けど そんなことしたら 後々厄介になりません?」


と返すと


『後の事は どうとでもなるよ! ってか 関内さんには迷惑かもしんないけど 俺的には 噂になっててくれてる方が 有難いんだよね!』


「は? 何でですか?」


『ん? だって その方が今後 来たくもない合コンに誘われる事も無くなるだろ?』


と その場凌ぎで 深く考えてない佐久間さんの発言に 気持ちが緩み つい


「ふふふっ」


と笑った私に


『おっ! やっと作り笑いじゃない笑顔が見れた!  そうでなくっちゃな 笑顔ってさ!』


と佐久間さんも 目尻にシワをよせて笑った


それから私達は 今後の作戦を立て席に戻った

すると 結構な時間席を外していた私達に気付いて無い程 場が盛り上がっていた

私と佐久間さんはその盛り上がりに付いていけず 本当ならもう少ししてから一緒に消える予定だったはずなのだが


"今 チャンスじゃない!?"


と思って佐久間さんを見ると 佐久間さんも同じ事を思っているようで 目を店の出入り口の方に動かした

私は小さく頷いて みんなにバレないようにバックを持ち 静かに席を立って店を出た

しばらくして佐久間さんも出てきて


『あぁ~何か 作戦必要無かったな! まさかあんなに盛り上がってるとは でも ラッキーだったよね!』


「ホントあんなに盛り上がってるとは… ってか 逆に私引いちゃいましたよ! でもホント ラッキーでしたね」


と 二人で笑った

そして 


『関内さん 何で帰るの?』


と佐久間さんが聞いてきた  私は


「まだ電車がある時間なので 電車で帰ります」


と答えると


『じゃあ 駅まで送るよ』


と言って 駅の方へ歩き出した

私は佐久間さんの後を歩きながら


「佐久間さんは 何で帰るんですか?」


と聞くと


『俺も電車 ってかその敬語 いらないよ! 俺と関内さん 同期で同い年なんだから』


と佐久間さんが言った

私は思わず


「えぇーーっ!」


と大きな声をあげて驚いた すると

その声の大きさに 佐久間さんは肩を縮め 困った顔で振り向きながら


『声デカっ!  って やっぱ俺の事同期だって分かってなかったんだな!  入社式の時 隣の席だったのに…   それに 同い年に見えないほど俺 老けてる?』


と言った

私はその事実に 今度は声も出ない程驚き 口元を手で押さえ立ち止まって 顔を横に何度も振った


『はぁ~ 分かってなかったんじゃなくて 全く俺の事を覚えて無かったって事か…  寂しいな~  結構話したのに…  それに やっぱ老けて見えてたか…』


と佐久間さんが言った


「ごめんなさい 入社式の日の事は めちゃくちゃ緊張してたって事以外 全く覚えて無くて… それに佐久間さんは えっと… 少し年上だと…」


と私が言うと


『知ってる!  だから 緊張を解してあげようと思って 話しかけたんだから  それでも 緊張が解れてなかったって事か…  笑ってくれてたから解れたと思ってたわ   俺は 関内さんと話してる間 楽しかったんだけどな~…  だから 覚えてるよ 関内さんの事』


と佐久間さんが言った

私は申し訳ない気持ちでいっぱいになり


「ごめんなさい 覚えてなくて…  ほんと 申し訳ない…」


と深々と頭を下げた

佐久間さんは


『おいおい 止めてくれよ!  そんな姿知らない人が見たら 女に謝らせてる偉そうな上司に見られんじゃん!  頭上げろよ!』


と言いながら 回りをキョロキョロ見てあたふたしている様子が 頭を下げている私に伝わってきた

私はゆっくり頭を上げ佐久間さんを見ると 目尻を下げて 額の汗をYシャツの袖で拭いていた

私は汗だくの佐久間さんを見て 思わず笑ってしまった


それから駅までの道を お互いの部署の愚痴を言いながら歩いた


いつもの私なら 美佳や他の人達の愚痴を聞かされる度 嫌な気持ちになって イライラしてきて ちゃんと聞いていられなくなるのに 佐久間さんの愚痴は 何故か嫌な気持ちにならなかった 


"何でだろう 愚痴が愚痴に聞こえない… それに佐久間さんみたいなタイプって 私苦手なはずなのに…″


と思いながらも 駅までの道を楽しく歩いた


『久し振りに思いっきり笑ったわ 気が乗らない合コンだったけど 関内さんのお陰で楽しかったよ ありがとう』


と駅が見えてきた時に佐久間さんが言った


「私の方こそ 佐久間さんのお陰で楽しかったです ありがとうございました。」


と返すと


『明日会社で色々聞かれるだろうな… 面倒くさいよな~   どうする? とりあえず情報交換できるように 連絡先交換しとく?』


と言いながら佐久間さんは パンツのポケットから携帯を出して 私に見せた

私は


「そうですね! その方がいいですね!」


と言ってバックから携帯を出し 連絡先を交換した



電車に乗ってすぐ 携帯が震えた

佐久間さんからのメッセージ


【今日はありがとう ほんと楽しかった これからは なんちゃって恋人? としてよろしくな!

それと 敬語 やめろよな!】


私は なんちゃって恋人 と言うフレーズにクスッ っと笑い 


〔はーい! こちらこそ なんちゃって恋人(笑) としてよろしくです〕


と返信した

するとまたすぐ メッセージが届いた


【思った通り飯田さんから 今どこメールが入ってきてるわ そっちは?】


〔私の方は何もないよ メールじゃなく明日直接聞いてくると思う  きっと根掘り葉掘り聞かれるよ  美佳が誰かとうまくいってたら 自分の事だけ話すだろうけどね  聞いて聞いて~ って  で最後に  ってか あんたいつ帰ったの? ってね(笑)〕


【そっか! 根掘り葉掘り聞かれたらどう答えるんだ?】


〔どう答えよう?〕


【美佳って 佐野さんのことだろ? 親友?】


〔うん そうだよ〕


【そっか… 親友には本当の事話したいだろうけど 言っちゃダメだよ!】


〔分かってるよ〕 


【本当に大丈夫か?  女ってお喋りだからな~】


〔大丈夫だって! 信用してよ 私だって今後気が乗らない合コンに行きたくないんだから!〕


【だよな! 分かった 信用するよ!】


と そんなやり取りをしながら私は

"こんなウキウキした気持ちになるのって 久しぶりだな…  楽しい  今日は行ってよかったな…"

と思っていた

 




次の日 会社の給湯室で


『気が乗らないって言ってたわりに お持ち帰りされるなんて! ク~っ ムフフ  上手くやんなよ~』


と 美佳の意外な言葉に拍子抜けした

それに 根掘り葉掘り聞いてくるどころか それ以上何も聞いてこなかった


″お持ち帰りって…  色んな回答準備してたけど なんか取り越し苦労だったな~ まぁ いいかっ!″


と 私は少し ほっとし

早速美佳とのやり取りを佐久間さんに報告した


【マジで! あぁでも 俺の方も特に突っ込まれる事無かったよ!  まぁ みんな大人って事だな! ホント 取り越し苦労だったな!】


〔だねぇ… 〕


と文字を打っている途中で 何だか寂しい気持ちになり 


"って事は…  私達のなんちゃって恋人も 必要ないって事?…  そんな…  たった数時間だったけど 昨日のウキウキした気持ちが忘れられないのに…  どうしよう…  ん…  心が…  "


と思いながら 手を止めていると 新たに佐久間さんからメッセージが入ってきた 


【何か考えてる?  ひょっとして なんちゃって恋人は必要無いとか思ってる?  必要だからな!  みんなに俺達は上手くいってるって思わせないといけないだろ?  だから 必要だからな!  そう言う事だから 今日一緒に飯どう?】


このメッセージを見た時 私は思わず 「フフッ」っと声が漏れた

そして 数分前まで寂しい気持ちだったのが嘘のように消え 昨日のウキウキした気持ちになっていた


〔今日? うん わかったよ 6時頃には会社出れると思う〕 


と さっき打ちかけていた文字を消し そう返信すると


【よし! 6時ね! わかった 俺もその時間に切り上げるわ! じゃ 後でな】


〔うん 後でね〕



佐久間さんとのやり取りを終えてからの私は ウキウキとソワソワとワクワクとドキドキで仕事が手に付かない状態で 時計ばかり気にしていた


"さっき時計見た時から まだ10分しか経ってないじゃん!  はぁ~  時間経つの遅っ…   あっ! 今日どんな服着てきたっけ!?  どうしよう 思い出せない…   休憩時間に確認してこなきゃ!"


と思った時 私は "はっ!" とした


"久しぶりの気持ちの浮つきに 我を失うところだった…  ヤバイヤバイ 落ち着け落ち着け… 私達は なんちゃって恋人  私達は なんちゃって恋人…"


そう自分に言い聞かせ 約束の時間に遅れないようにする為 仕事に集中した

でもやっぱり ウキウキ ソワソワは抑えきれず 約束の時間ギリギリになってしまった


「終わった~!」


そう言いながら背伸びをすると


「晶 終わった? じゃあ帰りご飯食べに行こうよ!  いい店見付けたんだ~」


と美佳がいってきた

私はドキッとして 


「あっ ごっ ごめん… えっと…」


とまで言うと 美佳は何かを察知したのか


「ああ!  いい! いい!  じゃあまた今度ね!」


と言い ウインクをして帰っていった


"美佳 佐久間さんと本当のデートだと思ってるんだろうな… ごめんね 騙してて…"


少し罪悪感を感じながら帰り支度をして オフィスを出た


エレベーターの中で携帯をチェックしていると 佐久間さんからメッセージが入ってきた

 

【エントランスのソファーの所で待ってる】


私は


〔もう着きます〕


と返信し エレベーター内の壁に掛かっている鏡で髪を整えた

エレベーターが1階に着き扉が開いた

私がエレベーターを降りた時 左側に人影が見えそちらを見ると 佐久間さんが壁にもたれて立っていた


『お疲れ!』


そう言って笑顔を見せてきた


"何 この出迎え! それにその笑顔! ずるい!″


と思いながら


「お疲れさまぁ」


と少し照れて返した


並んでエントランスを歩く みんなに見られているようで 何だか恥ずかしい感じがした

こんな感覚も久しぶりでドキドキが止まらない まるで 中高生の頃に恋をしていた時のような感覚 私にはそれが新鮮だった


『何食べたい? 和? 洋? 中?』


「う~ん 和 かな~」


『和ね! OK! じゃあこっちだ!』


と佐久間さんは右の方を指差しながら 私の肩に手を添え 右に曲がるよう促した

店に向かっている間ずっと 肩に置かれた佐久間さんの手に 私は心地良さを感じていた


会社を出て5分程歩くと 白い生地の暖簾に黒の字で店名が書いてある いかにも和食って感じの店に着いた


『ここここ! この店 俺の一押し!』


「そうなんだ! 会社からそう遠くないこんな所に和食店があったなんて知らなかった~! 結構大きな暖簾出てるのに… それに この辺よく通ってるはずなのに…」


『だろう! 入ろう!』


そう言って佐久間さんは先に暖簾を潜った


店内に入ると 右手にカウンター席 左手にテーブル席があった

店員さんが 何人なのか どの席がいいか聞いてきた

佐久間さんは


『個室空いてる?』


と聞いた


"個室あるんだ!"


私は思わず佐久間さんを見た

佐久間さんはニヤッと笑い


『あるんだよ 個室!』


と 私が思った事の答えをした


店員さんは

「はい 空いてます ご案内します」


と言って 入口直ぐ横の階段を上がり始めた


"2階があったんだ! なるほど!"


と私は思った

佐久間さんの後に階段を上がり 案内された個室に入ると 掘りごたつになっていて 何だか落ち着きを感じた


『いいだろう? 隠れ家的な感じで』


「うん いい感じ! 落ち着くわ よく来るの?」


『うん 曜日はバラバラだけど週に1回は必ず! ここの味が俺好みでさ ついついな…』


「そうなんだ… えっ? 一人で?」


私は思わずべタな質問をしてしまった

すると佐久間さんは 


『うん 一人だよ! ここは俺の隠れ家だから 誰にも教えてないし 教えたくないから必ず一人で来てる』


と言う佐久間さんの言葉に ホッとして直ぐ ハッとして佐久間さんを見た


『それなのに何で私を連れてきたの? って顔してる! (笑)』

 

「えっ! 顔に出てた? ハハッ うん何で?」


『う~ん ・・・ 特別 だから?  かな!』


特別 という言葉にドキッとした私は


"今日何回佐久間さんにドキッとさせられただろう… ホント ヤバイ…"


と思っていた



佐久間さんが進めてくれた料理は どれも私好みの味で 本当に美味しかった


美味しい美味しいと言って食べる私を 佐久間さんは嬉しそうに微笑んで見てる

      

"ああ 佐久間さん その微笑みは 罪だよ…  お願い そんな顔を見せないで…   私こんな状態で 恋人のふりをしていけるのかな…"


佐久間さんが笑顔を見せる度に キュンキュンしながら どことなく不安な気持ちも混ざって 複雑とはちょっと違う 言葉に表せない感情を 私は料理と一緒に飲み込んだ


『ホント旨そうに食うよな! 合コンの時もそうだったよな! 人の話全く聞いてなかったくせに 料理だけは旨そうに食ってた  でも だからここに連れてきたいと思ったんだけどな!』


「アハハ…  もう合コンの時の事は言わないでよー!」


と言ってほっぺを膨らませると 佐久間さんは料理を口に運んでいた手を止め 目を見開き しばらく固まってしまった  そして


『やっ 止めろよ そういうの…』


と 慌てて目を逸らして言った


「はいはい どうせ可愛くないですよ!」


と私が言うと


『そうじゃない…』


と言って 佐久間さんは下を向いた


"そうじゃない? じゃあ何?"


と聞きたかったけど 下を向いたままの佐久間さんを見ていると 聞けなかった

それから何となく話が途絶えてしまって どうしようと思っていると


『ごめん 何かきまずくなっちゃったな… ただ… 実は… 俺… 女の人が ほっぺを膨らますしぐさに弱いんだよ… もちろん 人にもよるけどさ! いいなって思ってる人に そのしぐさをされると…     いや 俺 何言ってんだろ… ごめん 忘れて!』


と動揺して 佐久間さんはあたふたした

私も 佐久間さんの言葉に動揺していた


"いいなって思ってる人のしぐさに弱い…   えっ?   それって…   えっ?  佐久間さん そんな事言ったら私 期待しちゃうよ?"


と思っていると 佐久間さんが眉の上辺りを人差し指でポリポリかきながら


『ハハハ ほんと 気にしなくていいから…』


と言って またずるい笑顔を見せた




”佐久間さん それは無理です! 私はもう 始まってしまいました”




この日から私は なんちゃって恋人としてではなく 勝手に気持ちを切り替えて 勝手に本気で恋を始めた


”この恋は 普通の片思いとはちょっと違う 一方通行の恋だけど 楽しもう!”


そう思った




そして私達は幾度となくデートをした


デートの誘いはいつも 佐久間さんがわざわざ私の部署まで来て


『今日 大丈夫? ご飯行こう?』


とみんなの前で 私の肩を抱きながら言う

いつもならみんなは何も言わず ″はいはい…″ って感じであきれてるのに 今日は美佳が 


「もう~毎回毎回見せつけてくれるよね~! デートの約束するんだったら メールですればいいのに~  相手がいない私達の身にもなってよね~」


と言った

きっと私が美佳に 佐久間さんの事を相談したからだと思う…




佐久間さん達と合コンしてから もうすぐ1年

なんちゃって恋人から 勝手に本気の恋に切り替えてから半年 私達の関係に何の進展もなく デートの誘いは会社で デート後のメールも今はもう無く 当然 普段でも恋人らしいやり取りも無い そんな毎日に辛くなってた時に 美佳が聞いてきた


「昌 最近元気無いけど 何かあった?(倦怠期かな…)  悩みあるんだったら言ってよ 相談にのるよ?」


私は辛さに耐えきれず 佐久間さんとの関係を話した


「えっ? 付き合ってるんじゃなかったの? なんちゃって恋人って… (どういう事?) 嘘でしょ!?  合コンに誘われなくする為にって… (いやいや佐久間さん何やってるのよ! なんちゃって恋人って 有り得ないでしょ!!) かもしれないけど 今は佐久間さんが晶の事をどう思ってるかだね!  私が思うには 佐久間さんも晶と同じ気持ちだと思うけど… (ああもぉ イライラする! 何でこんなにこじれちゃってるのよ! この事 飯田さん知ってるのかな…)   私 探り入れてみようか?」


『ううん 大丈夫… 美佳に聞いてもらって少し楽になったし 勇気出して 自分で聞いてみるよ ありがとう美佳』


「そう!? 分かった! 頑張ってね(飯田さんに聞いてみなきゃ!)」




"と美佳に言ったものの…  怖くて聞けないよ…  はぁ~  どうしよう…"







ある日の昼休み 佐久間さんがある女性を見ていた



『よぉ! 佐久間 また見てるのか?』


「ああ 飯田さん (笑)はい…」


『話しかければいいじゃん! んで 食事に誘って 告ればいいじゃん!』


「そんな勇気あったら こんなに長く片思いしてないですよ!」

  

『確かにな!  でもさ もういい加減、前進まないとダメなんじゃね? あの子に片思いして もう10年だろ?  あの子に彼氏ができた時 何で諦めなかったかな…  正直 佐久間 イタイよ!』


「・・・イタイのは十分承知してますよ!  でも…」


『仕事はきびきびできて男らしいのに 恋愛となると情けね~な~  仕方ない! 俺が一肌脱いでやるよ!』


「一肌脱ぐって 何をするんですか?」


『いいからお前は 俺の言う通りにすりゃいいの!』







ある日


『ねえねえ佐野さん!』


「えっ? はい… え?(誰? 何で名前知ってるの?) 何ですか?」


『急にごめんね~  俺 企画開発課の飯田ってんだけど 今時間いい?』


「企画… は・・・い(企画開発課の人が何の用?) 大丈夫ですけど…」


『ありがとう 実は俺の後輩に佐野さんと同期の佐久間っているんだけど 佐野さんの親友? の関内さんの事を入社した時から好きらしくて でもこいつが恋愛にすんげ~奥手でさ 10年間声もかけず ただただ見てるだけでさ 何か…(笑)   そこで! 俺が一肌脱いで 長い片思いを前に進める為にも 合コンを企画してやろうと思って 佐野さんにお願いに来たって訳!』


「えっ? 入社当時から? (嘘でしょ!?) すっ凄いですね佐久間さんって 一途な方なんですね!  晶 幸せ者だなぁ… (10年も見てるだけって ちょっとキモイけど どんな人なのか これは見てみなきゃだわ!)    分かりました! そう言う事なら 協力しましょう!」


『ありがとう! よかった~ じゃあさ 何かと連絡とり合う事あるから 連絡先交歓しようよ』


「分かりました」


ということで 晶と佐久間さんをくっつけよう作戦が始まった


合コン当日 面倒くさがってドタキャンしそうな雰囲気を 一次会だけでいいからと宥めて レストランに連れて行って 飯田さんも佐久間さんと打合せしたのか… 何かを伝授したのか… 上手く晶を連れて帰って…

まさか今までのが 付き合ってるフリ だったなんて…

晶…  何とかしてあげなきゃ…





「・・・って事らしいんです 飯田さん 知ってましたか?」


『嘘だろ?  知らなかった… 俺も佐野さんと同じで あいつら 上手くいってるって思ってた…  あいつ何で… 俺 あいつと話してみるよ』


「はい お願いします  私も晶と話します」


『おお よろしく』





『佐久間 今日ちょっと付き合え!』


「はい 分かりました」




会社近くの居酒屋


『なあ佐久間 俺遠回しに聞くってできないから 単刀直入に聞くけど… お前 関内さんと付き合ってないって本当か?』


「・・・はい  彼女から聞いたんですか?」


『いや 聞いたのは佐野さんから  本当だったんだ  何でそうなったんだ?』


「・・・実は合コンの日 途中で関内さんが店の外に出たのを見て 後を追いました  あまり乗り気じゃなかったって飯田さんから聞いていたから その事を話しのきっかけにして 実は俺も同じで 実は帰りたい みたいな事を言ったら 打ち解けてくれました  それで 一緒に消えるふりして 家に帰ろうと提案して 一緒に帰ったんですけど 時間もまだ早かったので お互い電車で帰ったんです それで 駅までの道を 色々話したんですけど 関内さん ずっと敬語で  敬語は使わなくていい 俺達 同い年の同期で 入社式の時 席が隣だったんだよ って言ったら 関内さんめちゃくちゃ驚いて…  俺の事 全く覚えてなかったんです…  それなのに 告白なんてできないですよ!  振られるの目に見えてるじゃないですか!  だから 苦し紛れでしたけど お互い行きたくもない合コンに誘われないようする為にという理由で なんちゃって恋人として契約ではないですけど… 関内さんも了承してくれましたよ!」


『なるほどね…  でもさ 何で友達から始めようとか言わなかったんだよ! その方が俺達だって何かと協力できたのに』


「勿論俺もそれは考えました けど 友達からじゃ長すぎるじゃないですか! なんちゃってでも恋人としてなら そばにいやすいじゃないですか! それに 俺の事を早く知ってもらうためにも…    飯田さんと佐野さんが 一肌脱いでくれたお陰で 関内さんに近づく事ができました だから二人のためにも これからはちゃんと自分の力で 関内さんを振り向かせなきゃいけないと思い…」



『だからって… まぁいい 今更言っても仕方がない… それより このまままだ なんちゃって恋人を続けていくのか?』


「いえ そろそろ関内さんに俺の気持ちを言おうと思ってました    でも最近 関内さん 俺と会っていても 何か 辛そうというか… 俺といても楽しくないのかな… と思う感じで  言い出せないでいます    ひょっとして 飯田さんが佐野さんに聞いた事って  関内さんがなんちゃって恋人をやめたがってる的な話ですか?」


『いや 違う  でも 俺から一つアドバイスしてやるよ』


「はい お願いします」


『関内さんを振り向かせたいなら 今すぐ関内さんの所に行って 気持ちを伝えてこい!  お前とよく行く和食屋の松の間にいるから』


「えっ? どういう事ですか?」


『いいから 早く行け!  早く!!』


「はっ はい」





【今 佐久間がそっちに向かったから】


〔分かりました〕





『晶 ちょっとお手洗い行ってくるね』


「うん」



美佳がお手洗いに行って随分経つのに まだ帰ってこない…

私は心配になって見に行こうと席を立った時 扉が開いて 佐久間さんが入ってきた


「えっ? 佐久間さん! どうして?  えっ? あれ?」


『ごめん びっくりしたよね  佐野さんなら帰ったよ』


「えっ? どういう事?」


『とりあえず 座ろう!    えっと… 実は… 飯田さんに二人の関係を聞かれて…』


「あっ… ごめんなさい 私 美佳に話してしまって…  今もその話をここでしてた…」


『うん ここにいるの 飯田さん知ってて だから来た』


「そうなんだ 美佳かな…」


『うん だと思う ・・・』


″何だろう 何か言おうとしてるよね…  何か分かんないけど 聞きたくない… 聞くのが怖い…″


「ほんとに ごめんなさい  内緒だったのに…」


『いや いいよ!  ちゃんと話そうと思ってたし こっちこそ ごめん 悩ましてしまって』


「ううん そんな」




『ふぅ~  ふっ  ・・・関内さん 実は俺 関内さんに入社式で会ってからずっと好きだったんだ   でも俺は 恋に奥手らしく 今まで食堂や廊下で関内さんを見かけても 話しかけることができず ただ見てるだけで そんな俺を見かねた飯田さんが 佐野さんに声をかけて合コンを企画してくれたんだ』


「えっ? そうだったの!?」


『うん でも 関内さんが俺を覚えてなかっただろ? だからあの日 スタートラインにも立てなかったから 正直 苦し紛れの思い付きで なんちゃって恋人なんて事を…   えっと 一つ 聞いていいか?』


「うん 何?」


『今までで俺の事 少しは知ってもらえたかな?』


「うん 知れたよ」


『よかった…  じゃあ 改めて言うよ    俺と 付き合ってください』


″嬉しい 別れを言われると思ってたけど… 思いが通じた 泣きそう″


「はい よろしくお願いします」


こうして私達は 本当の恋人になった




「わ~~~ おめでとう~~~!」


そう言って 美佳と飯田さんが部屋に入ってきた


『えっ! いたんですか?  いつから?』


と佐久間さんが言うと


「ふふふ 随分前から」


そう言って美佳がピースをして 片眉を上げた


「晶~ よかったね~ ほんとによかったね~  おめでとう~~~!」


「ありがとう美佳」


そう言って私は美佳にハグをした


その後しばらく4人で ワイワイと話した

その話の中で佐久間さんが 美佳と飯田さんって 気が合うようだしお似合いですよ!  と言った

私も同じ事を思っていた  すると二人同時に


《えっ! 嘘でしょ!!》


と言った しかも  同じ動作で!!


「ほら! やっぱり二人気が合うし お似合いだよ!」


と私が言うと 美佳は少し頬を赤らめて 下を向いた

そんな美佳を見て私は 美佳の気持ちに気付いた

私は佐久間さんの所に行き 耳打ちをした


「今度は私達が一肌脱ぐ番だよ! 二人をくっつけよう!」


佐久間さんはゆっくり頷き ニヤリと笑った



『じゃあそろそろ帰ろうか!』


と飯田さんが言い 当然のように美佳の腕を引っ張って立たせ 会計を済ませ


『じゃあ俺らこっちだから』


と言って 美佳の腕を掴んだまま 帰って行った


私と佐久間さんは呆気にとられながら 飯田さんと美佳を見送った

飯田さんと美佳が見えなくなった頃 やっと我に返り 私と佐久間さんは見合い 笑った


『はぁ あの二人も 上手くいくといいな!』


「うん 上手くいって欲しい」


『だな!  じゃ 俺らも帰ろうか!』


そう言って佐久間さんは 私の手を取った


今まで なんちゃって恋人だった時は 肩を組んでくれることはあっても 一度も触れたことがなかった手

この手の温もりが 本当の恋人になった事を実感させてくれた


駅までの道を歩きながら 繋いだ手と いつも聞いてるはずなのに 佐久間さんの声にドキドキが止まらなかった


″私 自分が思ってた以上に佐久間さんの事 好きになってたんだ!″


そんなことを考えていると


『 晶 』


と佐久間さんが私を呼んだ

私は満面の笑みで佐久間さんを見た

佐久間さんも笑顔で


『好きだよ』


そう言って キス をしてくれた

優しく 心地いいキス




″私も あなたが好き″

 




次の日

私達が一肌脱ぐ必要も無く 美佳から飯田さんと付き合う事になったと聞いた

それから 私達より先に 展開が早かった事も…




                   ― 完 ―



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― 新着の感想 ―
[一言] 本当に好きになると、相手に思いを伝えられなくなりがちです。気軽にいっているときは、本気でないのかもしれません。
2021/01/02 10:04 退会済み
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