男勇者 VS セイ
「うぉらあぁぁぁぁっ!!」
男勇者は、大剣を力いっぱい振り下ろす。
「ちっ…!」
セイはそれを回避せず、メイスで大剣の攻撃を受け止めた。
ギィンという金属の音が響き渡る。
「今…っ!!」
「無駄ぁっ!!」
男勇者は、セイの反撃に対し、結界を展開させて攻撃を防ぐ。
魔力を使わず、詠唱もなしにいつでも結界を貼れるという勇者特権のチート能力の一つだ。
「はははっ、お前の攻撃なんざ俺様の結界の前では効かねぇよ!!」
「それはどうかな?」
「はっ、強がりか?」
「その力を食え、『バエル』」
すると、魔槌『バエル』が紫色に光り、男勇者の結界を溶かしていく。
「な、何ぃぃっ!?」
結界が溶かされた事に信じられない男勇者。
しかし、セイの攻撃は待ってくれない。
「ぐはぁぁっ!?」
魔槌『バエル』による一撃は、男勇者の横腹に思いっきりヒットした。
鈍い音と共に、男勇者は吹き飛ばされ、ブロック塀に激突した。
「あ…が、がふっ…!」
内臓にも衝撃を受けたのか、男勇者が吐血する。
だが、持ち前の気力でよろめきながら立ち上がる。
「へぇ、やるじゃん。 あの攻撃を受けて立ち上がれるなんてね」
「き、貴様…、俺様の結界を何故破ることができた…!」
「この魔槌『バエル』のおかげだよ」
「ふ、ふざけんなぁぁっ!!」
「うるさいな…。 さっさと終わらせるよ」
セイの答えに、男勇者がいきり立つ。
最早、完全に感情をコントロールできなくなっていた。
それに呆れたセイは、早めに決着をつけるためにメイスを再び構えた。
「セイ…だっけ? 彼の言うのは本当なの?」
「うん、セイ兄の持つ魔槌は…魔の力を持つ武器の一つ…。 魔の力を持つ武器は、全て…さっきの勇者の…結界などの力を…破壊する効果を持ってる」
セイと男勇者の戦いを傍らで見守る和樹たち。
先ほどのセイの言葉に対して、ルキアに聞いたようだ。
魔の武器を知るルキアは、和樹の質問に対し、肯定の答えを出した。
「逆に聖なる武器は、聖剣一つしかないけどね」
「そうなのか…」
回復魔法を掛けながらティリアもルキアの回答に補足を付けた。
ある程度、納得の答えを聞いた和樹は、泣き疲れて眠っているルナを撫でながら男勇者と戦っているセイを見る。
「セイ…。 君は…、どうやって強くなったんだ…」
ただ、魔槌『バエル』のおかげで強くなったわけじゃない。
それ以外にも彼が強くなれる要素があるんじゃないか…、そう思っていた。
その理由は、ティリアが教えてくれたようだ。
「私達を始め、ここの孤児院に住んでいる孤児のみんなは、まるで『家族』のように寄り添って生活をしていたの。 セイは幼いころからそうだったからが特に…ね。 彼はそんな『家族』を守りたい。 その一心で必死に強くなろうとしたの」
「家族…」
「そう。 魔槌『バエル』に選ばれたのもその過程。 彼の確固たる意志が選ばせたのかも知れないわね」
「……」
段々と防戦一方になっている男勇者を見て、セイの強さの原動力を知った気がした。
自分に、それほどの意思があったのだろうか…。
和樹たちは、セイの戦いを固唾を飲んで見守っていた。
「ぐあぁぁぁぁっ!!」
「…うるさい上に、しぶといね」
「あぐ…、俺様は…勇者…なんだよ…! こんな…ガキに…!!」
「あんたが勇者だろうが関係ないよ。 『家族』の敵であることに変わりはないんだから」
満身創痍になった男勇者にセイは冷ややかな目で見つめるだけ。
その先にあるのは、男勇者の死…ただそれだけ。
「終わらせるぞ…、『バエル』!」
セイが大きく振りかぶる。
「がひゅっ!?」
上から下へと振り下ろしたメイスの一撃は、見事に男勇者の脳天を打ち抜いた。
頭が割れて、大量の血と共に脳みそが飛び出す。
男勇者は、そのままうつ伏せに倒れたまま息絶えた。
「やっと終わった…」
「セイ…、終わったのね」
「ああ…、ティリア、ルナとカズ兄は?」
「落ち着きを取り戻したわ。 カズキ兄さんの回復も終わってるし、ルキアがケアをしているわ」
「そっか…。 カズ兄の元へ行こう」
男勇者の血がこびり付いた魔槌『バエル』を引っ提げたまま、セイは和樹の元へ向かった。
*ノベリズムにも当作品の掲載を始めました*
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