勇者襲来、そして…
「カズキ君が皆と打ち解けてくれて何よりだな…」
「ルキアの助けもあったおかげでね」
「それでもだ。 例の件のトラウマでどうなるかと思ったのだからな」
「そうね…」
セイ達が和樹を保護してから三日経過した。
和樹の方も体調自体も少しずつ良くなってきているようで、みんな安心していた。
彼自身もルキアの助けもあって、みんなと打ち解けあっていた。
町長としても、ティリアにしてもそれが救いであった。
「セイとオレグは巡回かしら?」
「ああ。 三日前から他の冒険者になってる子たちも一緒に町を巡回してる。 何せゼラゲイド王族が複数人を勇者として召喚したことで掛かった費用を税金を高くすることと無理やり取り立てようとすることで賄うつもりだからな」
「…最低よね。 ホントに」
「私もそう思うよ。 幸い、他の反王族の貴族も王族に何らかの反抗を行うようだがね」
町長とティリアがそんな会話をしていると…。
「うわあぁぁぁぁん!!」
「な…!?」
「この悲鳴は…ルナ!? あの子、カズキ兄さんと庭で遊んで…」
「まさか…!!」
ティリアと町長は、ルナの悲鳴を聞いて、ルナのいる場所へと走っていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
同時刻、セイは別の場所を巡回していたオレグと合流していた。
「セイ、そっちはどうだった?」
「今の所、異常はないね」
「こっちも今のところは大丈夫だ」
今の時点では、王族の手は伸びていないということなのだろうか?
とはいえ油断はならない。
いつその手が現れるかが分からないのだから。
「なら次は、ここと…ここだな?」
「そうだね。 オレグはここを…」
セイが、オレグと次の巡回の場所を話し合っていた時だった。
「うわあぁぁぁん!!」
「な、なんだ!?」
「この悲鳴…、ルナだ…!」
「って事は孤児院に入り込まれた!? マジかよ!?」
「とにかく行くしかない…!」
セイとオレグは急ぎ足で、孤児院に戻っていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「にーに、にーにぃっ!!」
ルナが倒れる和樹に泣きながら必死で声を掛ける。
和樹は生きているものの、痛みで動けないようだ。
そんな二人を庇うかのようにティリアと町長、そして後から駆けつけたルキアが和樹を傷つけた張本人と対峙していた。
だが、当の三人はダメージによって満身創痍になっていた。
「ま、まさか、孤児院に入り込まれてたなんて…!」
「ああ、敷地内には結界を貼っていた…はずだがな」
町長がそう言った直後に、対峙している張本人が答えた。
「はははっ、そんなもの俺様のチートスキルの前では無力なのだ!」
「チート…スキルだと…!?」
「そうよ、私たちは勇者なのだから、国王様の命に従わない者は殺してもいいと言ってたわ。 そこの生きてる無能と共にね」
「な…に…!?」
町長は信じられないような表情をしていた。
王族は従わない者は即座に殺してもいいと言っていた。
つまり極刑というのはそういう意味だったのだ。
そして、何よりも孤児院を張っていた結界は、勇者のチートスキルの力で無効化させられていた。
つまり、勇者に結界は無意味だという事になる。
「だけど…カズ兄を殺させは…しない…!」
「威勢だけはいいようだなぁ? まずはお前から犯してしまおうかぁ?」
(ルキアちゃん…!)
そんな様子を見てる事しかできなかった和樹は、何とか動かそうとしたが痛みで動けない。
このままでは彼女が…ルキアやティリアが町長がやられる…!
(僕に…僕に力があれば…!)
無力な自分を恨み、悔し涙を流す和樹。
心配そうに見上げるルナ。
「その涙は、いつか強くなれる証だよ」
その時、どこかで声が聞こえた。
和樹もルナも周囲を見回す。
すると…。
「きゃあっ!!」
ドスッという鈍い音と共に、女勇者が吹き飛ばされ、壁に激突する。
そのまま地面に倒れ、ピクリとも動かなくなる。
「なっ…!?」
そして、男勇者の側面から、メイスを振りかぶろうとしていた少年が現れた。
勢いよく突進したまま、男勇者にメイスを振り下ろす。
「ちぃっ…!」
咄嗟に防御した男勇者はすぐに間合いを取った。
「神薙は…!? くそっ、死んだのか!?」
「ああ、俺が殺した」
「お、おのれぇぇぇっ!!」
神薙という女勇者が、セイのメイスの一撃で殺されたことに男勇者は怒りをぶちまけていた。
まるで狂戦士のように、荒れ狂っていた。
そんな男に恐れることなく、視線をティリア達に向ける。
「セイ…」
「ティリア、ルキア、町長…、こいつは俺がやる…。 カズ兄の回復とルナのケアを頼む」
「分かった、任せるぞ」
ティリア、ルキア、町長はゆっくりと和樹とルナのいる場所に向かった。
和樹の回復と、幼いルナのケアのために。
そして、男勇者とセイが対峙する形となった。
「き、貴様も俺様の邪魔をする気か?」
「家族が酷い目に遭ったんだ。 当然、そうする」
「なら国王様の命により、貴様を俺様の手で殺してやるぁぁぁっ!!」
「やれるもんならな…! いくぞ、魔槌『バエル』!」
魔槌『バエル』を引っ提げて、家族を守るためにセイは男勇者に戦いを挑む…。
王族に従う勇者に反逆するために。
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