プロローグ~予兆~
新作を書きました。
よろしくお願いします。
異世界『セレティア』。
この世界では、魔族による人類の危機が常にある世界だった。
各国が対策を練っても焼け石に水。
魔族を倒すには至らないどころか、幾つかの国が壊滅するという結果まで出た。
そんな中、一つの国がある事項を強行する。
国民の反発など聞き耳持たない形で、自分こそが優秀な国だと豪語したいがために。
そんな国から少しずつ反逆の芽が出てきていることを知らずに…。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「聞いたか? 国王が異世界から勇者を召喚するらしいぜ?」
「はぁ!? マジか!?」
「大マジさ。 しかもそれの為にまた俺達国民からの税金を高くするらしいぜ」
「ゼラゲイドの王族、狂ってるな…。 いくら魔族が脅威だからって…」
「私達、どうなるのかしら。 ただでさえ税金が高いのに…」
「しかも従わなければ極刑って聞いたわ…」
「これに貴族も怒りを露にしてるそうだけど…」
ゼラゲイド王国の首都『オリナル』の住民から聞こえる声は、王族への不満だった。
現在、この国を始めとした他国にも魔族からの攻撃にさらされている。
『スタンピード』と呼ばれる魔族進軍によって壊滅させられた国もあるそうだ。
各国が魔族の対策に頭を悩ませている傍らで、ここゼラゲイド王国では、勇者として異世界の人間を召喚しようとしていたのだ。
異世界召喚には、人員や道具などの各準備にお金がかかる。
その為、ゼラゲイド国王は只でさえ高い税金をさらに高くした。
しかも、払わない者には極刑を課すというおまけ付き。
そのために、住民たちは不満が燻っていたのだ。
「……」
その傍らで住民の声を聴いていた一人の少年は、鋭い眼光のまま首都から出ていく。
首都からはそこそこ離れた町『ルーズベルク』。
今のゼラゲイド王族に怒りを露にする人たちが集まってできたその場所に建てられた古めの邸宅。
そこは孤児院となっており、多くの孤児が寄り添うようにして住んでいた。
少年が孤児院に入るとみんなで少年を出迎える。
「セイ!」
「セイにぃ、おかえり」
「…ただいま」
セイと呼ばれた少年は、買い出しの物を少女に渡し、首都で聞き耳を立てた内容を報告する。
「…それ、本当なの?」
「うん、異世界から勇者となる人間を召喚するって。 しかも、そのために税金も高くなるって」
「マジか…、俺達どうなるんだ? 只でさえ冒険者活動しても高い税金によるピンハネで手取り少ないってのに…」
「魔族を倒すからって…いくらなんでも…」
孤児の年長者達はそろって不満を口にする。
下の子たちはなんの事だかわからない様子。
「とにかく、あの王族が異世界から勇者となる人物を召喚する事は決定事項。 首都の住民も不満は燻ってるけど、従わなければ極刑らしいよ」
「そんな…!!」
「じゃあ、この町も危ないじゃないか…!」
「うん、真っ先に狙われるね。 王族はこの町を危険視してるから」
セイが口にするさらなる内容に年長者達の表情が曇る。
従わなければ極刑という言葉に、元々ゼラゲイド王族に反発する者が集まって作った町が狙われるからだ。
王族達もこの『ルーズベルク』の町を危険視してるようで、おそらく勇者を使ってでも壊滅させようとしてくるだろう。
「セイ、戻ったのか?」
「町長、何があったの?」
孤児院に入ってきたのは、『ルーズベルク』の町長であり、ゼラゲイド王族に反発する貴族一家の息子である。
彼は、この孤児院のスポンサーを務めていることもあって、孤児たちの行く末を気にかけていた。
そんな彼がここに来たという事は…?
「あの王族が今日中に召喚を決行するらしいぞ」
「今日中!?」
「…早いね、思った以上に」
新たな報告に年長者たちはさらに驚くが、セイは冷静だった。
「おそらく、召喚実行後に税を取り立てる口実を作るのだろう。 そして近いうちに勇者を使って実力行使をするつもりらしい」
「そこまでするのか」
「王族が自分が正しいという事を誇示する為でもあるそうだ」
「でも、勇者として召喚されても魔族を滅ぼせるとは思えない」
「俺もそう思う。 だが、向こうは勝算があって実行するだろうな」
セイと町長の話を傍らで聞いてた年長者組の少女は頭を抱える。
「ティリア…」
頭を抱えた少女、ティリアの元にセイが近づく。
そして彼女の肩に手を添え、こう言った。
「俺が守るよ。 この孤児院のみんなは…俺の『家族』だから…」
家族を守るという彼の意思…。
それが後に、国への反逆へと繋がる事になる…。
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