第31話 Happy Birthday
「ダーリンお願いがあります。」
「だーりん・・・?」
しずかが両手を左頬に添えてエヘという顔をしている。
「何?何かおねだり?」
「えっ?!何故わかった?!」
「フハっ!わかるだろ、そんなポーズしたら。何だい、ハニー何か欲しい物でも?」
「は、はにー・・・」
ハニーと言ったらしずかは両手で顔を覆って照れてしまった。
「言い出しっぺが照れてどうすんだ。」
「その顔でハニーとか破壊力すごくて・・・」
「ふぅ~ん?」
「あっ!何か変な事考えたでしょ?!」
「さぁ?で?どうしたの?」
「えっと・・・新婚旅行フランスとハワイでしょ?」
「うん。」
そう、ヨーロッパとハワイとで軽く揉めてたが、三井社長がハワイの別荘を貸してくれるとの事だったので、ありがたくお借りする事にしたのだ。
「さすがにブランド物のバッグとか買いたいなって。現地だと安いし。自分でも買うけど亮さんにもちょっと買ってもらいたいなって・・・」
「良いよ。」
「へっ?」
「良いよ。」
「え、良いの?」
「うん。しずか、普段アイスと花しかねだらないし、結婚式も払うって言ってるのに半分出しただろ?旅行先で何か欲しいって言ったら買ってあげるつもりだった。」
「え~!嬉しい!!ありがとう!」
そう言うとしずかはソファに座ってた俺に勢い良く抱き着いてきた。
まぁ、普段からお金かかってないのは事実だったし、結婚式費用も『二人でするものなんだから』と譲らなかったし、新婚旅行資金そのものに問題はなかったが、あの示談金の使い道を旅行に回すつもりだったから資金は割と潤沢だ。
「買い物付き合うから俺の楽しみも付き合ってね。」
「もちろん!」
********************
「おおお~~~!!ここがリパブリック広場!しずか見て見て!ここが公開車検が行われる広場だよ!」
「う、うん。」
「あーーー!!あの建物、正にルマン開催中良く見るやつじゃないか!!」
うちの夫が見た事ないくらい興奮している。
時計と銅像が施されたクリーム色の土壁と、チャコールグレーの屋根の中央にゴシック調の恐らくカリヨン、鐘付き堂だろう物が配されているヨーロッパ特有のゴシック建築物は、私も彼の横で映像を見ていた事があったので、「ああ見た事あるな」とは思った。
でも、申し訳ないけど、あそこまで興奮する事は出来ない。
「ここ、普段は公道なんだね。」
「そうなんだよ!俺が言った事良く覚えてたね!普段公道だって知らない人も多いんだよ!」
「そ、そうなんだ。」
さっきから目をキラキラさせて少年みたい。
圧に押されて引き気味になってしまうけど、亮さんが私みたいに趣味に熱中する事が出来る人なんだと言う事を知れて少し安心した。
1年以上付き合ってきてそんな事ないともう知ってはいるけど、ドライな人なのかなと思っていたし。
リパブリック広場から歩いてすぐの所にあるレジェンドカフェと言う、まぁ私が良く行くラグビーのスポーツバーの様な、ルマン関連のアイテムが飾られているカフェに立ち寄る。
レーシングスーツはわかるんだけど、あれはボンネット?あっちはハンドル?ハマってない人にはわからない物なんだろうなぁ。
現に亮さんはここでも興奮してるし。
カフェで喉を潤したらまた広場に戻り、少し足を延ばしてサンジェルマン大聖堂へ。
事前に調べたらステンドグラスが有名らしい事を知った。
「行く必要ある?」と言う夫を説得して、来て良かった。
ゴシック調の、荘厳だけれど外観は針の様な先が尖った支柱に覆われている、いや守られている様な大聖堂の中に入った私達はあまりの美しさに息を呑んだ。
「うわー・・・きれいだな・・・」
「やっぱり写真だけでは伝わらない物ってあるんだねぇ・・・」
首が痛くなるほど天井を高く彩るステンドグラスに二人して暫く釘付けになる。
「こういう神聖な場所での結婚式も良かったかもね・・・」
「ん?やってみようか。」
「え?」
そう言うと亮さんは近くにいた牧師さん?に何やら話しかけ始めた。
話しがまとまったのか牧師さんは笑顔で「Yes!Yes!」と言っている、様に見えた。
「簡易的で良いから結婚式してくれないかって聞いたらOK!だってさ。」
「ええ?!!」
「ほら、牧師さんもあまり時間取れないから。」
困惑する私の手を引いてチャペルの前へと進む。
結婚指輪を二人で外し、牧師さんが持っていた経典の上に置いた。
事前に名前を伝えていたのか、「SHIZUKA」と呼ばれてドキっとする。
フランス語で何言ってるかわからなかったけど、牧師さんの声が止んだので「Yes」と言ってみた。
合っていたらしく、続けて「RYO」と、またフランス語でつらつらと言った後亮さんも「Yes」と応えた。
差し出された先程私達が外した指輪を受け取り、お互いの左指にはめる。
さすがに自粛してくれたのかわからないが、亮さんがした短いキスの後周りから歓声が挙がった。
「ひ、人いっぱいいた。」
「Merci、ははMeri」
私の腰を抱き亮さんは満面の笑みで観光客に手を振る。
恥ずかしさでいっぱいだったが、牧師さんに丁寧にお礼を言って大聖堂を後にした。
「もー、びっくりした!」
「フハっ俺が頼んだ時は人少なかったんだけどな。しずかがここ行こうって言ってくれて良かった。教会でも式挙げられたね。」
「う、うん・・・目的はそうじゃなかったんだけどね・・・」
単にヨーロッパの建物見たかっただけなのよ!!
亮さんの思わぬ演出にドキドキしながら、市内へ戻る途中のショッピングモールで散策と昼食を取った後、いよいよ最大の目的であるサルトサーキットへ向かう。
「・・・!!・・・!!!」
何かもう、興奮しすぎて声を発せられない様だ。
一般の人でもサーキット内を見学出来るとの事で、サーキット内に入ったら前出の通り、目をキラッキラさせてあちこちに目を奪われている。
ルマンのレースが行われていない時期であれば見学出来るなんてファンにとっては堪らないだろう。
現にうちの夫が大興奮であちこちの写真を撮っている。
「あ・・・ごめん、一人興奮して。」
はた、と素に戻り私の方へと振り返った。
「ふふ、楽しそうで何よりですよ。他は?どういう所が好きなの?」
「!!あのね!えっと・・・!」
可愛すぎか!!
こうなってくると戦隊ヒーローに会えて興奮している子供を見守る母の様な境地だ。
菩薩の様な心持でサーキット内を見学し、クッタクタになった頃ミュージアムに立ち寄った。
サーキットがコースならミュージアムはレーシングカー、と言った具合に素人の私が見てもカッコ良いと思える車がたくさん展示されていた。
歴代の優勝車なのかな~とぼんやり思っている横で夫はまたしてもスマホのカメラを連打している。
もう好きにしたら良いさ。
グッズがたくさん販売されているお土産物屋の雰囲気のお店へ入ると、彼はすぐにレーシングカーがプリントされたマグカップへ吸い寄せられる様に移動した。
暫く見つめているので買うのかと思ったら、めちゃめちゃ名残惜しい表情で手に取ったマグカップを元の場所に置いた。
「買わないの?」
「いや、家の雰囲気に合わないだろ・・・」
なんて言うから、
「そんなの気にしなくて良いよ。またここに来られるかわからないんだから買ったら?」
と後押しすると、
「え、買って良いの?まじで?」
なんて少年みたいに言うから笑ってしまった。
やだ、もう!!何この可愛い人は!!
「いっぱい歩いて疲れたね。」
「今日1日めちゃくちゃ楽しかった・・・」
ルマン市内とサルトサーキット、ミュージアムで1日が終わってしまった。
想定はしていた予定だけれども、ホテルのレストランの時間ギリギリに戻ってきてすごく焦った。
私の焦りをよそに彼は満足感に溢れた表情一貫で、今も余韻に浸っている。
「あ、急にすっげー眠くなってきた。」
「えっ。」
大聖堂での簡易結婚式はあったけど、それ以外は放っておかれたも同然だった。
食事を終え部屋に戻る途中で、また「初夜だよ」とかふざけて言ってくるかと思ったのに。
ベッドに腰かけると、まさかの「俺眠い」宣言をされた。
いや、別に毎日しなくたって良いんだけど、新婚旅行の初日くらい、し、しても良くない?
何て、不満が顔に出てたらしく。
「フハっ!何て顔してるんだ、ハニー。」
「は、はにー!!」
急なハニー攻撃にたじろぐとベッドに腰かけていた亮さんは立ちっぱなしの私を優しく抱きしめた。
「俺のわがまま聞いてくれてありがとう。」
「ええっ?そんな、わがままだなんて思ってないよ。」
「大丈夫だよ。これからいっぱいお礼するから。」
「お礼・・・?はっ!せ、セクハラ!!」
「フハっ!何でだよ!」
まだ文句を言いたい私の口を塞ぐ彼に応えるべく、私もゆっくりと目を閉じた。
********************
「カタヤマさ~~~ん!ようこそ、Hawaiiへ。」
ルマン市を楽しんだ翌日からはパリ市内で美術館巡りと大聖堂巡り、そしてショッピングを楽しんだ。
ショッピング中にふらっと入ったオペラもすごく良かった。日本じゃオペラ行こうなんて思わなかったし。
あと、移動遊園地!!
美術館巡りの途中で遊園地発見した時は嬉しかったなぁ。
学生の卒業旅行で乗った時と同じく、窓の無い観覧車に乗った亮さんがびびりまくってて面白かった。
高い所が苦手ではなかったはずな彼の新しい一面が見れて大満足なフランスでの旅行を終え、ハワイへ到着した。
空港まで迎えに来てくれた三井のおっちゃん所有のお家を管理している超良い笑顔のスティーブンさんが運転してくれる車で、高級住宅街のカハラ地区へ向かっている。
海が一望出来る良い立地で、宿泊や撮影で貸したりしているそうだ。
おっちゃんが私達の利用予定を伝えたすぐ後に問い合わせが入ったので少し遅れれば泊まれなかったそうだ。
「Luckyね!!」
と真っ黒な肌に白い歯で豪快に笑うスティーブンさんはいかにもハワイのロコ、現地人!!と言った風貌をしていた。
「いや~・・・すごい家だね・・・」
「本当だな・・・・・」
「デスよね~ハワイの中でモ良い家だと思いますよ~」
高級住宅地の名の通り、大きくて立派なお家を見て唖然としてしまった。
良くここ貸そうと思ってくれたな、おっちゃん。
それだけ私達を信用してくれての事だろうと、自分で納得させていると、
「正太郎さん夫妻モネ~年に何度か来ますヨ。」
とスティーブンさんが教えてくれた。
「わっ!プール!」
「お~さすがの高級住宅街仕様だな~」
「プールの横にバーがアリますけど、おいてあるお酒飲んだら教えてネ~」
家の中を案内されてすぐにプールがある事に驚いたけど、バーまで設置されてるなんて・・・
「ハ~~イ、これこの家のKeyね。わからない事あったらワタシにデンワして。Well・・・車、借りるデスよね?そこまで送りマショウ。」
「助かります!」
そう、カハラは良い場所だけど、住宅街なので車無しだと辛い。
バスはあるけど、何度も訪れている私としてはあの便利なトロッコを利用出来ないのは辛い。
一応カハラも通るけど何本も無いし、借りるのはありがたいけど、「移動手段辛いよ」と事前に伝えていたらあっさり「車レンタルするから大丈夫だよ」の答えが返ってきた。
三井のおっちゃんにも言われていたらしく、それならと国際免許の手配をし、私の知らない間に取得していた。
右車線も運転出来るなんて・・・!(カッコ良い!!)
「最後の日にまた会いマショね~Have fun!!」
家の鍵を返す時に空港まで送ってくれると言うスティーブンさんと別れ、私達はお互いを見合った。
「さて、奥さんどうする?買い物行く?」
「家で飲むお水とかお酒とか・・・簡単な食べ物とか買いに行こ!」
「あ~まずそっちか。今日の夕飯は外行こうか?」
「うん!!」
頼もしい夫の言葉に応え、意気揚々と借りたばかりの真っ赤なオープンカーのマスタングのドアを開けた。
********************
「プールサイドのライティングってエロいね。」
「そうだね・・・」
プールサイドに腰かけたしずかのすぐ横で肘を付き、しずかを見上げる。
昨日は寒くて海に入れなかったが、今日は暖かくワイキキのビーチでも海に入っている人を多数見かけた。
さすがに海だと寒くなった時すぐに退散出来ないから家のプールに入ろうか、とサンセット辺りから入っているのだが・・・
「何か緊張してる?」
「緊張って言うかドキドキしてる。」
「何で?」
「何でってこのシチュエーションに。」
ふむ、まぁ確かにムード満点ではある。
プールエリアの脇にはライトがセッティングされていて、夜も入る事を想定している事が窺いしれた。
撮影でも利用される事を想定して設計したんだろうなぁ。抜け目ないな社長は、と感心している俺とは正反対にしずかが恥じらいでいる。
昨日もしっかりシたんだけどな~
相変わらずしずかは慣れないなぁ。まぁ、そこが良い所でもあるんだけど。
「海外ドラマみたい。」
「あ~確かに。」
ドラマみたいと言うしずかの両手を引っ張りプールへ強引に引き入れた。
バシャン!!大きく水飛沫が上がる。
「きゃぁ!!っプ!もー何・・・?」
浮力を利用してしずかを高く抱き上げた。
季節的に入れるかわからないけど、としずかは自分で3着の水着を用意していた。
因みに俺所有のマイクロビキニは禁止だと言っていたが、俺への配慮?かセクシー目な水着を着てくれている。
まぁ布面積は普通なんだけど、何かこうお腹の辺りとか胸の上で余分な布がクロスしているのって結構良いな。(バカか俺は・・・)
「水着似合ってるよ。」
「あ、りがとう・・・」
真剣なまなざしを向けたままゆっくりとしずかを下ろす。
俺のこの後の行動を察してか、しずかはゆっくりと目を閉じた。
ハワイ観光もっと載せたかった・・・
ページの都合で断念無念。
次話も来週投稿です。少しお待ち下さい。(*´Д`)ペコリ
お察しの方いるかもですが、次話・・・です!!




