第15話 「結婚して下さい」
「おじゃまします・・・」
「いらっしゃい!初めまして、夫の片山亮です。」
「ど、どうも初めまして・・・岩谷さくらです・・・」
ドレス制作の採寸の為に自宅へやって来た友人のさくらの様子がおかしい。
駅に迎えに行ってここへ来るまでの間元気だったのに。
「何、どうしたの?」
「光属性が強すぎて私みたいな闇属性には相反すると言うか・・・」
「光属性?」
亮さんがきょとんとしてる。
亮さんあまりゲームしないからなぁ。
「イケメンですね、って意味だよ。」
「本当に?!」
私が適当な事を言ったら疑われてしまった。
確かににこやかに応対するイケメンだけど、亮さん光属性じゃないよ。
「いや、ちゃんとするわ。社会人だし。」
「そうして。」
気を取り直してしゃんとする友人に呆れて笑ってしまった。
「今日チビちゃん達は?」
「え、連れて来ないよ。面倒くさい。」
「何だ~残念。」
チビちゃん達、と言うのはアメショとマンチカンの猫ズだ。
かなり年上の彼と数年前に結婚したさくらは、『子供はもうけない』を選択した。
二人とも子供が特に好きなわけでもなく、お互いの仕事や趣味を考え、夫婦だけの生活を送る事に決めたと言う。
きっと、当時周りから『子供は?』と聞かれただろうに、それを選択した二人は潔くてかっこいいなと思ったものだ。
元々旦那さんがアメショを飼っていたが、結婚してから1匹だと寂しいかもとマンチカンの子を迎え入れた。
何度か遊びに行った事があるが、マジ天使なのでずっと居座って、「帰れ」とさくらに言われるくらい可愛い。
外で会う時たまに連れてきてくれてたんだけどなぁ。
「早速測っちゃおうか。」
「うん。」
「お願いしますね~」
玄関で挨拶をして、すぐ近くの私の部屋へ案内すると何故か亮さんも入ってきてソファにドカっと座った。
二人で彼を凝視する。
「え?」
「何で亮さんもいるのよ。」
「採寸するので男性は外して下さい。」
「え?俺、夫・・・」
「「関係ない。」」
女性二人にバッサリ切られて、しょぼくれた背中で部屋を出ていった。
「しずかの事すげー好きそうな旦那じゃん。」
「ありがたい事にそうみたい。」
彼が部屋を出て行った後、さくらが彼をそう評価した。
その評価は多分正しい。
逆に私もなんだけど・・・照れ
「ふーん・・・だからこんなエロい体になった訳?」
むぎゅ、と正面から胸を鷲掴みにされた。
通常の採寸はキャミソール等を着用して行うが、今回はドレスを想定しているので私は下着姿だ。
無防備な所にこいつは・・・!
「こらー!ちょっ・・・!揉むな!」
「おっぱい成長しすぎでしょ。まだ成長期終わってないの?」
「終わってるに決まってるでしょ!」
「ウエスト細くなったから余計にエロく見えるんだろうね。いやー、ほんと旦那さんしずか捕まえられて良かったじゃん。」
「私も亮さんと結婚出来て良かったと思ってるんだけど・・・」
「うん。改めておめでとう。」
「ありがとう・・・・ハクション!!」
「っと、ごめん、半裸じゃ風邪ひくね。」
「半裸って言うな・・・」
ふざけていたけど、さすがプロ。
手際よく各所を測っていって、数分で終わった。
バストを測った時、驚愕の表情のあと爆笑したのが解せない・・・
「あれ?もう終わったの?」
「うん。」
「さくらさん、お昼まだだよね?良かったら食べていって?」
「お!やった~!じゃぁありがたく。」
「今作るからさ、先にカフェラテでも飲んでて。あ、コーヒーが良いかな?」
「カフェラテでお願いします。」
「私も~」
「はいはい。」
亮さんが苦笑いで二人分のカフェラテを淹れてくれた。
「へ~手際良い。料理上手ですね。」
「一人暮らしが長かったからね~あ、和食はしずかには負けるけど。」
「しずかが、結婚出来て良かったって言うのも納得。」
「え?」
「何でもない!!」
さっき話した事を滑らせるから慌てて制止してしまった。別に隠す事ではないんだけど。
何か照れるから・・・
「じゃ、仮縫い出来そうなタイミングで教えて~短時間なら調整出来るから。」
「ありがと~うん、連絡するね。」
「ほんじゃね~あ、ごちそうさまでした~」
「いえいえ。またね。」
寄り道するから玄関で良いと言うさくらを見送ると、扉が閉まった瞬間亮さんに腰をガシっと掴まれた。
「え、何?」
笑ってるけど、笑ってない。
「さくらさんに胸揉まれてたでしょ?どっち?両方?」
「は?え?聞いてたの?ドア閉まってたのに。」
「飲み物いる?って聞こうとドアの前に立ったら会話聞こえただけ。まぁ、確かにしずかを嫁に出来て俺は幸せだけど、嫁の胸を他人に触らせたくないのよ。」
「女子だよ?!しかも学生の時からの友人だよ!」
「ダメ。しずかは俺のものなの。」
ほら!!全然光属性なんかじゃないって!!
********************
『婚約指輪が出来上がりました』
鎌倉のジュエリーショップから連絡があった。
出来上がったら俺宛てに連絡が来る様にしていたので、しずかはまだ知らない。
しずかに内緒でやりたい事がある。
俺の誕生日と、さくらさんが家に来た時、ちょっとしずか怒らせちゃったから余計に喜ばせたい。
誕生日の翌日なんか、丸一日口聞いてくれなかったもんな・・・
しずかには兄の所へ行って来ると言って、急いで車を走らせた。
危うく着いて来そうだったけど・・・
いつも二人で過ごしているから一人になる理由って難しいな。
「おお・・・素晴らしいですね。ありがとうございます。」
形は王道のソリティアと呼ばれる、中央にダイヤモンドが配置されたシンプルなデザインだ。
プラチナのリングの中央のダイヤは一見花の様だが、良く見るとスクエアに見えなくもない。
しずかが今着けているリングとも違和感なく合わせられるだろう。
婚約指輪を優先したので結婚指輪はあと2~3週間先になるそうだ。
全然構わない。
その時は二人で取りに来ようと、少し先の未来に胸が高まった。
「お気に召して頂けて良かったです。」
「彼女もきっと気に入ります。」
専用の箱に入った指輪を眺めていると、何故かばつが悪そうな店主が口を開いた。
「・・・あの、お会いした際失礼な事を言って申し訳ありませんでした。」
「え?」
失礼な事?何かあったっけ?
「婚約指輪なのに奥様の希望を無視されているのでは、と勘繰ってしまいました。」
「あ、何でダイヤなのか?ってやつですか?」
「はい。」
「気にしないで下さい。私も忘れてましたし。」
少し恥ずかしかったけど、その理由にしずかは感動してたし、何の問題も無い。
でも、そうだな。
「あの、お詫びってわけでもないんですけど、この辺りに女性が好きそうな花屋知ってたら教えて頂けませんか?」
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鎌倉からの帰り道、助手席の二つの荷物を視界に入れて時々ニヤニヤしていた。
(しずかきっと喜んでくれるだろうなぁ)
「ただいま!」
リビングからパタパタと足音が聞こえてくる。
ぴょこっとドアから顔を覗かせ、
「お帰りなさい。」
とほほ笑んだ。その笑顔に安心する。
「はい。」
「ん?わあ!!」
後ろ手で隠していた、鎌倉のジュエリーショップのオーナーに教えてもらった花屋でオーダーした花束をしずかに渡すと、途端にキラキラの笑顔になった。
「良い香りすると思ったんだ~!ピンクのお花いっぱいだね。しかも色んな濃さのピンクのお花って・・・ん?」
花束から俺の方へと向き直したらいつもの視界の範囲に俺がいなかったものだからキラキラの笑顔が一瞬消える。
「え?」
片膝を付き、小さな箱を開けてしずかへ向けた。
「結婚して下さい。」
「えええ~・・・」
戸惑うしずかの目が潤む。
よし!成功した!!
「もう入籍してるのにぃ~・・・」
泣き笑いしているが、しっかりと婚約指輪を受け取った。
「返事は?」
「もちろん・・・はい!!」
片膝の俺の首筋に抱き着いてきたしずかを愛おしく強く抱きしめた。
・・・この後めちゃめちゃイチャイチャした。
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超短編なので即読める!
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全っ然違う作風になって、思いついた時自分でもびっくりしました( *´艸`)




