第3話 家族(仮)会議
前の話し、訂正する予定だったのに、日程勘違いしていて訂正前に更新してしまいました。大した影響は無いのですが、もしお時間あったら後半読み直して頂けたらと思います。
母と息子の会話の部分です。
「亮さん、そしたらうちの両親に紹介したい人がいるって、もう伝えちゃって良い?」
温泉の帰り道、車中で挨拶の件を確認した。
「あれ?言ってなかったの?」
「うん・・・どうなるかわからなかったから・・・」
紹介したい人がいるって伝えて、挨拶がずっと保留になったら、もし別れたら、と思うと父や母には何も伝えられなかった。
家族で行ったお寿司の食事以来、兄にも会っていない。「どうなってる?」なんて問い詰められたくなかったからずっと黙っていたままだった。
「そっか・・・その件でも不安にさせちゃったよな、ほんとごめん・・・」
「ううん。もう平気!」
『お付き合いしてます』の紹介から、『結婚します』の紹介になったんだもん。
あの不安な期間は無駄じゃなかったんだ、と今では心底安心出来る。
「土日で聞くね。」
「うん、お願いします。仕事が入る事は多分無いからそちらの予定にある程度は合わせられると思う。」
「わかった。帰ったら予定聞いて連絡する。で、両親に会う前にさ・・・」
「うん?」
プロポーズは受ける。彼と結婚する。これは私の中で揺るぎない。
でも不安な事が一つある。それを結婚する前に確認したい。
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「ただいま~・・・っと。」
「お邪魔します。」
ガチャリと鍵を開け、先に家に入った彼が振り向き、ジトっとした眼差しを私に向けた。
「え?何?」
「お邪魔しますのままか~って。」
そりゃそうだろう。この家は私が住んでる家ではないのだから。
「それも今日話そう?」
「そうだね。」
私の様に少しだけ口を尖らせた彼が一気に笑顔になり、さりげなく頬にキスをしてきた。
二人きりになるとすぐキスをしてくるのが、恥ずかしかったり、嬉しかったり・・・
キスする直前の顔の色っぽさには、何度キスしても慣れない。
プロポーズを正式に受けるにあたって、両親への挨拶の前に今後を話し合おうねと、彼と話していた。
今日は外で買ったお惣菜を亮さんの家で食べる。私も彼の家にそのまま泊まる。
話し合いに時間を取る為だ。
「お酒飲む?」と聞かれたが、まともな思考能力が欠如したら困る、と言って断ったら真面目か、と笑われた。
お酒飲むと楽しくなっちゃう傾向にあるので、少量でも今日は飲まない。彼にも今日は我慢してもらった。
「では始めましょう。あの・・・亮さん結婚する前に確認しておきたい事が二つありまして。」
「おお、早速。何でしょう?」
食事を終え、ダイニングテーブルで彼が淹れてくれたカフェラテを一口飲んで口を開いた。
これは絶対確認しておかなきゃならない。
手元にセッティング済の手帳とペンを軽く握りしめた。
「・・・亮さん絶対子供欲しい?」
「え?!あ、そっか。そうだよね。う~ん・・・」
腕を組み、唸る内に段々彼の顔がニヤけてきた。
「え、何でその顔に?」
「子供って事は子作りするんだよな~って。」
ああ、そっちを想像しちゃったのね。
エヘヘと頭を掻く彼の様子から『子供』の実感は湧いていない様に見えた。
まぁ、仕方ないか。つい最近結婚しよう、って決まったんだし。
「その感じだと絶対欲しいとかじゃなさそうだね。」
「え?そうなのかな?まだ入籍もしてないし、実感が湧かなくて・・・」
別の事を想像して照れ笑いをしている。
実感は湧かなくても良いけど、一緒に考えてもらわなくちゃ困る。
「私達・・・と言うか特に私なんだけど、子供が望めない可能性もあります。」
「えっ?!」
「避妊無しでしたからって必ず子供が出来る訳じゃないのはわかるよね?」
「う、うん。それはもちろん。」
エロい想像していただろう彼が一気に真剣な顔になる。
良かった。現実に戻ってくれた。
「細胞が若々しい10代だと妊娠の確立高いんだけど、年齢と共に子宮も精子も年を取っていくので、年々子供が難しくなるの。」
「そ、そうなんだ。」
「だから、絶対子供が欲しいってなると色々、妊活と呼ばれるものを頑張らないといけないかも、」
「しずかは?」
「え?」
「しずかこそ、子供絶対欲しいとかじゃないの?」
淡々と説明する私を遮り、机の上の拳を斜め前に座っている彼の両手が優しく包んできた。
「・・・・・わからないの。」
「え?」
「わからないんだ、ごめんね。」
「謝る必要なんてないよ。俺だってまだ実感湧かないんだし。」
「ありがとう・・・」
『子供が絶対欲しい』、と言われたらどうしようと思っていた。
これが理由で『やっぱりしずかとは結婚しない』なんて言われたら、と不安だった。
養子や里親の手段もあるけど、子供が出来ないかもの理由で彼との結婚を諦めたくなかった。
「俺はしばらくしずかと二人きりでいたいってのが本音なんだよな~。」
「うん。」
ふう、と空を見つめて溜息をもらす彼を見つめる。
「子供出来たらしずかの意識そっちに全部行っちゃうかな~って。」
「ふふっ!自分の子供に焼きもち?」
ガタン、と彼が椅子を引き、拳を包んでいた両手が私の肩を包んだ。
「子供は追々で良いよ・・・しずかが欲しいって思ってからでも。」
「それじゃ遅いんだって。」
こめかみに柔らかい感触を感じたが、彼のおでこに手を当て遠ざけた。
「あれ?甘い空気になると思ったのに」と彼が残念そうに言うので少し笑ってしまった。
「さっきも言ったけど、年齢重ねるごとに子供出来る確率減っていくから子供欲しいってなってからじゃ遅いかもしれないんだよね。」
「う、うん・・・」
仕方なく自分の椅子に戻りきちんと座る彼を見てまた少し笑ってしまう。
「漠然と欲しいなっていうのはあるんだけど、亮さん逆に絶対子供必要ない、って事はない?」
「それはない。子供出来たら子供ごと愛すよ。」
真剣な表情で私に向かって言ってくれた言葉が嬉しかった。
でも彼は照れてしまったのか顔が赤くなってきてしまった。
「うん、嬉しいよ。亮さんの気持ち。そしたらですね、私も欲しくない、ではないので、子作りはするって事で、」
「え!じゃあ、」
「ストップ!まだ早いから。」
先程の子作りの妄想を素早くした彼に手の平で制止する。
「ん?」
「少なくとも、新婚旅行の直前かな?避妊解禁は。」
「何で?」
納得いかない顔しないで。私のクセが移っちゃったのかな。
「未知なのでどうなるかわからないけど、つわりで辛い新婚旅行とか嫌です。」
「あ、そうか。て事は・・・」
「そう、新婚旅行いつにするかの設定も必要。」
「いや、その前に結婚式だろ。」
ちょっと呆れて彼が笑う。
結婚式か~避けられない話題だよなぁ。
「ううーん、したくない、だと嘘になるけど・・・するなら親族だけでお願いしたい。」
「友達とか呼ばないの?」
「呼ぶとしたら本当に親しい2~3人で充分です。私日本の披露宴の慣習とか苦手で・・・」
何で良く知らない知人 (特に亮さん側)に馴れ初めとかモニターで披露しなきゃいけないんだろうってずっと思ってた。
『結婚します』の報告はこれから付き合いが増える親族だけで充分では?!と個人的に思っている。
「確かに、会社の人間とか呼んだら仰々しくなるよなぁ。」
「結婚式にお金使うより新婚旅行にお金使いたい。」
彼も少人数での挙式を少なからず受け入れてくれている様だ。
長く会社を休める期間なんてそうそうないから新婚旅行に力入れたいよね。
逆に、招待状とか演出とか、席順とか考えるのはちょっと・・・
「ん、わかった。家族挙式の方向で考えよう。ってその前にさ、入籍しよう?で、それより前に一緒に住みたい。」
「ん?入籍はともかく、もう一緒に住むの?」
「プロポーズのとき言ったろ?もう帰りにしずかと別れ際寂しい思いするの嫌なんだよ。」
「あ、うん。わかった・・・」
さっきも『お邪魔します』に納得いってなかったもんね。
彼のストレートな想いに顔が熱くなってきた気がする。
「そしたら新居の話しもしなきゃだね。いっぱい話し合う事あるね・・・」
一人が二人になるって、色々な事が動くんだなぁ。
「あ、ごめんなんだけどさ、先に新居進めない?結婚式や新婚旅行の話しは一緒に住んでからの方が話進みそう。」
「確かに。」
外で食事しながらとか、わざわざどちらかの家に集合してだと、お互いの予定を確かめる段階からになるから一緒に住んでからの方がストレスフリーかも。
「で、さ、入籍日なんだけど。」
「うん?」
「何月かは置いておいて、25日にしたい。」
「あ・・・」
「そう、付き合ったの11月25日だったから25日にしたい。結婚式も出来れば25日目安にしたいな。」
「入籍は良いけど、結婚式25日は厳しいんじゃない?平日だといくら親族でも来れないかもでしょ?」
「だよなぁ・・・」
「ふふ。」
25日にこだわる彼を乙女だなぁと可愛く思ってしまい、彼の頭に手を伸ばした。
お風呂はこれからでまだ洗っていない髪は整髪料で硬い感触がした。
「考えてくれてありがとう。新居に引っ越して近い25日に一緒に提出しにいこう?」
「うん。」
彼の頭を撫でていた手が彼に捕まり甲にキスが落ちた。
それを受けて落ち着いたはずの頬の熱がまたぶり返してしまった。
「更新日が近いからさ・・・怒られるかもだけど。」
「怒らないよ。期限は?」
同棲しよう、と言われてから2週間以上保留になっていたが、まだ退去まで期限は残っている筈だ。
「この部屋退去するってすぐに言えばまだ2ヶ月くらい余裕あるかな。」
「あ、じゃぁ探せるね。新学期シーズン過ぎてるから引っ越し代安く済みそう。」
「俺それ狙って安い時期に引っ越しした。」
「私もだよ~!私は更新1年先だから余裕あるけど。そしたら次は新居の話しだね。」
両親の挨拶に新居探しに入籍・・・忙しくなりそう。
だけど不思議とワクワク感しかない。この先の事を考えると顔がニヤついてしまう。彼の事は言えないかも。ふふっ。
「ここじゃ手狭だからな~広めの1LDKか・・・」
「あ、ごめん、私自分の部屋欲しい。」
部屋を見渡す彼の希望を申し訳ないがぶった切る。
「え?!」
「ミシンとか置きたいし。」
「あ、そうか・・・寝るの別とか言わないよね?」
「基本は一緒に寝ようよ。」
「き、基本?」
常に一緒に寝ないかも、の可能性に気付いて焦る彼を見て少しからかいたくなった。
「喧嘩する事あると思うな~」
「いや、喧嘩した時こそ一緒に寝るべきだ!」
「はいはい。2DKからでお願いします。あとは追々話そう?」
「おっけー!」
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話し合いで結構遅くなってしまったのに、お風呂から出て来た彼は超ご機嫌だった。
次の日は仕事なので、言いくるめて手加減してもらうのがやっとだった。
支度をしている今も上機嫌だ。
「じゃ、先行くね。」
彼の方が定時が早いので先に家を出る。一緒に出てカフェでゆっくりするのもアリだったが、「せっかく合鍵あげたのに」と彼がむくれたので、時間差で家を出る事にした。
カフェラテを淹れてくれたのでリビングでまったりさせてもらおうかと思っている。
「行ってらっしゃい。お仕事頑張ってね。」
「・・・・・も1回言って?」
「ん?行ってらっしゃい。」
「行って来ます・・・!」
「んっ!!」
頭をしっかり掴まれて強めのキスをされた。
我に返る頃には玄関の扉は閉まっていた。
「もー・・・・・」
頬に手を当て熱を取る。
ソファで少しまったりさせてもらおうとスマホを手に取り、ラグビー関連のツイートを見て思い出す。
「あ!ワールドカップの事言うの忘れてた!!」




