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二人で幸せになるために  作者: 新浜ナナ
第一章
54/88

第54話 二人で幸せになるために

『亮さん・・・』

「うん?」

『金曜の夜泊まりに行っても良い?』 

「うん!もちろんだよ!嬉しいよ、しずかがそう言ってくれて。」

 お見合いを断った話しの後、素面の筈のしずかが甘えた声で言ってきた。土日会えなかったので異論なんかある筈も無い。


『日曜日はね、おばあちゃんのお見舞い行くから、その前に亮さんに会いたくて・・・』

「!!うん、うん!でも平日も会おう?あ、明日は?」

『大丈夫。』

「じゃぁいつも通りの時間にいつもの場所でだね。お店はその時決めよう?」

『うん。亮さん・・・大好き。』

「ほわっ?!!」

 電話口のしずかの甘えた事と甘い言葉に動揺していたらすぐ切られてしまった。




 お見合いの話し、笑って聞いてくれたけど、不安にさせちゃったよなぁ。

 今日の夜会ったら、今度こそしずかに『俺も結婚するならしずかしかいないんだ』と伝えたい。

 いや、伝える!!






 ・・・・・フラグか?

 今度こそ、と思ったからダメだったのか?


 連日で残業とは・・・

 絶対副社長の差し金だろう?




「イベントの日程が変更されたって話し、こちらに伝えていなかっただけで変更なんて嘘だって思っちゃダメですよね?」

 菅原が呆れながらも荒々しくキーボードを叩く。



「あー思って良いぞ。」

 俺も嫌がらせだと思っている。

 イベントは日曜だ。土曜までに完遂する必要があるのと、来週には社長への新規事業プレゼンがある。

 そちらも同時にやるには、今週ずっと残業コースになるだろう。



 あー・・・しずかが泊まりに来るのも無理かもなぁ。

 そして来週の平日デートも無理そうだ。

 せめてなるべく毎日電話しよう。


 俺・・・愛想尽かされないよな?








 ********************


 部署みんなで頑張った甲斐あって、どうにかギリギリ当日の朝間に合い、イベントも成功した、と取引先から連絡があった。



 やっつけになってないか心配だったが、どうやら大丈夫だった様で安堵した。

 今週も変なオーダーが来るんじゃないかと部署内全員ビクビクしていたが、部長が掛け合ってくれたらしく、社長プレゼンの準備だけで済みそうだ。




 結局金曜も土曜もしずかには会えなかった。『体気を付けてね』と労わってくれたが電話越しの声は寂し気で胸が傷んだ。「温泉は絶対行く!」と豪語したが、『うん・・・』とかしか言わない。しずかはきっと温泉も行けないと思っている。


 母が譲ってくれた温泉旅館。信号待ち等のわずかな時間にホームページを見たらめちゃめちゃ良さそうな旅館だった。

「土日は何があっても絶対出勤しません!」と部署全員に宣言し、しずかに会えない欲求不満を仕事へぶつけていた。








「片山君。」

「はい。」

 社長プレゼンを無事乗り切りどっと疲れて会議室を出た所で呼び止められ、声の方へ振り返る。


  (えっ社長?)

 穏やかな笑顔で佇む彼は今年60歳だったろうか、白髪も多いが年齢を感じさせない程スラっとしていて、俺から見ても恰好良い方だ。


 社長がスーツをオーダーしていると聞いて、俺も作ってみようと思ったんだよな。

 男としてあんな感じに(とし)を取りたい。


 少なくとも、副社長の様なでっぷり腹には絶対ならない。



「プレゼン良かったよ。」

「ありがとうございます。」


 ニコニコしていてずっとこちらを見ているものだから、何だろうと内心訝しんでいたら、

「お見合いを断った位で君の進退には全く影響しないので気にしない様に。」

 と急に副社長の娘とのお見合い話しをし出した。


「え?!あ、いや失礼致しました。何故それを・・・」

 まさか社長の耳にまで入っているとは・・・!!


「自ら辞めたいと言われれば止める権利はないが、優秀な人材をこちらから放る事はないから安心しなさい。」

「あ、あの一体・・・」

 穏やかな笑みを浮かべた社長はそれだけ言って去ってしまって行った。




 その後・・・・関わる筈だったプロジェクトから副社長が外されていた。

 もしかしたら部長が掛け合ったのは社長だったのかもしれない。

 外されたのが俺ではなかったと言う事は、用もない部外者=娘がウロチョロしたのがまずかったんだろうなぁ。



 まぁ、とりあえずお見合いの件は一件落着したんだよな?

 あー、これで心置きなく温泉行ける。








 ********************


 今日は待ちに待った温泉デート日だ。天気も良く空が青く澄んで清々しい。

 こんな絶好な温泉日和なのに助手席にしずかはいない。




『推しの北芝のファン感謝祭だからそれは行かせて下さい!!』

 と事前にしずかに言われていた。


 ずっと会えていなかった俺よりまだラグビー取るのか!と絶句したが、午後一くらいで終わると言うし、チェックインまで時間があるので、しずかに負けず心の広い俺!を見せる為、快く「良いよ」と了承した。もちろん演出だ。



 行く前にちょっとイチャイチャしたかったんだけどなぁ。と内心でしょんぼりする。

 おっと、また心が狭くなってる。イカンイカン。




 教えてもらった北芝の会社近くのコインパーキングに車を停め、グラウンドへ向かうと騒めきが聞こえ始めた。



『運動会終わってもうすぐ選手達と写真撮ってもらうだけー』と車を停めてすぐメッセージが入っていた事に気付いたので、


『運動会なら見たかったな~。後で教えてね。俺がしずか探しにそっち行くからギリギリまで写真撮ってて良いよ。』

 と返事した。


『やった!!亮さん大好き!!♡』

 すぐさま返事が来たので、心の広い俺作戦は効いたらしい。




 運動会か~、選手と一緒にやるんだよな?何の競技にせよ、それは楽しいだろう。


 グラウンドでは子供達がワラワラと選手達の周りを囲んでいる。

 自分より何倍も体の大きな選手を見上げて、キラキラとした目でサインを求めている。


 それに応じる選手の笑顔も、男の俺から見てもすごく素敵だと思った。

 ああやって未来の日本代表が生まれるんだろうなぁ、と感心し、しずかがラグビーにはまる魅力を遅まきながら感じていた。




 いやー、しかしすごい人いっぱいいるな。しずか見当たらないんだけど、どこだー?

 太陽が眩しく、サングラスごしに人いっぱいのグラウンドを見渡す。

 ゴールポスト?付近にツヤツヤふわふわした長い髪の女性がいる。

 シルエットからもしずかだと分かった。伊達に付き合ってないからな。


 ただ、隣に男性がいる。談笑しているからしずかの知り合いなんだろう。

 年齢はかなり上だ。白髪混じりで背筋がピシッとしてい、る・・・

 待てよ・・・まさか隣にいる人って!!




 しずかがいる方へ慌てて近寄ると、すぐに俺に気付いてくれて手を振った。

「亮さん!」

 俺はサングラスを外しTシャツの胸元へかけ、笑顔のしずかの隣にいる男性に目を向けた。



「やあ。」

 ニットを肩掛けした白髪混じりの男性も着けていたサングラスを外し、俺へと笑顔を向ける。



「お知り合いでしたか・・・」

「そうだよ。」

「ん?亮さんと三井のおっちゃん知り合い?」

「しずか・・・おっちゃんてな・・・弊社の社長だよ。」

 社長くらいの年齢の方はちょうどラグビーのファン世代だ。まさかしずかと知り合いだったとは・・・



「え?!あ、そうなんだ!おっちゃんオーラあるもんね。」

「こら・・・」

 おっちゃんを連呼すると言う事はしずかとの間柄も深いんだろうがどうしても諫めてしまう。


「良いんだよ、片山君。しずかちゃんとはいつもこんな感じなんだから。」

「・・・私と彼女が付き合っているのをご存じだったのですか?」

 プレゼン後にわざわざ声を掛けられたのが腑に落ちなかったんだよな。




「前に、北芝戦に二人で来てただろう?見かけてたんだよ。仕事は出来るのに女性との良くない噂のある社員としずかちゃんが一緒で心配してたんだが、変わった様で安心したよ。」


(社長までその噂知ってたのか!)


「いや、その、はい・・・その噂は心底反省しております。」

 しずかと出会った当時の俺はクズだった。

 付き合う前のしずかにも目線でクズ言われた事もあったくらいに。




「しずかちゃんはおじさん達のアイドルだからもし悲しませたらそちらの方が進退に関わるかもなぁ。」


 冗談めいて笑っている社長を、

「えーおっちゃんやめて?私と亮さんの出世は関係ないよ。」

 としずかが口を尖らせる。


「我々の仲間内ではしずかちゃんを自分の息子の嫁に、と思ってるくらいなんだから傷つけたらきっとみんな許さないよ?」

 笑いながら言ってはいるが、冗談ではないのかもしれない。


 もー・・・と困り顔で言うしずかの腰を引き寄せる。


「大丈夫です。喧嘩は・・・正直しますし泣かせてしまう事もあるんですけど、ちゃんと話し合って乗り越えるし、何よりそれ以外で彼女を傷つける様な事なんてしないので。私・・・俺は彼女を幸せにするって決めたんです。」

 しずかの腰を強く抱きしめ、社長に一等真剣な眼差しを向けた。



「ははは。君の決意はわかったよ。だが、それは私に言う事じゃないな。じゃぁしずかちゃんまたね。」

 ヒラヒラと手を振る背中を見送り、ふうと息をつくとしずかの腰に回していた手が徐にはがされた。




「・・・駐車場どこ?」

「え?あ、こっち。」

 一瞬睨まれた気がする。声色も明らかに不機嫌だった。

 手は繋いでくれるが俺の方へ顔を向けてくれない。


 えーっと。何だこれ。



 車に乗り込みしずかの顔を見ると口が尖ってる。何か不満を感じている時の顔だ。


「しずか?」

「何?」

「怒ってるよね?」

「怒ってます。」

「あ、やっぱり・・・」

「・・・・・」

 プイ、と窓の外へ顔を向けられてしまった。このままでは温泉へ行けないだろう。


「何で怒ってるの?」

「わからないの?!」

 俺の言葉を受けて振り向いてくれたが、信じられないという程目を見開いた。


「ごめん、わからないから教えて?」

 膝の上でぎゅっと握られているしずかの手を優しく包み、反対の腕を助手席の後ろへ回した。



「・・・さっき、三井のおっちゃんに私を幸せにするって決めたって言ったけど、それプロポーズなんじゃないの?!私まだプロポーズ受けてないよ?!」

「あれ?言ってなかったっけ?」

 そう言えばー・・・

 隼人にも副社長にも似た様な事言ったから、俺の中でもうしずかに言った気になっていたかも・・・



「一言も聞いてないし、同棲の件だって、お付き合いしてるって両親の挨拶も保留のまんまなんだよ?!」

「う、そう言えばそうだった・・・」


 色々な事をぶっ飛ばしてプロポーズしたな。

 しかもしずかにじゃなくて全然関係無い社長に。



「亮さん、いっつも勝手に決めて、いっつも勝手に自己解決する!!」

 尚一層しずかが口を尖らせた。怒りでちょっと目も潤んでる。


 うん、そうだよな、きちんと俺の気持ちを伝えなきゃいけないな。



「あ~・・・あのね?嘘は良くないからとりあえず正直な気持ちを伝えるね。一緒に住んで毎日エッチしたいのは本音です。」

「なっ!」

「聞いて?」

「・・・・・」

 重ねていた手を少し強く握ると、眉を下げて俺の言葉に応えてくれた。



「それもあるんだけど、週末しか会えない、平日会っても数時間でさよならしなきゃいけないのが本当に寂しくてさ。一緒に住んだらこの寂しさは消えるだろうし、毎日一緒ならきっと幸せで楽しいだろうなぁって思ったんだよ。」

「・・・それを最初に聞きたかった・・・」

「え?」

「部屋の更新のついでみたいに言われて嬉しくなると思う?」

「!!た、確かに・・・」

 両親への挨拶を飛ばしたのと更新のついでみたいに言ったのが不満だったのか・・・

 俺は本当、自分勝手だなぁ。



「・・・俺はセクハラが過ぎるし、少なからずしずかを怒らせて小さな喧嘩はするだろうけど、それすらも愛おしいんだよ。一緒に住もうって言ったのはしずかが大好きで、しずかとずっと一緒にいたいからだよ。」

「・・・何で同棲って選択だったの?」

 努めて穏やかに伝えるとしずかも少し落ち着きを戻した。


「え、いや~・・・しずかを幸せに出来るか自信なくて・・・泣かせる事も多いしさ。」

「それだけ?」

「そうだよ。」


「私は亮さんに幸せにしてもらいたいんじゃなくて、二人で一緒に幸せになりたいの。」

「うん・・・しずかはそういう女性だったね。主体性があって、自立してて、でも時々甘えん坊の泣き虫で。」

「・・・・・」

 助手席の後ろに回していた手をしずかの頬へと触れる。



「あの時は結婚って言えなくて本当にごめん。でも俺もうしずか以外考えられないんだ。」

「・・・・・」

「二人で幸せになろう?結婚して下さい。」

「はい・・・」

 しずかの目に涙がいっぱい溜まっていたが、表情はとても穏やかだった。

 顔を近づけ、唇に触れた瞬間、しずかの涙が二人の口に伝った。




 駐車場で多少の視線を感じたが、しばらくキスをしていた。

 俺も少しだけもらい泣きしてしまった。

 二人とも目を真っ赤にしていたが落ち着いた所で、温泉旅館へ向かうべく車を走らせた。






 海岸沿いの海は今日もきらめいている。と、どこからか舞ってきた桜の花びらが開いていた窓から滑り込んで来た。

 こちらは散り始めているが、これから向かう箱根はきっとまだ咲き誇っているだろう。



 後数か月で二人が出会った季節がやってくる。

 あの頃はしずかと付き合うなんて思いもよらなかった。二人を巡り合わせてくれた神様でも何でも良い。ただただ、ありがとう!!と伝えたい。




「本当はベタに片膝付いて指輪パカってやりたかったんだけど、用意出来て無くて。何もない状態のプロポーズでごめん。」

「別に指輪なくたって嬉しかったよ。でも・・・」

「うん?」


「亮さんてやっぱり私より女子っぽい。」

「またそれ言ったな!!」

「っふ!あは!!ちょっ・・・と!運転中くすぐるのダメって言った!!」


「旅館着いたら容赦しないからな。」

「そ、それはくすぐりの事だよね?」

「くすぐりだけ済むわけないのわかってるだろ?いーっぱいかわいがってあげるからね。」

「そんな優しく言われても・・・」

「フフフ・・・楽しみだなぁ。」


 しずかは顔を真っ赤にしてる。

 付き合って数ヶ月で何度抱いたかわからないのに、相変わらず初々しい反応をするなぁ。




 ほんと、幸せにするよ、あ一緒に。だったか。

 二人で幸せになろうな。






 Fin


お、お、終わりました!!

ここまで読んで下さってありがとうございます!!本当に感謝です!!

終わりましたよ!!恋人編が!


え?

恋人編です(・∀・)


え?

ええ、恋人編が終わったんです・・・


作者、もう少し構想があってそこまでは書きたいと思っているのですが、ここで終わらせて新規に投稿するか、章を変えてリスタートするか迷っています。


読者さん50話超えのお話読むの大変かなー?と思いまして。

でも、また同じ主人公で4作品目作るのもなぁ、と。恋人編程長くはならないので余計に。


なので、数週間プロット作りながらどうするか考えます!

せっかくラグビーの話し盛り込んでるからワールドカップも入れたいですし!


活動報告でどうするかお知らせしますが、ブクマすると更新通知が出るのでぜひブクマお願いします!

ここまでの感想や評価、レビューも頂けると大変嬉しいです。(←初めてのおねだり)


ひとまずありがとうございました!!またすぐお会いしましょう!!


新浜ナナ



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