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二人で幸せになるために  作者: 新浜ナナ
第一章
51/88

第51話 大猩々と狸の浅知恵

ブクマありがとうございます!!(*´▽`*)♡

 野太い声と体がぶつかる衝突音があちこちで聞こえる。

 風が揺れると芝の匂いを運び、薄付きの桜の木を揺らす。




 都内の桜はついこの前開花を告げた。

 見頃はまさに今のはずだが、ここライコーのグラウンドの桜はまだ2、3分咲きと言ったくらいだろうか。


 陽の当たる度合いによっても桜は咲き方が違うよな、と思う。

 生物学的?にそうなのか真相は知らないけど。


 もう少し先の日程でのオープン戦=練習試合だったら桜が舞って綺麗だったろうなぁと、2mも無い程間近で激しい体当たりをする選手達をよそにぼんやり考えていた。






 出張から帰ってきた彼は忙しさでハイになっていたのか、両親への挨拶をぶっ飛ばしていきなり『同棲』とか言い出した。



(両親に挨拶行くって話どうなったのよ・・・)

 と思った事をその場で話すべきだった。


 でもまたいつものエロを妄想しているみたいだったので自分で考えて欲しくて言うのを止めた。




(更新のついでみたいに同棲とか言われても嬉しくないんだから)

 膝を抱え項垂れかけたが今はまだ試合中だ。

 傍から見たら何にしに来たんだ!となるので慌てて顔だけ上げる。



「はぁ・・・」

 溜息を付いたら、一瞬だった筈なのに項垂れた状態をやっぱり見られていたのか、遠目で選手がこちらを見ている事に気付いた。

 スミマセン!ちゃんと試合観ます!!






「しずかさん!」

「藤本さん、こんにちは~。」

 試合が終わり、選手に写真を撮ってもらおうとウロチョロしてたら藤本さんに声を掛けられた。

 年末ぶりかもしれない。



「この後みんなでメシ行くけど、良かったらしずかさんも行きません?」

「・・・何人くらいですか?」

「4~5人?」

「じゃぁ行きます。」

 選手達と一緒に食事なんてめちゃめちゃ嬉しい。正直行きたい。でも藤本さんと二人は危険過ぎる。

 4~5人いるって事なら大丈夫だろう。


 午前中の試合だったし、ライコーのグラウンドから家がやや遠い私は朝食からかなり時間が空いている。

 (みどり)ちゃんはいないし、一人ランチは寂しいし、お腹もすごいすいてるし、碌に考えず了承した。



「あ、奥様も一緒ですよね?」

 オープン戦はご家族も来ている事がほとんどだ。ベビーカーを何台も見かけているし、あの中のどれかが奥さんなんだと思う。


「ああ、奥さんは今日実家行っちゃっててさ~、寂しくて。」

 ニカっと笑うと黒い肌に白い歯がはっきり見える。まるで海外の歯磨き粉のCMみたいだ。


 若干嫌な予感するけどまだ昼だし、大丈夫だろう。他に人もいるし。


「4~5人って言って、藤本さんと私だけだったら帰りますよ?」

「用心深いな~大丈夫だって。」

 まぁ、一応釘を打ったし、尚安全だろう。








「しずかさんの彼氏ってどんな人?」

 大きな口を開けてハンバーガーをむさぼる藤本さんが野次馬心を出してきた。

 年末彼氏いるって言ったの覚えてたか。本当にいるのか確認だったりして・・・



「時間の大切さを知っていて、とても優しい人です。」

「時間?ふーん。」

 あまりピンと来ていない様だ。

 選手なら時間厳守が良くわかると思うんだけどな。


 いくら亮さんがイケメンでいつも奢ってくれる人だとしても時間にルーズだったら付き合っていなかったと思う。



「見た目はどうなんです?」

 藤本さんの後輩選手、古賀選手がさらに突っ込んでくる。


 言った通り選手3人と私だったので、安心して駅前のおしゃれハンバーガー店の食事に付いてきた。

 若干人数少ないな、とは思ったけど。私入れて4人かよ!ってちょっと思った・・・



「恰好良い人だと思います。」

 年下の選手だけど、そこまで親しくないので敬語で話す。社会人として基本だ。



「写真見せて下さいよ。」

 もう一人の後輩選手、岸谷選手も煽る。

 藤本さん含め、全員ロック、と言う2m前後の高身長の人がするポジションの人達なのでテーブルに座っていてもかなり大きく、威圧感がすごい。

 実際、ラグビー選手と知らないであろう他のお客さんが彼らを一瞬ギョっとした表情で二度見した。



 因みに、藤本さんがまた隣に座って太ももをくっつけられて来ても困るので、しれっと古賀選手の隣に座った。




「うーん・・・あまりなくて・・・」

 と手掴みしたポテトで油ぽくなっていた手をナプキンでふき取り、スマホのロックを開ける。



 クリスマスの写真しかないな・・・

 亮さんはいつも勝手に私を撮るから彼のスマホには私の写真がいっぱいあるけど。


 あ、筋トレしてる時ふざけて写真撮らせてもらったのがあるな。とスクロールして上半身裸の彼を見つけた。

 でも彼らと亮さんの筋肉比べられても嫌だなぁ。



「おー・・・良い胸筋ですね。」

 悶々と悩んで画面を睨んでいたら待てなかったのか、隣に座っていた古賀選手が私のスマホを覗き込み亮さんの筋肉を褒めた。


「ほんと?選手にそう言って貰えると彼、きっと喜びます。」

「あと、ラブラブなのがわかります、イテっ!!」

「ん?」

「あ、何でもないですよ。」


 筋トレを終えてTシャツを脱ぐ瞬間が色っぽいな、といつも思ってたので、タイミングを見計らって連写していたら、照れてスマホを取り上げようとする満面の笑みの亮さんの画面を自分でも見つめる。


 確かにこの顔を他の女性に向けられるのは嫌だなぁ。



「俺も見たい・・・おお!めっちゃイケメンじゃないですか、イタっ!」

 斜め前に座っていた岸谷選手の方に画面を見せると即座にイケメンと言ってくれた。けど・・・


「え?二人とも大丈夫ですか?」

「「あはは、大丈夫ですー」」

 画面に見とれてナイフでも触っちゃったかな?


「どれどれ・・・イケメンだな・・・・」

 静観してた藤本さんも私のスマホの画面を覗いて悔しそうに舌打ちした。



 うん、申し訳ないけど藤本さんはイケメンじゃないんだよね。

 全体的な雰囲気で充分格好良いとは思うけど。顔は結構ごついよなぁ。ゴリラっぽい・・・?

 亮さんみたいに万人受けの顔では無さそう。






 お手洗いから戻ったら後輩二人が消えていた。

 彼らのドリンクまだ入ってたからお手洗い行ったのに、結局藤本さんと二人っきりになった。


 しまった、そういう事か、と油断した自分の行動の甘さを責める。



「じゃぁまた~」

 これは私もさっさと退散しようと荷物を持ちお店を出た。

 スマホとお財布しか持っていない身軽な藤本さんは余裕で私のすぐ後を付いて来て、駅方面へ行こうとする私の手をさらっと掴んでくる。


「二人きりになれる所に行こう。」

 爽やかに誘って来るけど、藤本さん・・・


「ほんとにやめて下さい。こうなるんだったらやっぱり来るんじゃなかった。」

「えーわかってたでしょ?」


 ・・・んん~つまり食事の先の誘いにも私は乗ったと思ったって事?


 んなわけねーだろ!!!



「・・・藤本さん、奥様を大事にして下さい。赤ちゃん小さいんだから奥様を支えてあげて下さい。あと・・・タイプじゃないんです!!」


 そこまでタイプじゃないって事はないけど、今は亮さんがタイプだし、彼以外考えられない。


 私に好かれていると思っていたのか、「タイプじゃない」と言われて落ち込む藤本さんの手を振り払い急いで駅構内へ逃げる。


 改札入ってチラっと見たけど、ショックで追って来られない様だ。



 うかつ過ぎる自分の行動を悔やみ、

(これは浮気?亮さんに言った方がいい?)

 と考えたけど、これが原因で『別れる』と言われるかもと想像したら怖くなって、絶対に言わないでおこうと思った。



 瞬間。



『ブーブーブー!』

 ブルゾンのポケットに入っていたスマホが揺れた。


 この後亮さんの家に行く予定だから、タイミングからも絶対亮さんだと思ってたので後ろめたさからビックウ!と体が跳ねる。



 が、メッセージを確認したら、


『すぐに折り返し電話下さい。おばあちゃんが危ないかも。』

 の母のメッセージだった。








 ********************


 秋葉副社長=父親の元に娘の綾乃が訪れてから1週間後。

 月曜の定例会が終わり、社長・副社長が会議室を出ようとしている中、亮の上司、平田部長が声を掛けられる。


「平田君。」

「はい。」

 呼ばれて声の主へ顔を向けると


「一緒に副社長室に来てくれ。」

 先日の出張の件かと全員が思いながらも、何故彼だけ名指しで呼ばれるのか腑に落ちなかった。




「何でしょう?」

「あー・・・君のところのタカヤマ・・・?」

「片山課長ですか?彼が何か。」

「ああ、そんな名前だったか。」

 一緒に出張に行った部下の名前を憶えてくれないなんて相変わらずな方だ、と平田部長は内心呆れる。



「仕事ぶりはどうだ?」

「優秀ですよ。意欲的で何度も売り上げに貢献してますね。相手先にもアタリが良く、部下には厳しい面もありますが、的確な指導で下の者にも慕われています。」


 平田部長の答えを顎に手をやり何かを考えている秋葉副社長。

「ふむ・・・」

「異動でしょうか?」

 営業部の直轄は社長なので副社長には異動の権限はない。平田部長は訝し気に秋葉副社長の挙動を見守る。


「いや、うちの娘がタカヤマ君をいたく気に入っていてな。」

「え?」

「出張の帰りに彼を見て一目惚れしたらしくてな。もう一度自分の気持ちを確認したくて私の忘れ物なんて嘘付いてわざわざ来てな。会えるかわからないのに会えたし、自分の事を好意的に見てたし運命だ!と言っていてね。」

 今片山だ、と教えたばかりなのに間違えるわ、私的な理由でそれも部外者が社内を訪れていたのに「わが娘ながらいじらしいじゃないか」と明後日な事を言っている副社長に、考えが追い付かない。



「娘はまだ学生で20歳になったばかりで彼とは年も離れている。一時の気の迷いだと数日説得したんだが折れなくてな。どうやら真剣な様だからまずはお見合いでもさせようかと。」

 副社長は平田部長の動揺もお構い無しに勝手にペラペラ話しを進めている。



「ちょ、ちょ、ちょっとお待ち下さい!そんな理由で部外者が社内を歩いていたのですか?」

 まずはそこからだ、と意見をするが、

「何だと、私の娘だぞ!」

 と、娘の行動について特に悪い事だと思っていない素振りの副社長を見て平田部長は只々呆れるしかなかった。

 言っても無駄だと。



「秋葉副社長・・・はぁ、で、私が呼ばれたと言う事はこの件を彼に伝えろ、と言う事ですね?」

「そうだ、話しが早くて助かるよ。すぐ伝えてくれ。今週の土曜だ。細かい事は直接伝えるからすぐこちらに来る様にも伝えてくれ。」

「はぁ・・・片山君にも事情があると思いますので私はお伝えするだけですよ。」

 嫌な役目を持たされた、と額を抑えながら渋々部署へ戻る平田部長だった。





藤本に「お前たち今の内に店出ろ」と言われてそそくさと出る後輩二人。


古「あんなイケメンに勝てるわけないよね?」

岸「その前に浮気の片棒担がせないで欲しいよな?」

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