第49話 遠いけれど甘い
ブクマありがとうございます(≧∀≦)
出張の初日、ホテルの自室に戻りシャワーを浴びて出るとベッド脇に置いたスマホがチカチカしていた。直感でしずかからだろうと思いメッセージを確認する。
『亮さん、鍵ありがとう。亮さんは鍵持ってるんだよね?』
案の定しずかからで、鍵を心配する内容だった。
(持って出ない訳ないのに心配性だなぁ)
今朝まで一緒にいたのに声が聴きたくなり電話を掛ける事にした。
『もしもし?』
「もしもし。具合どう?」
『うん、あまり良くなくて結局休んだ。昨日と同じ服だったし。だからお昼くらいまでお邪魔してました。すごく助かったよ。』
「そっかー・・・辛いね。」
何度も具合の悪い状態を見てるけど、ほんと可哀そうだな・・・
『亮さん鍵あるんだよね?』
「うん?あるよ。」
『いつ合鍵作ったの?』
「それ合鍵じゃなくて俺がいつも使ってたやつ。今不動産会社から預かってるマスターキー持って来てるから無くさない様気を付けないと。」
『そうだったんだ・・・無くさない様気を付けてね。』
フハっと笑ってみせたら、しずかからもふふっと笑い声が漏れた。
「あー早く帰りたい。」
『まだ初日でしょー。』
呆れた様にクスクスが聞こえるので、
「だってしずかに会いたいし。」
と言うとしずからも
『・・・私も亮さんに会いたい・・・』
と返ってきた。
んん~?まだ甘えん坊モードなのかな?
『亮さん、昨日泣いちゃってごめんね。困らせて。』
「うん?大丈夫だよ?キスだけなのが残念でした。」
いつも通りのニヤニヤで返事をするとさすがに伝わったのか、
『もう・・・』
といつもの照れ隠しを呟いていた。
ほんとに早くしずかに会いたいが、月曜から出張の報告会議があってバタバタするから月曜日はまず無理だろ?
休日出勤だからすぐ休みたいけどまず菅原休ませないとな~
さすがに9連勤の夜に会うのは俺も辛いかも・・・
「しずか?」
『ん?』
「すぐ会いたかったんだけどさ、9連勤しててさすがに辛いから、」
『うん・・・』
「水曜に代休取るし、次の日祝日だからまた泊まりおいで?」
久しぶりに家でまったりデートも良いよな。俺の家だけど、しずかにゴハン作ってもらったりして。
『水曜・・・ごめん、夜用事あるから泊まり行けない・・・』
「え?!空けておいてくれてるかと思った。」
『・・・・・月・火は空けてたよ・・・亮さん出張から帰ったらすぐ会おうって言ってたから。』
やばっ!不機嫌になった?
淡々とした声で帰ってくるとは思わなかった。
「あ、うん、そうだよね。因みに用事って?」
俺より先に予定が入っている場合、しずかは覆してくれない。ただ、何の用事なのかは気になる。
『女子飲み会。』
あ、良かった。女子会で。
「じゃぁ、木曜会うって事で。」
『うん、お仕事頑張ってね。』
「!!ありがとう。おやすみ。チュッ」
『おやすみなさい・・・・・チュッ』
お仕事頑張ってね、って言われるの、何か良いな・・・
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「課長~ここ、これでどうですか?」
「うーん、悪くないけど・・・」
副社長と別れ会社に戻り、明日の午後からの報告会議に使用する資料を作成している。
土日の出張にも文句を言いたいが、9連勤からの月曜報告会議とかどうかしてる。
先程菅原も同じ文句を言っていたが、今は早く書類を仕上げてしまおうとせっせとパソコン作業に勤しんでいた。
「やり直します。」
内容の助言を求めてきた菅原があっさりと修正する事を申告した。
「そうか?」
「課長がその反応なら上の方達に通じないですよね?」
そう、菅原は普段ヘラヘラしてるけど、要所要所で熱意を持って仕事する。
でなければ出張にもそもそも連れて行かない。
「課長ほんとに自分先代休頂いちゃって良いんですか?」
「ん?ああ、しっかり休んでくれ。もう1日分は悪いけど来週以降にしてな。」
「もちろんですよ~課長を出し抜いて2日今週休みとか出来ませんって。」
「そうか?さぁ!頑張って仕上げてメシ行くぞ!」
会社に戻って来た際に食事に行くか悩んだが、腹が膨れると眠くなって作業にならないので、先に書類を仕上げようとなった。
「うっすー!課長の奢り!」
「男には奢らん!!」
「そう言って少し出してくれる課長が好きですー」
「気持ち悪い事言うな!」
「あはは!部署内の男性陣みんな思ってますよ。」
「・・・手動かせ。」
うかつにも少し照れてしまった。
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月曜日、午後の会議の準備の為ランチを早々に取り、その用事で受付方面へ向かうと見覚えのある若い女性が受付カウンターにもたれかかっていた。
衿を抜いたデニムジャケットに、革だろうか黒いミニスカートにブーツという服装や受付での態度からも場違いである事がわかる。
「はい・・・あっ!ちょうど片山課長が通りががりました。片山さん少しお待ち下さい!」
受付の女性社員が誰かと電話をしつつもコソっと小声で俺を呼び止めた。
「え?何だろ。僕会議の準備あるんだけど・・・」
一応抗議したが、受付嬢は電話を切ると、
「副社長がお嬢様を副社長室までお連れして欲しいとの事です。」
と明らかに関係ない俺に案内を押し付けて来た。
「え?」
不服を漏らすと、
「近くを通りがかった社員に案内する様申し付けられまして・・・今一人休憩中の為、私もここを離れるわけにはいかないので・・・」
と彼女も眉尻を下げた笑顔で理由を言う。
お互い困ったなぁ、と言う表情を数秒もしていないのに、
「ねえ?話終わったの?早くして欲しいんだけど。」
と副社長の娘が若干苛つきこちらをせっついてきた。
第一印象から我儘な感じしてたけどその通りだな!
「はぁ、わかった。案内してくる。こちらへどうぞ。」
「はーい。」
視界の端にほっとした表情の受付嬢が見えた。
このコも何か無茶言ったりしたんだろうなぁ。
しかし・・・仕事中の父親に一体何の用なのだろう。封筒を手に持っているからそれを渡すのだろうけど、うちの会社は家での仕事禁止だし、まして大事な書類は持ち出し厳禁な筈・・・
まぁ、副社長だし、そんな事お構い無しに社外秘持ち出してそうだよな。
実際そうだとしたら大問題なんだけど。
「ねぇ。」
「はい?」
少し後ろを歩いているお嬢さんから声を掛けられわずかに顔をそちらに向けた。
「あなた、すっごくイケメンね。」
目を爛々とさせ、後ろ手に封筒を持ち興味深くこちらを覗き込んでくる。
「はは・・・若い方にそう言って頂けて嬉しいです。ありがとうございます。」
久しぶりに女性にイケメンって言われたな。女子大生?から見たら俺はおじさんの部類だろうが、社交辞令だとしても誉め言葉は素直に受け取っておこう。
「この前会ったの覚えてる?」
「覚えてますよ。靴は買ってもらえました?」
「そうなの!お店行ったら欲しいの以外にも可愛いのあって選べなかったから3つ買ってもらっちゃった!!」
息継ぎどこでしたんだろ、と思うほどまくしたて、興奮した様子で当時を語ってくれた。
しかし・・・靴を3つねぇ。少し頭が弱いのかな。
おねだり自体は悪くないけど、必要以上はやっぱり引くな。元カノ達を思い出す。
そして彼女の場合1足が無駄に高そうだな。
3足で10万超えてたりして・・・あり得る。
「ね、彼女いるの?」
靴の答えのテンションのまま俺に彼女の有無を聞いてくる。
「いますよ。」
君とは比べ物にならない位、色々な面で素晴らしい彼女がね。
「ふーん・・・」
何だ、聞いてきておいてつまんなさそうにして。
おっさんに彼女いるわけないってか?
しかしずっとタメ口か~
最近の若いコ達の中には『尊敬出来る人じゃなきゃ敬語使わない。』何て言ってる人もいるけど、初対面に近い内は年上だろうが年下だろうが敬語を使った方が自分の印象良くなるのになぁ。
まぁ、副社長が甘やかしてるんだろう。
コンコン
「副社長、お嬢様お連れ致しました。」
開いていた扉にノックをし、中にいた副社長へ声を掛ける。
「ああ、ご苦労だっ・・・む、君か。」
連れて来いと言うから連れて来たのに。しかも受付が俺の名前言ってただろうが。
さては社員の名前碌に憶えてないな。
「近くを通りがかったのが私でしたので。では失礼致します。」
不機嫌な顔の副社長を無視し一歩下がる。
「綾乃、どうしたんだい?」
娘に話しかける声は、当たり前ではあるが俺とは明らかに違う声色だ。
「忘れ物届けに来たよ!」
「うん?忘れ物なんてあったかな・・・」
遠ざかる親子の会話をどうでも良く思い、会議の準備をするべく元の道へと急いだ。
その後・・・
午後の出張報告会議中、副社長がずっと俺を睨んでいた。
案内までしたのに何なんだ!!
電話口でのチュッチュに作者の口から砂糖が出そうになりました(・∀・)アマーイ
次話は明後日公開です。ストックが少なくなってきました。少しお待ち下さいませ!!




