第44話 兄との遭遇
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スーパーの2階にあるフリーのテーブルに俺としずかと、しずかのお兄さんが三すくみ状態で座っている。
お兄さんは腕組みをし、足を広げて俺としずかを交互に見ている。
その様子が雰囲気在り過ぎで若干怖い。
因みにミツキと呼ばれた子供は椅子が3脚しかなかったのもあり、ちゃっかりしずかの膝の上に座って、気だるげにしずかの胸に頭をあずけている。
「あの・・・あんたと言ってしまって申し訳ありませんでした。僕はしずかさんとお付き合いさせて頂いております、片山亮と申します。」
お兄さんを「あんた」呼ばわりしてしまって印象は最悪な筈だ。少しでも挽回しないと。
「最初から名乗れば良かったものを。」
「いち君が怖い顔するから変な人だと思ったんだよ、いきなり怒鳴るの止めてよ。」
しずかがお兄さんに怯まず咎めている。さすが兄妹。
「付き合ってるのに挨拶来ないからだろう。お前も悪い。」
「30過ぎた妹の彼氏にいちいち干渉しないで。」
「えっ?!」
30過ぎ?!
俺年下だと思ってたんだけど。
27~28歳とかじゃないのか?!
「何だ、しずかの年も知らないのか。」
「どういう付き合い方してたって良いでしょう。」
しずかは眉を寄せあからさまに不快な表情をお兄さんに向ける。
しずかの年も知らないが、良く考えてみたら俺も年を聞かれていない。
今まで過ごしてきて年齢を気にする場面なんてなかったからそんな初歩的な事すっかり聞くのを忘れていた。
わずかに動揺していると、
「しーちゃん、このおじさん誰?」
とミツキ君が、会話に加わってきた。
「お、おじさん?!」
いや、幼児から見たらおじさんだよな・・・
初めておじさんと呼ばれた事に重ねて動揺してしまった。
「しーちゃんが大好きな人だよ。」
ミツキ君の頭を撫でてそう伝えるしずかの表情がとても柔らかく穏やかだ。
まるで自分の子供に話しかけているかの様に。
「ふーん・・・ふぁ、むにゃむにゃ・・・」
そんなしずかをよそに、ミツキ君は質問してきたくせに興味なさげに眠そうにし始めた。
「いち君、充輝眠そうだから帰って昼寝させてあげなよ。」
「一緒に家に来い。」
「嫌。」
「何でだ。」
「亮さんの事イビリ倒しそうだから嫌。それに挨拶するならいち君じゃなくて最初に両親に挨拶行くし!」
兄妹喧嘩さながらお互い睨み合っていたが、
「・・・報告待ってるからな。」
そう言いながら視線をこちらにずらし、立ち上がりつつも俺を睨んだ。
(こわっ!!)
「ほら充輝、パパに抱っこしてもらいな。」
「いや~しーちゃんだっこしてぇ。」
「しーちゃんこの後用事あるから一緒には行けないんだよ。」
「・・・いやだよお。」
「充輝!わがまま言うな!」
お兄さんがしずかからミツキ君を無理やりはがした。
「充輝またね。」
「いやぁあ!」
「じゃぁな。」
「うん、またね。いち君。」
ぐずるミツキ君を無視し、お兄さんは去って行った。
今度は俺の方を見なかった。
それが逆に怖い。
「お肉傷んじゃうから飲み物買ったらすぐ帰ろ?」
「う、うん。」
二人を見送り、何でも無かった様な顔でしずかが仕切り直す。
俺も余計に喉が渇いてしまったので、同意してカフェへ入った。
「しずかさ、何でお兄さんから逃げようとしたの?」
注文したドリンクが出てくる間に、逃げようとした理由を聞く。
「うん?さっきみたいに面倒な事になると思ったから。実際なったし。」
「でも、俺最初から言ってくれればちゃんと名乗ったのに・・・」
そうすれば、印象悪くなるのは多少回避出来たかもしれない。
「・・・ごめんね。亮さんが私の家族とあまり会いたくないのかなって思ってたのもあって。」
「え?!俺そんな事一言も言ってないよね?」
何でそう言う思考になるんだ?!
「・・・・・」
「しずか・・・?」
渋い顔をしているしずかに問いかける。
「お正月。」
「え?」
「お正月の時、実家が近くにあって、実家まで送ってくれたのに、お正月なのに、挨拶しようとしなかったから・・・」
「え?!あ、確かに・・・」
お互いにきまずい空気が流れる。
ちょうどタイミング良くドリンクが出てきたので、予定通り駐車場へ向かう事にした。
「あの時は、単純に挨拶とかそう言うのが浮かばなくて・・・」
歩きながら弁解をした。
言い訳にしかならないが、しずかには弁解しておかなくてはならない、と勘が言う。
俺、今まで付き合った女性で相手の家族に挨拶とかした事なかったんだよな・・・
「うん、そう言う思考にならないんだな、と思った。」
「え?!」
・・・もっと悪い空気になった。やっぱり弁解まずかったか?
「あの・・・俺今怒られてる?」
「怒ってないよ。」
確かに怒ってはいないのだろうが、何か達観した様な表情に見え、不機嫌を感じる。
「堅苦しく考えてはいなかったんだけど、あの時はまだ付き合ってやっと1か月くらいだったから、あまりそう言う挨拶とか私から言うのもな、と思って・・・」
・・・え、あ!そう言えば実家に送った後元気なくなっていったのって、もしかしてそれか?!
過ぎてしまった事はもう変えられない。
流れを変える為、もう一つ、すごく気になっていた事を聞く。
「しずか、いくつなの・・・?」
「35。」
「あれ?!すぐ答えるんだね。年聞かれたくないのかと思った。」
そして結構上だった!!
「・・・聞かれれば言うよ。聞かれてもいないのにわざわざ言う事ないでしょ。」
「でも俺彼氏だよ?」
「私だって亮さんから何歳だって、聞いた事ないけど?」
「あ、そうだった。」
「・・・・・」
あれ、この流れで俺に「いくつ?」って聞くものじゃないのかな。
「・・・聞いてくれないの?」
そんなに俺に関心ないのかな・・・
「30とか31歳でしょ?」
「え?知ってたの?今年31だから正しくなんだけど!」
どんぴしゃで言い当てられてめちゃめちゃ驚いた。
「いや、初対面で年下だとわかったし、大体それくらいかな、と思っただけで。」
「え?!そしたら何で俺の名前『さん』付けなの?」
俺は付き合うちょっと前から呼び捨て解禁したのに。
「出会った時クライアントだったし、呼びやすいから変える必要もないかと・・・」
「そ、そうなんだ・・・あ、あのさ!誕生日過ぎてないよね?」
「私の?過ぎてないよ。」
「いつなの?」
「7月30日。」
「良かった・・・・」
「・・・・・」
大事な彼女の誕生日をスルーするかと思った。そしてやっぱり俺の誕生日は聞いてくれないんだな。
先程よりしずかの不機嫌度が増した気がする。
何かお互い基本的な事を色々聞いていない気がするなぁ・・・
車に乗り込み発進するか、となった所で、
「待って!しずか35歳なの?!」
5歳も離れている事にも驚くが、20代にしか見えないしずかの外見にも改めて驚き再確認をした。
「嘘を付く必要が?」
「あ、あれ、怒ってる?」
車を出してしまったので表情は見えないが、声色で明らかな不機嫌を察した。
「うるさいな、と思って。」
「う、うるさい?!」
「年齢なんてただの数字なのに、何をそんなに騒ぐ必要があるのよ。4~5歳しか変わらないなんて大した差じゃないよ。」
「そっか・・・俺年下だとばかり思って。」
「・・・・・」
しずかの考え方が今までの彼女達と全然違ったのは年齢の差もあったのかもしれない。
時々甘えたくなる様な包容力は年上ってのもあるのかなぁ。
「すぐ作れるからソファ座って寛いでて。」
不機嫌を少しだけ残したしずかが、自宅に帰宅するとそう俺に告げた。
スーパーを出て年齢の話しをした後は会話が一切無かった。
今日行ったスーパーは以前カレーを作る時に行った激安なスーパーではなく、話す時間もそんなに無いくらい近い場所のスーパーだった、というのもあるんだけど。
今日のメニューは『塩麴鶏のチンゲン菜炒め』だと言っていた。
ソファから眺めるしずかの後ろ姿からもテキパキと作業しているのが窺える。
ニンニクの良い香りが部屋に広がってきた。
事前にセットしてあった炊飯器からも米の良い香りが漂ってくる。
しずかは俺とは違うメニューを作り、ちゃんと美味しい。
言い方が悪いのは歴代の彼女があまり美味しい料理を出してきた事がないからだ。
そしてしずかの作る料理が俺は好きだ。
(・・・うん、明日相談しよう!)
「お待たせ。」
静かな笑顔で料理が用意され、もちろん残す事なく頂いた。
「じゃぁまた来週?」
「うん。」
明日の用事があるので、今日はもう帰らなくてはいけない。
本当なら帰る前にエロい事する予定だったのに、お兄さんの事で気が逸れてすっかり忘れてしまっていた。
「外暗いからここで良いよ。」
玄関で靴を履いた所で、そう告げた。
「うん・・・」
元気ないな・・・
と思ったら玄関のドアノブに手を掛けた所で裾を引っ張られた。
「うん?どうした?」
「また会えるよね・・・?」
「えっ?!どうしてそんな事言うの?」
俺の疑問には答えず、
「帰っちゃ嫌だ・・・」
と裸足で横からハグしてきた。
すごく可愛いが少し心配になる。
俺も向き直して正面から抱きしめ直した。
(どうしたんだろう・・・)
しずかの髪を何度も撫でる。
「また泊まってく?」
「・・・・・ううん、明日用事あるんでしょう?ごめんね、我儘言って。」
と俺を見上げて笑うが、どことなく寂し気だ。
「でも・・・」
「大丈夫。気にしてくれてありがとう。」
俺から体を離すもそれでもまだ悲し気なしずかの頭をそっと包んでキスをした。
「ん・・・・・」
俺の袖を強く掴むしずかの憂いには全然気付けなかった。
二人の年齢、実はずっとぼかしてました。それこそ、前作から。
しずかさんは聞かれたらちゃんと答えるつもりでいたんですけどね、出会った時から。




