第4話 浮気許さないよ 前編
今日もラグビーの試合を終えた後しずかが家にやって来る。
もちろん駅まで迎えに行く予定だ。
先週よりは早く来られる、と言っていたので夕飯を家で食べよう、と伝えていた。
ジャケットの納品時、完成記念のごちそうを用意していたのだが、しずかの体調不良で不発に終わった。
大した量ではなかったのですぐに消費出来たが、虚しかった。
1週間ぶりにしずかに会えるのも嬉しいが、俺の料理をおいしい!と笑顔で食べる姿を想像して浮足立ってしまう。
「亮さん!」
改札から出てきたしずかが満面の笑みで寄って来た。
「お帰り。」
頭を撫でた後すぐに彼女と手を繋ぎ自宅へ向かった。
会えた事の嬉しさや、食事を喜んでくれるだろうな、と想像してたら顔が笑っていたのだろう、
「亮さん楽しそう。」
と笑顔で問いかけられた。
「しずかに会えるから。」
「え?!あ、そうなんだ・・・」
直球な返答にしずかが照れてしまった。
駅から自宅までは短い距離だがそんな彼女の手をしっかりと繋いで歩く。
頷く事しか出来ないが、今日の試合はここがすごかったと興奮して話す姿を時折上から見つめた。
(好きな事を話す時キラキラした目をするんだよなぁ。俺にはまだそれしてくれないんだけど。)
ま、徐々にだな。
「今日は良い物があるよ。」
一通りラグビーの話しを終えた彼女にそう告げた。
「え?」
あれ、何か訝し気に見てるな。あ、例の下着の事だと思ってるな。
まぁ、あれももう家に届いてはいるけど。
家に着き、コートを預かったら、
「驚かせたいから目瞑って。」
と伝えた。
「ええ?わかった。」
戸惑いながらも了承してくれた彼女の手を引きリビングまでエスコートする。
「もう目開けて良いよ。」
「はーい・・・わぁ!ごちそうだ!何で?」
テーブルに並んだいっぱいの料理を見てしずかがキラキラした表情を見せた。
おお・・・ここで見られるとは思わなかった。
「本当はさ、ジャケットの完成記念として納品してくれた日にお祝いしようと思ってたんだけど、しずかの体調でそれどころじゃなかっただろ?だから改めて用意する事にしたんだ。」
「え?!そうだったんだ。そしたらあの時料理いっぱい残っちゃったよね?」
「大した量ではなかったけど、ちょっと悲しかったかな。」
苦笑いしたらしずかが慌てた。
「あわわわわ。何て申し訳ない事を・・・」
「仕方ないよ。でも今日しずかがおいしく食べてくれると嬉しいかな。」
「それはもちろん!」
☆かぼちゃのポタージュ
☆ブロッコリーと枝豆とタコのサラダ
☆分厚いローストビーフ
を「どれもおいしい!!」
と満面の笑みで口にしている。その笑顔で俺も笑みが浮かぶ。
「亮さんてば天才。」
「そお?」
褒められるのは満更でもないな。
「ローストビーフ作るの大変?」
「そんな事ないよ。フライパンで作ったし。」
「炊飯器じゃないんだね。」
「炊飯器もやった事あるけど、ちょっと面倒いかな~。」
「フライパンのやり方今度教えて?」
「良いよ。じゃぁ今度はしずかが作って家で食べさせて?」
「う、うん・・・」
「何で照れる?」
「家で手料理ごちそうって何か・・・付き合ってるって感じがして・・・」
「今も付き合ってるんですが?!」
えへへ、と笑うのでこちらもつられてしまった。
料理全てをしずかが満足そうに平らげた所で席を立ち、冷凍庫からグラスに入ったシャーベットをダイニングテーブルへ置いた。グラス毎冷やしていたのでキンキンだ。
「デザートまであるの?!亮さん大好き!」
カクテルグラスに2盛りのレモンシャーベットを見てしずかが興奮した。
それ素で言ってくれると嬉しいんだが。
「これはさすがに作ってないよ。でももうひと手間を・・・」
「ん?」
はてな顔の目の前でシャンパンを注ぐ。
「わぁ・・・・・」
しずかがさらにキラキラした顔をしたので俺も大満足だ。
「私今口説かれてますか?」
ははっ 思わず声に出して笑ってしまった。
「俺はいつでもそのつもりなんだけどね。はい、完成。」
冬にシャーベットの種類がたくさん売ってるはずもなく、良く知っているアイス屋でのレモンシャーベットしか選択肢がなかった。色がイエロー一択なのがつまらない、と思っていた所、多分初物だろう、いちごを見つけて入手していたので、赤を添えて完成だ。
「・・・・・」
「顔真っ赤だよ。」
「だって・・・」
や~これは大成功かな?
「あ、あとはい、これ。」
そう言って薄い袋を渡した。
「何・・・?」
ガサガサと袋を開け中身を確認した所で、先程のキラキラした表情や照れた顔が消えた。
「これを着ろと?」
「え?!着てくれるから一緒に選んだんでしょ?」
中身は先週お願いして購入した、真っ白なひもパンとオフショルダーのベビードールだ。細かい名称はしずかに教えてもらった。
ベビードールの生地はシフォンだとこれもしずかに教えてもらった。うっすーい、着たら多分透け透けになる素材だ。
「そうだけど・・・つい先週その・・・展開早くない?!」
「ん~でもそれ着た方がしずかもきっと良いよ?」
「私の為?!」
「いや、ごめんなさい。単純に俺が見たいからです。」
「もう・・・最初からそう言ってくれれば私だって・・・」
そこではっとした顔をした。
「ん?何?」
ニヤニヤしすぎたのか、知らない!と顔を逸らされてしまった。
顔を真っ赤にしてシャーベットを食べ終えた後、
「お風呂・・・入らせて。」
と目も合わさずに言った。
「もちろん。あ、一緒に、」
「入らない!!」
調子乗りすぎたか~