第37話 ハッピーバレンタイン
「バレンタインって、チョコ以外に何か欲しい物ある?」
私の元気君告白事件や、亮さんのコーヒーちゃん火傷事件後、ごたごたもなくバレンタインデーが近づいて来ていた。
チョコ以外プレゼントをあげた事がないので、ソファで寛いでいる経験が多そうな彼に聞いてみる。
「チョコ以外?し、」
「私以外で!!」
絶対しずか、って言おうとしてた!!
「うーんそうなると特にないかな~」
やっぱり私かい。
「じゃぁ、思いついたら言ってね。」
「わかった。あ。」
「思いついた?」
何かを思いついた様にスマホをいじりだしたので、彼に近寄る。
「じゃぁこれ買って?」
「なになに?」
これこれ、と画面を見せてきたが、目に飛び込んできたのは水着を着ている女性だった。
「・・・えーっと、これは誰が着るのかな?」
「しずかに決まってるじゃん。」
「どこで着るの?冬だけど。」
「俺の部屋。」
ガっ!と両手で彼の頭を掴んで揺らす。
「この脳みそは!エロい事しか考えてないの?!バカなの?!!」
「ちょっ!やめろって!彼女との事なんてエロい事以外そう考える事ないだろ!」
は?
エロい事以外考える事ない?そう心の中で復唱し、心臓がぎゅうとなった。
「あれ?しずか、どうした?」
「やっぱり私とはエッチしたいだけなの?」
「何でそうなるんだよ!」
「だって、彼女との事なんてって、エロい事以外ないって自分で言ったじゃない!」
「言ったけど・・・あー!もう面倒くさい!」
「なっ!」
みるみる目に涙が溜まってくるのが自分でもわかる。
「面倒くさくってごめんね、か、帰るね・・・」
全ての言葉を言い終わると涙がぼろぼろ零れてきてしまった。
「ちがっ!そうじゃなくて!」
私がソファから立ち上がろうとしていたのを制止し抱き締めてくる。
「説明が難しくて面倒くさいって言ったの!しずかが面倒くさいんじゃないよ!」
「ほんとう?」
鼻を鳴らして聞く言葉が涙でダミ声だ。
「本当!!」
「えーん!」
「ごめんって・・・・」
よしよし、と頭を撫でられた。
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(ああ!俺また泣かせて・・・)
俺、迂闊すぎるな・・・
前『そういうの嫌い』って言って泣かせて、今もまた・・・しずか結構繊細だから気を付けないといけないのに。
「大好きだよ?説明が足りなくて泣かせてごめんね?」
おでこや瞼にキスをしたら少し泣き止んだ。
「水着は何の為ですか?」
冷静になったしずかが口を尖らせながら聞いてきた。
「えーっと、それはエロい事をする為ですが?」
「いつもしてるじゃない。」
頬を膨らませて抗議してくる。
「あと、チョコペン買って。」
「ん?何かわかってきたというか・・・」
「チョコペンをしずかの体にかけたい。」
この人本当何言ってるの?とでも言っている様な、苦虫をすり潰した様な顔を俺に向けた後、息を吐き顔を両手で覆った。
「・・・それは亮さんは嬉しいの?」
何だこいつ、みたいな視線をゆっくりと向けられる。
「すげー嬉しい。多分すごい興奮する。」
「多分?経験談があるんじゃないの?」
「ないよ。普通は面倒くさくってやらないだろ。掃除とか大変だし。」
「その為の水着?」
「まーそれもある。」
「も・・・?」
(俺の部屋でしずかが半裸、っていうのが良いんだよな~言うと怒るだろうから黙っていよう)
「却下。」
「ええ?!」
目を据わらせ、口を尖らせ、反対された。
「何かさっき面倒くさいとか言われてむかついたから却下。」
「ええ?ごめんって。」
プイっと横を向かれてしまった。
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(うーん、俺がまた水着用意しとくか~)
この前却下されたけど、こういうイベントで楽しまない手はない。
俺がまた買っておこうかな、と仕事中不謹慎ながら思っていたら、しずかからメッセージが入って来た。
『亮さん、バレンタインデーは平日ですが』
『あーそうだよね。当日じゃなくてその週末にする?』
こそっと移動し、返事を送る。
当日も会ってその週末も会う、にしたらばっちりだな、と思いメッセージを入れ直そうとしたら、しずかから驚く内容が届いた。
『私、15日有給とります。』
『え?!』
しずか、そ、それって!!
『どういう意味かわかる?』
『わ、わかる、めっちゃわかる!』
『めっちゃわかるのね・・・』
『俺も有給取るわ。』
『・・・お好きに。』
めちゃめちゃ楽しみになってきたーーー!!
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バレンタインデー当日、仕事帰りに原宿で食事をし、俺の自宅に戻ってきた。
しずかが明日休みを取ってくれたのに合わせて俺も休みを取ったので、この後まったり・・・あ~まったりは出来ないか、と玄関で靴を脱いでいるしずかの後ろで隠れてニヤニヤしていた。
「デザートは手作りティラミスです!」
「まじで?!ティラミスって作れるんだ?」
リビングへ戻り、しずかの手元にずっとあった紙袋を掲げて楽しそうに彼女が言った。
「作れるよ。あと・・・おいしいよ♪」
「早く食べたいな~」
お菓子を作る事は俺自身は無いので、単純に楽しみだ。
「あのさ、お風呂入ってゆっくりしてから食べない?」
「ん?そう?俺は構わないけど。」
「じゃぁ決まり!はい、お風呂入ってきて!」
「おー?わかった。」
何か追い出された感。
まいいや。どうせティラミスの後にしずかも食べるし。
「出たよ~」
髪の毛を拭きながらリビングへ戻り彼女へ告げる。
「じゃぁ、私もお風呂入ってくるね。あ!冷蔵庫覗いちゃダメ!」
「え~喉乾いたんだけど。」
「じゃぁ私が取る。何?ビール?」
「水。ティラミスならシャンパンでも飲む?」
「え、そんな大層な事しなくても・・・はい、お水。」
「まぁまぁ、二人のハジメテのバレンタインデーだしさ・・・」
ピッチャーから注いでくれたグラスの水を受け取りながら、しずかの耳元で囁いた。
「エロい風に言わないで欲しい・・・」
シャンパンを受け取って冷蔵庫へ入れた後、耳まで真っ赤にしてバスルームへ向かった彼女を見送った。
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「お風呂ありがと~」
「どういたしまして~」
ソファでスマホをいじりながら彼が返事をした。
「ティラミス用意するね。」
「ほーい、じゃぁ俺はシャンパン用意するかっ!し、しずか?」
「冷蔵庫開けるね~あ、あとキッチン鋏借りるね。」
「しずかさん?」
「お皿に盛ってたティラミスに湯煎してたチョコペン使って・・・あ!ふふ、ちょっと失敗しちゃった。」
彼が困った様な表情でキッチンに近付いてきたのが視界に入った。
「はい、ハッピーバレンタイン!!」
中央にティラミスを盛って端に『だいすき♡』、と書いたお皿を彼の前へ差し出した。
「水着・・・着てくれたんだ・・・チョコ色だね。」
正面に立ち、私の腰に手を回したと思ったら軽くキスされた。素肌に触れる手の平が暖かい。
ティラミスが潰れる!と思って胸の上までお皿を上げる。
「ちょっと!ティラミス食べてよ!」
「うん・・・食べさせて?」
「えっ・・・もう・・・」
彼の穏やかな笑顔に照れつつ、カトラリーに入っているスプーンを取って食べさせた。
「はい、あーん。」
目を閉じ、口を大きく開けた彼の中にスプーンを入れる。
(か、かわいい!!)
あと、食べさせるのが意外と楽しい!
「おお!めっちゃうまい!」
目を見開き感動してくれている。
「ほんと?良かった。」
「俺も食べさせてあげるね。はい、あーん。」
私の腰を抱いた体勢のまま、私の腕を掴んで同じスプーンで食べ合いっこして完食した。
シャンパンの事は二人共頭から消えてしまっていた。
その後の事は言うまでもなく・・・
何度目かの、男性を性的に煽ってはいけない、を反省する羽目になった。
私の学習能力の無さよ・・・
イチャイチャ回でした(・∀・)




