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二人で幸せになるために  作者: 新浜ナナ
第一章
31/88

第31話 とばっちりのテディ

 インターホンを2度押したが応答がない。

 不安に思っていると、チェーンの音と鍵の開く音がした。


 音はしたのに、ドアが一向に開かない。

 少し待って、恐る恐る開けたらしずかの姿は玄関にはなかった。


「しずか?上がるよ。」

 相変わらず応答がなく、リビングへ向かうと彼女は洗濯物を取り込んでいた。


「しずか・・・」

 声を掛けても返事をしない。それどころかこちらを見ようともしない。

 明らかに口が尖っていて、その表情のまま布団に潜り込まれてしまった。


 その態度に若干の苛つきはあったが、ここでまた喧嘩してはいけないと深呼吸して落ち着かせた。

 何よりこっちを一度も見ない事がすごく悲しくもあった。


「いない事にするなよ・・・」

 布団の中のしずかに声を掛ける。



「勝手にして、って言われて勝手にここまで来ちゃったけど、ちょっと反省してる・・・やっぱり帰った方が良いかな?」


『グスグス・・・』

 布団の中からこもった鼻声が聞こえる。


(えっ泣いてる?無視されて泣きたいのこっちなんだけど)

「しずか?」

 布団を無理やり引っぺがす。


 丸まって寝ころぶ体勢のお腹に、例のホッカイロにもなるテディベアを抱えていた。

「え、かわ・・・」

 ギロリ!!

 文字にしたらきっとこんな感じだろう、目線だけ立ったままの俺へ向け思いっきり睨まれた。


 ゆっくりと起き上がって布団の上に座り込んだしずかを改めて見たら、やっぱり泣いてた。


「何で泣いてるの・・・?」

「生理で気が立ってるって言った!」

「だから構わないって言ったじゃん。」

「だから私は構うの!ってさっきと一緒じゃない!!」


 そう言って思いっきりテディベアを投げられた。

 中に繰り返し使えるジェル状のホッカイロが入っていて重みがあるからやや痛い。

 俺の腹に当たったテディベアが力なく足元に落ちた。


「こうなるってわかってたから来ないでって言った、の、にぃ!ひック!」

 ボロボロに泣き出してしまった。ここまで泣かせたのは初めてだ。


「うぅ・・・ひ・・・・」

 手で顔を覆って泣き顔を見せない様にでもしてるのか。

 そのしずかを見て何を言って良いのかわからず、ただ黙りこくるしかなかった。


「何で・・・告白されっ・・・てるの?なっんて・・知らないよ!ちゃんと・・・断ったって、い、言ったのに・・・隙って、なん、なの?何をもって、好きになって、くれ、た、かなんてわからないのに、隙なんて、私の、せい、にしないでよ!!私は亮さんのぉ、っ犬や猫じゃっ、ないん・・・だから、首輪付けるみたいな、男避けの、為、の、指輪なんて貰ったって、嬉し、くない!!!」


 突っ立ったままの俺に、この前言い合いになった件を泣きじゃくりながら吐き出した。


「部屋だ、って片付い、てないから、嫌なのに!」

「片付いてるように見えるんだけど・・・」

 特に散らかった様子はなく、どこも綺麗に見える。


「絶対来るって思ってたから無理やり片付けたの!そしたら案の定生理痛悪化したし!!」

「え?!それはごめん、でも片付いてなくたって構わないのに・・・」

「私が嫌なんだってさっきも言った!」

「・・・・・」

「こうやってヒステリックな状態で会話するのもほんとは嫌なの!!」

 両手を布団に付き俯いたまま、こっちを向いてくれないしずかの頭を撫でた。

 急に触れられたからか、しずかの肩がビクっとなった。



「こんな面倒な女、嫌いになるでしょう・・・?」

 やっとこちらを向いた彼女は、髪が乱れ、涙で顔もグチャグチャだ。


 布団に跪き、しずかを胸に抱える。

「嫌いだったら、ここまで来ないと思うんだけどな・・・」


「心配してここまで来てくれてる人にひどい事言ってるのに・・・」

「来ないで、と言ってるのに無理やり来たのは俺だからなあ。」


 しずかは俺に抱き着いてはくれず、ただ黙って話しを聞いていた。


「この前の告白の件はごめん、断ったなら報告しなくても良さそうなものを、わざわざ言ってくれたのにさ、何で他の男が近寄るんだろうって思っちゃって。」

「・・・・・」

「好きなヤツなんて作らせない!てこの前豪語したのにさ、その可能性がしずかの目の前に現れてすごく焦ったんだよ。」

「・・・・・」

 話しを聞いている内にしずかは泣き止み、落ち着いてきた。


「しずかはさ、自分がモテてる事に無自覚だから、これは何とかしないとと思って男避けの指輪なんて言った。」

「モテない。」

「モテてるの!」


 そう言ってしずかのぷにぷにのほっぺを笑いながら軽くつねった。


「男に見られてるって気付いた方が良いよ。」

「意味がわからない・・・」

 見られているのが何だ、と思っているのかもしれない。チラリと見たしずかの口が尖っている。


「確実に怒らせたのに、今日会えないってなったらさ、急激に不安になってね。今日逃したらまた来週になっちゃうだろ?もしかしたら来週も会わないって言い出すんじゃないかって、さらに不安になって。」

「・・・・・」

「だから来る事にしたの、看病を言い訳にして。」

 相変わらずこちらを見ようとしないしずかを見下ろし、後頭部にキスをした。


「そしたら電話口でどんどん怒り始めるし、電話切られた時はちょっとイラっとしたけど、向かってる時はあれ、やっぱまずいかも、って焦ってたよ。」

「・・・私も、断っても来るって言い切る人にイラっとしてたんですが・・・」


「わかってるよ。」

「んっ。」

 体を少し屈めて今度はしずかの瞼にキスをした。


「しずかはもう俺と付き合いたくないって思ってる?」

 ブンブン!と勢い良く彼女が顔を振った。


「思ってないよ!可愛くない態度取って愛想尽かされるかと思ってたし。」

「それは俺が思ってたなぁ。セクハラも多いし、いよいよやばいと思ってた。」

「セクハラは多いね・・・でも、亮さんのなら、そこまで・・・嫌いじゃないよ・・・」

 ソロソロと、俺を見上げたしずかの潤んだ表情と言葉に、やっと安心する事が出来た。



「押し倒して良い?」

 その顔は俺のスイッチになり得るのに、しずかは無自覚に俺に晒すんだよなぁ。

「ダメに決まってるでしょ!!」

「やっぱダメか~」

「・・・・・」

 項垂れたら頬に感触があり、その後すぐ唇にも触れる感触があった。


 顔を真っ赤にしているしずかがこちらを見つめている。

「心配して来てくれてありがとう。大好きだよ・・・でも今日は出来ないからこれで勘弁してね?」

「ちょっ、しずかさんもう1回!」

「もうしないってば!」


 今度は近距離でテディベアを投げられた。








 結局その日は、お許しが出たのでしずかの家に泊まった。

 喧嘩して仲直りしたのと、しずかが生理痛で弱っている為か、終始甘えてきたのもあって、実際甘々に過ごした。




 昨日はしずかのキスのお返しの後すぐこちらからもキスをした、ちょっとエロいやつ。

「もう・・・したくなっちゃうからやめて・・・」

 我ながら行き過ぎたかもしれない。しずかが乗り気(と思い込む)なのに、この先は出来ないのに調子乗ってしまった。


 最後辛いの自分なのにな!




 ********************


「あ、そうだ。告白してきた人さ、ラグビー関連の知り合いなのね。」

 布団の上で胡坐をかいて座っている俺の隙間にしずかが座り、俺に抱き着いている。

 胸に頭を着けたまま顔だけ俺の方へ向けた。


「うん?」

「ラグビー、飲み会多いから一緒になる事あるかも。なるべく近寄らない様にするけど結構前からの知り合いで、あまり邪険にはしたくないから、うっかり一緒になっちゃったくらいは許してね?」

「それはまぁ仕方ないね。」

 しずかの頭の上に顎を乗せ、ふぅと溜息を着いた。絶対ダメだ!何て言ったらきっとまた揉める。


「ただ、食事行きましょうって言われて、『3人以上なら良いよ』って言っちゃったんだよな・・・その後しっかり告白されて断ったからもう言われないと思うけど、個人で誘われたらそれは断るね。」

 ん?どっかで聞いたことのある話しだな。


「しずかさ・・・その人とはどれくらい前に知り合ったの?」

「私がラグビーはまってすぐだから2年くらい前かな?」

 うん、それも聞いた事あるな。


「その人どういう見た目?」

「え?うーん、えっと坊主に近い短髪で黒くて体格良くて、あ!ジャイアンって感じ」

 俺が知ってるやつに似てるな・・・


「そいつの名前は?」

「ええ?えっと・・・・何とか 元気君だね、苗字忘れた、呼ばないから。」

「岡田元気?」

「ああ、そういえばそんな気も・・・って何で知ってるの?」

 はぁ・・・と先程よりも深い溜息を着いた。


「・・・それ俺の部下だわ。」

「えっ・・・?」

「・・・・・」

「日本て狭いね!」

「あいつ・・・ちょっとシメとく。」

「やめて下さい。」

 まさかの岡田だったとは。そう言えばあいつ大学でラグビーやってたって言ってたな。


 んん?岡田が『絶対自分に気がある』とか言ってなかったか?

「しずか昔岡田の事好きだった?」

「えー?何なのさっきから。好きか嫌いかだと好きの部類だけど、恋愛感情の好きはないよ。」

「とびきりの笑顔で話しかけてない?」

「人と話す時笑顔を心がけてますけど?」

「・・・・はぁ、岡田かわいそう。」

「何でよ?!」








 午後になり、今度はソファに足を広げて投げ出し間にしずかが座っている。

 そのしずかはお腹にホッカイロ兼テディベアを抱いている。

 腰に鈍痛があると言うので暫くさすってあげている。


「亮さぁん・・・」

「うん?」

「大好き。」

「・・・元気な時にまた言って。嬉しいけど手出せないから辛いわ。」

 そう言うとしずかはもぞもぞと動き真横へ向いた。


「横向きで抱っこして?」

「人の話し聞いてた?」

 甘えた声で俺に問いかけ、太ももを俺の太ももの上に乗せてきた。俺の腰に腕を回せば、胸に頭をスリスリしてくる。


(・・・かわいいからいっか)

 具合悪い時とベッドの上だと猫みたいに甘えてきて可愛いし、素直なんだよなぁ。

 もうちょっと普段の時も甘えてくれたら嬉しいんだけど。


 肩を抱き腕に納め、しずかの頭に頬を付け、考える。



 今回嫉妬が行き過ぎてまた別れに発展するかと思うくらい焦った。


 多分しずかは誰にでも笑顔で話す。

 一緒に食事に行けば店員にも愛想が良いから、本当に普段からそうしてるんだろう。


(哀れ、岡田・・・・)


 岡田は俺の事絶対好きだ、って言ってたけど、そう思ってるヤツが他にもいそうだなぁ・・・

 はぁ、またどこかで告白されたりして・・・


 猫の様にスリスリしてくるしずかを上から眺め、深い溜息を着いた。





岡田元気君は【お針子さんに手を出さないで下さい!】の8話に出ています。

あの後すぐ彼女にフラれました。可哀そうに(*´Д`)フウ


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