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二人で幸せになるために  作者: 新浜ナナ
第一章
28/88

第28話 元気

 ガコンっ!!!

 バサ!!!

 バラバラバラ!



「ちょっ!岡田君大丈夫?」

「う、うん。ごめん、箱崎ちゃん、ありがとう。書類拾ってくれて。」



 何やら騒がしい音がするからどうしたのかと音の方へ視線を送ると、部署の部下、岡田がゴミ箱に躓き、その拍子に棚の書類に手が触れ、豪快に書類等を床にぶちまけてしまった様だった。


 同期の箱崎が見かねて書類を拾ってあげている。



 岡田は体格が良くスポーツ刈りの日焼けした大男で、言うなれば人懐こいジャイアンて感じのやつだ。

 そんな大男なものだから、足元のゴミ箱にも気付けなかったのだろう。こういった事態は稀にあった。




 対して箱崎は肩くらいの黒髪を一つ結びにしている、色白でおとなしめの印象の女性だ。

 同期の失敗を良くフォローしている姿が岡田のジャイアン具合と相まって、周りに『しずかちゃん』と言われる事がある。




 ・・・そう言えばうちのしずかちゃんは気が強いな。

 俺が拗ねたり怒ったりする時、怯まず噛みついてくる時がある。

 普段は猫っぽいのにそういう時だけポメラニアンがキャンキャン言ってる様に見えて愛しさしかない。




 ピーピーピー

 ガガガっ!

「ああ!コピー機が!」



 せっかくしずかの可愛い言動を思い出していたのに、騒がしい音で現実に引き戻される。



「ねぇ・・・岡田君、これ違う資料だよ?!」

「ええ!!!50部刷っちゃったよ!どうしよう!」



「・・・・・」



 他の部下がコピー機を見ている間に立ち上がった岡田が、またゴミ箱を蹴飛ばし、それが俺のデスクの方へ向かってきた。



 ガン!!!


「・・・・・岡田ぁあ!ちょっと来い!!」

「ひいっ!申し訳ありません!はい!!」

 大きな体を小さくし、怯えた表情をするが、応答は体育会系さながら俺に返事をした。



「片付けは本人にやらせるから、みんなは自分の仕事する様に!」

 とは言っても、床に散らばった書類はもう回収済だ。



「部長、申し訳ありませんが、少し岡田と打ち合わせて来ますので。」

「うん、そうだね。頼んだよ。」

 この場を離れるので上司にも確認を取る。俺が連れて行かなかったら、きっと温和な部長が岡田を連れ出していただろう。



「片山課長どちらに行かれますか?お茶出しますか?」

 箱崎は良く気が利くな。

 打ち合わせなので通常お茶は不要だが、岡田の異常に気を遣ったのだろう。


「大丈夫、いらないよ。下のカフェテリアで少しだけ打ち合わせしてくるから。何かあったらケータイに連絡くれ。」

「「「畏まりました。」」」


 俺に連行されて行く岡田を憐れむ事もなく、皆は仕事を再開した。






 ********************


「で?」

「は、はい。何でしょう?」

「何でしょう、じゃない。いつも以上にミスが多いの、自分でもわかってるだろ?原因は何だ。体調が悪いなら今日は帰る、でも構わない。」

「い、いえ!体調が悪いとかではなく・・・」

 ビルの階下にあるカフェテリアでブラックコーヒーを二つ用意し、岡田にも渡した。

 ここのドリンクは無料なのに、割と美味い。



「歯切れが悪いな、このままだと仕事に支障が出まくりだから何があったのか話してみろ。」

「・・・・・プライベートな話しでも、ですか?」

「話したくないなら無理に聞いたりはしないけどな。」



 大きな体してるクセに、縮こまってもじもじチラチラと俺を上目遣いしてくる。

 男にそれをやられても気持ち悪いだけだ。

「あの・・・気になっていた人にフラレたって話しなんですけど・・・」

「・・・・・」


 内心、ふざけんな!と思ったが、聞きだそうとした手前、聞かない訳にもいかない。




 プライベートな話しでもあるので、カフェテリアの中央辺りに座り、岡田の話しを聞いてやる事にした。

 入口付近で恋愛相談、正確には話しを聞くだけだが、通りがかる他人の耳に入ったら仕事中何してるんだ?となるので、午前中で人がいない、会話も廊下には届かない事の配慮だ。




「俺、気になる人が2年くらい前からいたんス。たまにしか会わなかったけど、会うといつもとびきりの笑顔で話してくれるから、俺に気があるんだろうと思ってて。」

「ス、じゃなくてきちんと、です、と話せ。」

 俺は腕組みをして岡田の話しの続きを聞いた。


「は、はい。でも、当時付き合っている彼女がいたので、特に俺から何かするって事はなくて。」

 まぁ、それが普通だな。

 ・・・昔の俺だったら連絡先くらいは聞いていたかもしれないが。



「何もしてなかったんですよ。で、俺、当時付き合ってた彼女と3か月前位に別れてて、その間、気になる人にはずっと会えなくて。」

「うん。」

 何か、話し見えてきた。


「一昨日やっと、その人に会ったら、何か前よりめちゃめちゃ綺麗に・・・可愛くなってて!」

「へぇ。」

 そういう時は大抵焦るもんだ。


「何か、勘が働いたんス・・・です。思い切って食事に誘ったら、『3人以上なら良いよ』って!」

「頑張ったんだな、でも2人じゃないんだ?」

 その時点でもう結果が予測できるが。


「そうなんです!嫌な予感したけど、何でですか?って聞いたら『彼氏に心配かけちゃうから』って・・・彼氏いたんですよ!」

「2年も空いてたらそりゃあ相手にも何かしらあるだろう。」

 そもそも、2年前から元々彼氏いたって可能性もある。



「違うんです!彼女と別れるちょっと前に、気になってた人にも会う機会あって、そこでは彼女と別れるとは思ってなくて、その人とも何気ない会話しかしてなくて。で、一昨日フラレた人に聞いたんですよ、彼氏さんとはどれくらい付き合ってるんですか?って。」

「うん。」


「そしたら『2か月くらいかなぁ』って!前の彼女と別れてわずか1か月の間に2年気になってたその人に彼氏出来ちゃって、俺フラレるって、俺可哀そうじゃないですか?!」

「うーん、タイミング悪かったな。」

 苦笑いするしかない。



 確かにその1か月の間で岡田が動いたら何かが違っていたのかもしれないが、全てはタラレバだ。



「・・・課長は彼女とっかえひっかえだから次探すの大変な人の気持ちわからないでしょうね。」

 恨みがましい言葉と目線を俺に送るのはお門違いもいい所だ。



「おいこら。本来ならこんなプライベートな話で時間取ったりしないんだからな。付き合いたてなら奪うのは難しいだろう。諦めろ。そして切り替えて仕事をしろ。」

「鬼!!」

「上司に向かって鬼・・・?」

「ひい!申し訳ありませんでした!」

「全く・・・」



 はぁ、無駄に疲れた。

 今日夜しずかに会うし、癒してもらおう。




大学でスポーツ頑張ってると面接通りやすかったり、するらしい。

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